adieu「よるのあと」が想い起こさせる大切な存在 孤独に寄り添う歌声を聞く

adieu「よるのあと」の歌声を聞く

 女優・上白石萌歌が、音楽活動を行う際に使用しているadieu(読み:アデュー)名義で、明日4月9日放送の『ミュージックステーション3時間スペシャル』に出演する(テレビ朝日系、以下『MステSP』)。adieuは、3月29日に1周年を記念して放送された『CDTVライブ!ライブ!』(TBS系)で音楽番組での初歌唱を披露したばかり。その際にも「歌声に圧倒された」「歌い出した瞬間に一瞬で惹き込まれた」など、番組を視聴したファンの声がSNSを席巻。女優としての彼女しか知らない人にとっては、新鮮な驚きであったに違いない。自身も「思った以上にすごく楽しく歌わせていただきました」と語り、初めての歌番組を楽しんだ様子だ。今回、『MステSP』で歌唱するのも、この時と同じく「よるのあと」に決定。各配信サイトでの再生回数が1,200万回を超える話題曲で、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか早くも期待が高まっている。

 行定勲監督が手がけた映画『ナラタージュ』の主題歌として、野田洋次郎(RADWIMPS)作詞・作曲による同タイトルの曲を発表したのが2017年。本作がadieuとしての初作品となったが、当時は「都内の高校に通う17才の女子高校生」という以外、素性を隠してのリリースだった。謎めいたシンガーの登場に音楽界は大いに沸き、その正体についてさまざまな噂が流れることになる。そして、2019年に上白石がTwitter上で、adieuが自分であることと、今後もadieuとして音楽活動を続けていくことを公表。俳優と歌手活動、二足のわらじを履く人は多いが、すでに名の知れた存在でありながらメディアでの大々的な発表を行わない異例の宣言に、アーティストとしての決意を感じたのを覚えている。その後、2019年末に1stミニアルバム『adieu 1』をリリースし、一夜限りのライブイベントに登場。それから1年以上の間、着々とadieuというアーティストの存在を広めるきっかけとなってきた曲が「よるのあと」だ。

adieu [ よるのあと ] MUSIC VIDEO

 本作は小袋成彬・Yaffleが率いる気鋭の音楽集団・Tokyo Recordings(当時・現TOKA)が全曲サウンドプロデュースを務めた『adieu1』に収録された1曲。作詞作曲はFINLANDSの塩入冬湖が手がけ、〈あなたが嘘をつかなくても 生きていけますようにと 何回も何千回も 願っている〉という切ない歌詞と夜の底をたゆたうようなメロディとストリングスのアレンジ、そして優しく透明感のあるadieuの声が一体となり、どこか幻想的な雰囲気さえ漂わせている。発表から1年を経てもロングヒットは続き、本人出演のMVの再生回数は500万回を突破。特にコロナ禍に突入して以降、飛躍的に伸びているという。また、YouTubeのコメント欄には自身の恋人と別れてしまった人や、会えない人、家族を亡くしてしまった人など、失ってしまった大切な存在に向けたメッセージやエピソードを書き込む視聴者が殺到しているのも独特の現象で、その背景には大切な人と会えない時間が増す中で、恋人(または元恋人)への募る思いや失ってしまった人への想いを「よるのあと」を聴くことで昇華させている向きも伺える。おそらくはadieuの歌声が人々に寄り添い、そっと癒してくれるような慈愛に満ちた響きを持っているから。誰もが孤独に陥りがちな今、求められている歌声と言えるのではないだろうか。

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