福山雅治が追求する“今しかできない”表現の可能性 鮮烈な音響&ステージ演出で『AKIRA』映像化した初のオンラインライブ

福山雅治が追求する新たな表現の可能性

 ここまでの曲順を見ていてお気づきだと思うが、今回のオンラインライブは12月8日にリリースされたオリジナルアルバム『AKIRA』の世界観を、音だけではなく、映像という形で可視化させるという福山にとって初の試みとなるプロジェクトだ。ここでもまた、“今しかできない”表現へのトライを存分に見て取れる。前提として、アルバムの曲順とライブにおけるセットリストの曲の並びとは必ずしも一致するものではない、という常識がある。それはもちろん、オーディエンスの期待するヒット曲を散りばめるというアーティストとしての責務もあるが、それよりも音楽的な流れの問題の方が大きい。作品には作品の、ライブにはライブの流れというものがあるからだ。

 では、いかにしてアルバムの曲順通りに演奏しながら、かつライブのダイナミクスを損なわずに構成できるか。そのために先に触れた3つのステージが大きな役割を果たしているのは言うまでもないだろう。曲ごとに立ち上がるそれぞれの世界観をハッキリと示すことはもちろん、ステージ間を福山が移動することで観ている側のテンションはライブのまま保たれる。ブロックごとに演奏が繋がっていることよりも、むしろそうした音楽ではない部分が浮き上がることで、オンラインライブにおけるライブは成立するのだということに気づかされる。当たり前だが、福山はこれを意識的に行っている。それはおそらく、彼が俳優というもうひとつの顔を持っていることも影響しているのではないかと推測する。シーンとシーンをいかにして繋いでいくかというスキルと経験則がここで大きな作用をもたらしているのではないだろうか。

「ステージを3つにしたことで、3つのシチュエーションというよりは、さらに複数のバリエーションを持つことができました。それは発見でしたね。この3つのステージを掛け合わせて、アルバム『AKIRA』の全曲を生演奏で表現する。そしてそれを最新の映像技術で表現する。例えば1本の映画を観るような、そんなイメージで楽しんでいただきたいと思います」

 アルバムのために書き下ろされた「ボーッ」では、イントロに福山のガットギターによるクラシカルな旋律や曲中でのスライドギターが、続く「幸せのサラダ」ではアコーディオンやマンドリン、多彩なパーカッションなどがいいアクセントになり楽曲の表情をより豊かにしている。アルバム再現ライブというものが存在するが、この『ALBUM LIVE AKIRA』は、再現を目指しているのでは決してない。アルバムの世界観を音楽的に、そして映像的に再解釈して立体的に立ち上げる、あくまで新たな表現として完成されており、再現とは一線を画したものだ。それは言わば、福山雅治というシンガーソングライター個人の奥深くから出発した表現が、より多くの人の物語として機能し始める瞬間を描くものなのだ。

 後半の「聖域」「零-ZERO-」「始まりがまた始まってゆく」という、すでにこれまでのライブで披露されたことのある楽曲のパフォーマンスを観ながら、いつか刻まれた出発点を確認することで、その想いはより鮮明になった気がした。そして、ラストソング「彼方で」は、福山個人の物語を我々一人ひとりに手渡すような確かな感触があった。17歳の頃の父親の他界という“自らのソングライティングの出発点”を辿って昇華した作品『AKIRA』を可視化させることーーそれこそが、福山雅治にとって“今しかできない”表現だった。

 彼の立つそこは、おそらく誰も立ったことのない新たな表現領域の“ある地点”だ。そこから一歩進んだ先に何があるのか、これからの福山雅治を見届けたい。そう思った。

■セットリスト
『FUKUYAMA MASAHARU 30th Anniv. ALBUM LIVE AKIRA』
M1 AKIRA
M2 煌
M3 暗闇の中で飛べ
M4 革命
M5 Popstar
M6 漂流せよ
M7 トモエ学園
M8 失敗学
M9 甲子園
M10 ボーッ
M11 心音
M12 幸せのサラダ
M13 1461日
M14 聖域
M15 いってらっしゃい
M16 零 -ZERO-
M17 始まりがまた始まってゆく
M18 彼方で

見逃し配信:2020年12月28日(月)~2021年1月3日(日)23:59まで

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福山雅治 - 30th Anniv. ALBUM LIVE AKIRA(Digest Movie)

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