『Beyond The Blue』インタビュー
ヤなことそっとミュートが語る、メジャーデビュー以降の心境とグループへの揺るがぬ愛「培ってきた表現力や歌唱力を信じている」
ヤナミューこと、ヤなことそっとミュートが12月23日にリリースしたメジャー1stアルバム『Beyond The Blue』は、猛り狂う極上の轟音バンドサウンドと、凛とした歌声がハーモニーを織りなす傑作だ。さらなる音楽深化の中で垣間見えるメンバーそれぞれの優しい表情に、ボーカリストとしての成長とグループとしての成熟を感じることができる。
“満を持して”今年3月にメジャーデビューを果たした彼女たちだったが、そのタイミングで世の中は未曾有のパンデミックへ陥ってしまった。思うような活動ができない中、彼女たちは何を考えてきたのだろうか。アルバムのことはもちろん、グループやメンバーに対する想いを存分に語ってもらった。どこかクールな印象のある4人の、心の奥底にある熱情を感じ取って欲しい。(冬将軍)
「遮塔の東」は自分自身の人生のことを表している
ーー3月のメジャーデビュータイミングでコロナ禍となり、予定していたライブなどができない状況に陥ってしまいましたが、何を考えましたか。
間宮まに(以下、間宮):ツアーも全部なくなってしまったし、リリースイベントもメジャーデビュー当日の配信しかできなくて……。悔しさはあったんですけど、個人的には焦ったり怒ったりしても仕方ないことだなと思いました。どのグループさんもそうですし、社会全体が大変な状況なので、悲観するよりも、逆に活動がすべて止まってしまった今だからこそできること、中身を整えるというか、そういう期間にできればいいなと。なので、割とすぐに気持ちの切り替えはできていたと思います。
なでしこ:「ヤナミュー、メジャーデビュー直後にコロナ禍になってかわいそう」という声を結構耳にしたんですけど、「かわいそう」なんて思われたくない悔しさがありました。そう思われないためにも、今できることをしっかり考えてやっていかなければ、と。個人的には今まで以上に筋トレを増やしたり、自分と向き合う時間ができたし、メンバーそれぞれがツイキャスやインスタライブで配信を始めたりしました。この状況がいいわけではないですけど、プラスになった部分はあると思います。
南一花(以下、南):ツアーもできなくなってしまって悲しい気持ちもあったんですけど、落ちたりすることもなく。歌や筋トレをしたり、自分を見つめ直して哲学の本を読み始めてみたりとか(笑)。できることをたくさん極めていこうという期間でした。
凛つかさ(以下、凛):遠征できると思っていた最中でしたし、思い描いていたアイドル活動とはまったく違うものになってしまうのではないか、という不安もありました。けれど、結果としては悲観的にならずに済みました。ツイキャスで配信をしたら「楽しかった」「新しい一面を見られた」という声をもらえたりしたので。無観客ライブも、なかなかライブに来られない遠方や海外の方からも見てもらえるいいチャンスだったと思います。
ーーグループや活動に対して気持ちの変化はありましたか?
