小岩井ことり、声優×DAW女×DJで開拓する独自の道 「機械はむしろ、人間よりも身近にいたものでした」

小岩井ことり、声優×DAW女×DJの道

最大限コストパフォーマンスがいいように作る

ーー(笑)ちなみに最初に揃えた音まわりの機材はどう言ったものでしたか。

小岩井:コンデンサーマイクが「RODE NT2-A」ですね。オーディオインターフェースが「Steinberg CI2」、音楽ソフトウェア「Cubase AI」がバンドルされてました。全部で5~6万円くらいが最初のスタートセットでしたね。そのセットから作曲はしていくんですけど、割とすぐに有料版の「Cubase」を買って。

ーー声優の勉強として揃えた機材で作曲しようと思ったのは?

小岩井:最初は休みの日の遊びでした。東京でひとり暮らしで、小さいお家だし近所迷惑になっちゃいけないからユーフォニアムを吹くことはできなくて。ヘッドフォンで、パソコンで遊べる何かを探してて。じゃあ、暇だし、曲を作ってみるかっていうのが最初ですかね。

ーー最初に作った曲はどんなものでしたか。

小岩井:なんか色々つくってた気はするんですが、想い出深いのは、新人声優で12週くらいやるよっていうラジオ番組があって。それに「いつか出たいなぁ」と勝手に想像してて。毎週違う曲を作って流したら面白いかもなと思って、その番組に出れた時のために書き溜めたりしてました。1分半くらいで、全部、傾向が違う曲。電子系のカッコいいのもあれば、柔らかい三拍子のオルゴールぽい曲もあったり、ロック調もあったし、ザ・声優さんっていう憧れを込めた可愛い曲も作ったりしましたね。結局、その番組には出れなかったんですけどね(笑)。

ーージャンルも幅広いんですね。

小岩井:私は誰か一人だけが大好きでとかではなく、アニソン全体が好きで、その都度、マイブームの移り変わりが激しいんですね。それに、作曲自体も独学な部分が多いので、『こういう曲を作って欲しい』って言われたら、まず、それに近しいジャンルの曲をいっぱい聴いて。ジャンルはだいたいリズムやグルーヴで分けられることが多いので、リズムを分析してみて、コード感や音色、楽器の編成も聴いて分析して、吐き出してっていう訓練をしてます。だから、どのジャンルが得意とかではなく、頼まれたらやってみるという感じですね。

ーー音楽を作る上で心がけていることって何ですか。

小岩井:自分はいわゆるアーティストタイプではないんだなっていうのは感じていて。クライアントさんに要望されたものを、最大限コストパフォーマンスがいいように作るって言うのが仕事だなって感じています。声優のお仕事も近いんですよね。要望があって、答えに近づける。私たちはアニメーションやゲームという作品を作る要素のひとつで、作曲においても、それは同じですね。良い言い方をすると、みんなが幸せになるものをいつも作りたいなと思っています。

ーー私のためではなく、みんなのためなんですね。

小岩井:もちろん、その都度、自分が作りたいものを作ってるんです。でも、ご依頼をいただいたものに、自分の作りたいものや願望、エゴを入れて、うまくまとめてお送りするのが楽しいですね。

ーーそれはエゴなんですかね。

小岩井:みんなにメリットがないと続かないし、みんなにメリットを出したいというのが譲れないポイントなんですけど、エゴととりづらいですよね。

ーー他者のために聞こえますよね。先程の「みんなが幸せになるものを作りたい」というのも。

小岩井:でも、これ、めちゃめちゃエゴなんですよ。相手にしてみたら、幸せにして欲しいと思ってないかもしれないので、これはこれで私のエゴなんですね。結局はみんなが喜んでくれることが嬉しいし、その時々で、お客様が喜んでくださるものをお出ししていく感じかな。

ーー根っこには、人の役に立ちたいという思いがある。

小岩井:そうですね。綺麗事のように聞こえて嫌なんですけど、本当にそうなんだよなって。世のため、人のため、自分のため。実はどれも同じ方向を向いているし、ちゃんと同時に成立させることができるものだなって思いますね。

自分用のスタジオも完備

ーーでは、曲作りはじめて、聴く音楽というのは変わりましたか。

小岩井:聴くものは変わってないですね。アニソン好きなのは変わってないです。ただ、聴き方は変わったかもしれない。編曲がすごく気になるようになって、常にインプットしている感覚で聴いてますね。

ーーメロディ、歌詞、コード展開、構成、楽器編成と分解して聴いてるんですよね、きっと。

小岩井:そうですね。街で聴いてる音楽もそういうふうに聴こえるようになりました。例えば、テレビでよく流れてた音楽を初めてちゃんと聴いた時も、『なるほど、Aメロとサビでリズムは同じでメロディを変えてるのか』とか、『イントロでサビのメロディを繰り返していたのか』とか。流行ってる曲はよくできてるなって思いながら聴くことが増えたけど、それはそれで、分解して聴くのが楽しいですね。

ーーその作曲の楽しさってなんですか。

小岩井:現状だと、声優っていう仕事は、作品の中のいち部分を担当させてもらう仕事で、みんなで化学反応を起こしてつくっていくのがとっても楽しいんですが、逆に作曲の場合は、時と場合によっては、1曲まるごと、作詞も作曲も編曲も歌も全部担当させてもらえることもある。自分の思い描いていたものをダイレクトにお伝えできるのは面白いし、他の仕事ではなかなかないかなって思いますね。

ーー作詞に関してはどういうアプローチで臨んでますか。

小岩井:最初は、音楽が言ってることを言葉にして翻訳する仕事だと思ってたんですよ。でも、キャラクターソングの作詞をさせてもらったときは、キャラクターが言いたいことを書く必要があって。最近は場合によって違うんだなって感じはじめているというか。作曲を自分でやった方が作詞も書きやすくなったりする、相乗効果を感じている最中なんですけど、『こういう物語をこの中に収めてください』というオファーがめちゃくちゃ得意だってことに気づきました。文字制限ある中で取捨選択してコンパクトにまとめるのは得意なんだなって感じましたね。

ーー声優デビューから約10年で、制作の環境は変わりました?

小岩井:パソコンを去年の秋に変えて、だいぶ、グレードをあげたんですよ。少しずつ機材周りも強化していて、自分用にスタジオも作ったんです。でも、そのスタジオを利用してくださる方が増えてきたので、私自身は今、深夜中心にしか使えないんですね(笑)。

ーーご自分のスタジオを作ったんですね! 

小岩井:はい。防音性を高めたかったので、地下のある場所を探して、防音ブースを作って。小さいながらも、音質としてはよくなったかなと思います。機材はパソコン以外だと、マイクは「SONY C-100」と「NEUMANN U87Ai」。インタフェースは「Apollo Twin USB」を使ってきたんですけど、スタジオでは「Fireface UFX+」と「Apollo 8P」を使っていますね。基本的には声の録音をすることが多いんですけど、だんだんと作曲の仕事も増えてきたし、あったら便利かなって思って機材はどんどん増えていっています。趣味もあるけど(笑)。

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