adieuのアーティスト活動が本格的に幕を開けたーー初ライブをレポート

adieu、初ライブをレポート

 流れ始めた映像の中、一人の少女が自転車に乗って海沿いを走っている。晴れた空の青を全身に浴びながら、海からの風を切り裂くように力強く、真っ直ぐに。やがて彼女は夜にたどり着く。

「すべての始まり。彼方への未来」
「今日も私は行くだろう。私の心とあなたの心を重ねて」

 そんなナレーションを経て、ステージには映像の少女が現れた。彼女の名前はadieu――。

 2017年に公開された映画『ナラタージュ』で同タイトルの主題歌を歌唱し、adieuは大きな注目を集めた。だが、顔も本名も伏せられた状態だったため、その素性に関してもまた様々な憶測を集めることとなる。そこから約2年。2019年の9月にadieuが女優の上白石萌歌であることが明かされ、アーティストとして本格的な音楽活動を展開していくことが発表された。そして同年11月27日には最初の足跡となる1stミニアルバム『adieu 1』をリリース。その購入者を対象に開催されたのが、この日のスペシャルショーケースだ。超満員の代官山LOOPを舞台に、adieuの初ライブが始まった。

 ギタリスト2人に、ベース、ドラム、キーボードという編成のバンドをバックに、adieuがそっと歌い始める。1曲目はミニアルバムと同じく「強がり」。サウンドに寄り添う柔らかな歌声が心地いい。目を閉じ、俯き加減で歌っていたかと思うと、ふと目を開けて客席に視線を投げかける。そこには彼女の歌に対する真摯な思いと、強い意志が宿っている。呼吸のように自然と聴き手のカラダに入り込む声。だが、全身をくまなく巡ったそれは、忘れられない爪痕をしっかりと残していく。

 「こんばんは。adieuと申します。こうしてみなさん一人ひとりの顔が見える場所でお逢いできる機会は今までなかったのでとてもうれしいし、同時にドキドキしています。1曲目からとても楽しく歌わせていただきました」

 そんな初々しいMCに続き、「adieuの始まり」であり「adieuの音楽の核」になっているという「ナラタージュ」へ。どこか儚げな印象を与えつつも、その裏にある凛とした強さが際立つ曲。間奏明けではピアノの伴奏のみというシンプルな音像の中、生まれ持った歌声の魅力を鮮烈に届けていく。息づかいさえも感じさせる繊細なボーカリゼーションはadieuの大きな個性になっていくはずだ。

「みなさんを前に歌うとすごく歌の世界観に浸れるというか。いい緊張感で歌わせていただいています。次の曲はアルバムの中で一番好きな曲です。すごく純粋な恋心の歌のようでいて、毒々しい愛のメッセージが感じ取れるかなと思います。みなさんそれぞれの解釈で聴いてください」

 この日、最後のパフォーマンスとなったのは「よるのあと」。そぎ落とされたバンドサウンドを慈しむように声の雫を優しく落としていく。素朴さを感じさせていた歌は、曲の展開に合わせて次第に熱を帯びていく。そして、大きな広がりを感じさせる歌へと昇華し、美しい景色を描いてエンディングを迎えた。わずか3曲のライブではあったが、彼女の圧倒的な才能と無限の可能性を感じるには余りある時間だったように思う。

 ライブ後に開催されたトークショーでは、初ライブの感想やミニアルバムの制作エピソードについて語り、ファンからの質問にも気さくに答えてくれたadieu。最後には「歌をやっていく上では、こうやってみなさんに直接お届けしていきたいです。そのために、これからもライブをする機会を増やせるように精進していければなと思います」と今後の展望も熱く語っていた。この日のショーケースに掲げられていた“unveiling”には“除幕”という意味がある。そう、アーティストとしての彼女の活動はこの日、本格的に幕を開けたのだ。ここからどんな音楽を、どんな歌を届けてくれるのか。それが楽しみで仕方がない。

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Shot with NOMO 135 T3.
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