YOSHIKIとRYUICHI=河村隆一、それぞれによる後輩との交流 世代を超えた縦の繋がり
YOSHIKIとはまた違った方法で後輩との関わりを深めているのが、LUNA SEAのボーカル、そしてソロアーティストとしても活躍しているRYUICHIこと河村隆一である。今年1月にソロでリリースしたニューアルバム『BEAUTIFUL LIE』は、複数のアーティストから曲や詞の提供を受けて制作されたアルバムで、LUNA SEAのINORANや足立祐二、GEORGEらの他、シドのマオ、明希、そしてlynch.の葉月といった後輩も参加している。
まずは後輩たちが提供した楽曲について、個人的な感想を少しだけ書きたい。マオ作詞の「奇跡の地図」は、まっすぐでロマンチックな愛を普遍的でストレートに描いており、河村が書く歌詞の温度や言葉の選び方に通じるものを感じた。明希作曲の「Purple Sky」は美しく繊細なメロディと共に河村の伸びやかで力強い歌声が存分に堪能できるバラードである。葉月作曲の「Whisper To Me」は多彩な楽曲が並ぶ本アルバムの中でも強く印象に残る曲で、LUNA SEAの「LOVELESS」を連想させる葉月のウィスパーボイスから始まる。三者三様の楽曲から伝わってくるのは、後輩たちが本作品にかける情熱と河村への敬愛にほかならない。
当の河村自身は、彼らの“音楽性やレベルの高さに非常に感銘を受け、各々の持つ独自の世界観で曲や詞を書いてもらって、僕が歌ったアルバムを作ったら、どんな化学反応が起こせるだろうか? またその楽曲達の中で自分の存在感をどれだけ出せるのか?”(※1)という想いから本作品を制作するに至ったと語る。誰もが憧れるボーカリストでありながらも決して驕らず、若い世代のアーティストの才能を素直に認めて力を借り、自身の音楽家としての可能性をさらに追求する。このコメントからは、そんな河村の真摯な姿勢が伝わってくる。
河村は元々、マイクやスピーカーなどの音響機材を一切使わない生歌だけで勝負するライブを行なったり、約6時間半で100曲以上を歌うという超人的なギネス記録を達成したりと、自身の武器である歌をどこまでも追求するストイックな音楽家である。コロナ禍に入ってからは、5日間連続6公演医療従事者をはじめとするフロントワーカーへ向けた無料生配信ライブを行なったり、個人のTwitterアカウントを始めたりと、新しい取り組みを積極的に行なっている。LUNA SEAとして活動し始めて32年、ソロとしては24年と、長いキャリアを築いていながらも常にアップデートを続けているからこそ、この『BEAUTIFUL LIE』は生まれたのだろう。
YOSHIKI率いるX JAPANからその歴史が始まったと言われているヴィジュアル系は、約30年間で大きく変化した。シーンの規模だけではなく音楽ジャンルの幅やメイク・衣装の雰囲気なども、今と昔では全く違うため、ファン層は世代によって断絶されていることが多い。しかしアーティスト側は、レジェンド級のトップから中堅、そして若手まで縦の繋がりがしっかりあるようだ。『VISUAL JAPAN SUMMIT』が再び開催されるのを期待しながら、お気に入りのアーティストのルーツとなったバンドを遡ったり、逆に影響を受けた次世代のバンドを開拓してみるのも良いかもしれない。
※1:http://shinseido.co.jp/news/10305/
■南 明歩
ヴィジュアル系を聴いて育った平成生まれのライター。埼玉県出身。