なでしこ:10月にリリースした「フィラメント」と「Passenger」がこの状況と心情を表している楽曲だと思っています。「フィラメント」の〈きっとあなたと結んだから〉というところだったり、ライブが少なくなってしまった分、応援してくださっている皆さんのことをより一層感じるようになりました。ライブがない日も考えるんですよ、皆さんのことを。だから、この状況でライブができたときの喜びはものすごくて、「届けられた」という気持ちが以前より増えました。
間宮:個人的には「もがき続けながらも進んでいく」という印象がアルバムを通してあって。1曲目から攻撃力の高い曲で始まるのは、 2020年にメジャーデビューして、思うように活動ができなかったヤナミューが今こそ攻めて行こうとする……そんな私たちの気持ちとリンクしていると感じています。
ーー攻撃力があったり退廃的であったり、歌詞を含めたヤナミューの世界観って以前からあるじゃないですか。それを歌っている本人としては、もともとの人間性として合っているものなのか、それとも楽曲に寄せていった部分もあるのでしょうか。
間宮:合っているからこそ、感情移入しやすいというところはありますね。私たち、キャピキャピしてないし(笑)。
一同:(笑)。
間宮:それに、恋愛ソングを歌うタイプでもないので。ヤナミューは抽象的で難しい表現の歌詞が多いと思いますけど、だからこそ自分に当てはまることが多いんです。ライブでもそのままの自分を出せているという感覚はあります。
なでしこ:レコーディングで感情移入しすぎて頭がおかしくなってしまうくらい、うるっときてしまったり。ライブだとその時々の心情も重なって、よりリアル感が増すというか。ライブならではの感情を思いきり出していけるのは、私たちの魅力だと思っています。
凛:秋の風を感じただけで泣きそうになったりとか、私は感傷的になりやすい人間なので。ヤナミューの切ない感じとか、ちょっと懐かしいような曲はやっぱり感情移入しやすくて、歌ったり踊ったりしていて気持ちいいですね。
南:自分では言葉にできない気持ちがあるときに、それがヤナミューの表現として歌詞で出てくると「私の気持ちはこれなんだ!」って思うことが結構あるんです。だから、感情移入しやすいんだと思います。
ーー制作過程で作家さんと歌詞について話し合ったりするんですか。
間宮:それは、まったくないです。
ーーじゃあ、話さなくてもわかっているんですね。
間宮:アルバムラストの「遮塔の東」は本当に、今まででいちばん感情移入したんじゃないかっていうくらい、グッとくるものがありました。〈刹那の光〉〈一瞬の光〉〈燃え尽きても尚 忘れられないほどに 〉という刹那的なアツい歌詞なんですけど、それがアイドルというもの、現在活動している自分の心境と重なって。「これは私のことを歌っている曲なんだ」と、強く感じましたね。
ーーそんな「遮塔の東」をはじめ、今作の多くの作詞は以前からヤナミュー楽曲を手掛けている畠山凌雅さんですが、久しぶりにニイマリコ(HOMMヨ)さんの作詞曲「結晶世界」がありますね。ニイさんの作家性もあるとは思いますが、やはり女性が書く詞というのは違いますか?
間宮:違いますね。基本的に凌雅さんに書いていただくことが多いので、今回の「結晶世界」は特にヤナミューの中では珍しい女性的なものを感じました。
――ヤナミュー楽曲は主観的なことを歌っていても性別が曖昧だったり、一人称が出てきても〈僕〉が多いじゃないですか。でも「結晶世界」では最後の最後に〈私〉が出てきて、「ああ」と思ったんですよ。
なでしこ:そうですね、ニイさんが書いてくださる〈私〉というのは大きな違いだと思います。ニイさんの詞には、女性ならではのもがき、苦しみとか、女性の中で渦巻く黒い感情があって、それが好きなんですよ。「結晶世界」もそういったニイさんの素晴らしさが全面に出ているので、大好きな曲です。
ーー歌詞がお気に入りの曲を、それぞれ教えてください。
間宮:私はやっぱり「遮塔の東」ですね。
南:まにさんと被ってしまうんですけど、「遮塔の東」を最初聴いたときに、アイドルのことだと思いました。〈高く手を伸ばすには/満たされてちゃいけないし〉という歌詞は、まさにそうだなと強く思いました。具体的にそういう話をしたことはないけど、ヤナミューのみんなもきっとそう思っているんだろうなと。
なでしこ:私も被ってしまうんですけど、「遮塔の東」がすごく好きで。サビの〈一瞬の光 それしかいらない〉というところが特に好きです。自分のアイドル活動を通しての心情だけでなく、自分自身の人生のことも表しているんじゃないかって思うんです。レコーディングの時に凌雅さんとも話したんですけど、自分が死ぬ間際に流れるだろうなって。レコーディングの時点でもそんな感じだったので、これをライブで思いっきり歌ったらどんな風になってしまうんだろう……すごく楽しみですね。
凛:私も便乗ではなく、「遮塔の東」が好きなんです。初めて聴いたときにアイドルや表舞台に立つ人の曲なんだなと思いました。あと、個人的には「Disc 2」に入っている「am I」のアンサー曲っぽいなとも思っていて。「am I」の、自分が何者かわからないけど漂いながらかろうじて生きている、みたいなところから、希望を見つけてそうなりたいともがいているのが「遮塔の東」なのかなって。ですから、個人的にはこの2曲をセットで聴いていますね。