DJ泡沫が選ぶ、2020年K-POP年間ベスト10 BLACKPINK、TXT、GOT7、NCT……“楽曲”そのものと向き合った1年

BLACKPINK『THE ALBUM』
BLACKPINK『THE ALBUM』

 BLACKPINKによる4年越しのフルアルバム『THE ALBUM』は、タイトルからして余計な装飾やコンセプトを拒否するような自負を感じるが、確かにどの曲も気合が漲っており、ひと仕事やる気を注入したい時にぴったりだ。8曲というとフルアルバムの物量的には物足りなくも感じるが、実際聴いてみると1曲あたりの濃度が高い。飽きずに繰り返し聴くには、このくらいのボリュームが最適なのかもしれない。

 今年Billboard HOT100で1位を獲得し、さらにファン層を拡大したBTSの後輩グループで、自身も初のBillboard 200 Chart 入りを果たしたTOMORROW X TOGETHERの3rdミニアルバム『minisode1 : Blue Hour』は、爽やかさとこの時代の青春特有の切なさが詰まっている。タイトル曲の「Blue Hour」は、ディスコ調でありながらK-POPらしい、キラキラしたデコ装飾のようなアレンジにときめき、Charli XCXが参加した「We Lost The Summer」のようにパンデミック下の青春というテーマをいち早く取り入れるあたりも流石。TXTは、韓国ではなぜかタイトルが毎回やたら長い曲のグループという印象らしく(「Blue Hour」の原題は「5時53分の空で見つけた君と僕」)日本でいうと“なろう小説”のタイトルが徐々に長くなっていく現象と、ライトノベル=青春小説という符合で繋がったり繋がらなかったり。

NCT
NCT『RESONANCE Pt.2』

 NCTの「流動的で可変性のあるメンバー構成」というテーマは、固定のメンバー構成を愛でがちなアイドルファンにはいまひとつ馴染みにくい印象があった。しかし、新メンバーのソンチャンとショウタロウを加えた23人でのカムバックでその真価が現れたようだ。『RESONANCE pt.2』のタイトル曲のひとつ「90's LOVE」はニュージャックスイングを2020年的に解釈したようなニュートロ(ニューレトロ)文脈の曲なのかもしれない。だが、パンチの効いたリズムと背後に流れる不穏な音が妙にマッチしており、確かに現状K-POPでしか聴けない楽曲として、無条件にテンションが上がる。怒涛の展開がアミューズメントパークのようなSMエンターテイメントのシグネチャー感がよく出ている曲でもあると言えそうだ。NCTのラップラインが一堂に会した「Misfit」は、NCTサイファーといった趣でSMの新しい時代を体現した曲だ。特に新加入のソンチャンのラップトーンはどことなくThe Quiettを思わせるようなバイブスがあり今後が気になる。

GOT7
GOT7『Breath of Love : Last Piece』

 今年最も純粋にアルバム・楽曲を気分よく聴いたと思うのがGOT7『Breath of Love : Last Piece』。歌詞の内容、MV、作曲家、コンセプト、とりあえず何も見ずにアルバムそのものをヘビロテして聴いていた。全曲K-POPらしいトレンディさのあるEDM/R&Bでボーカルエフェクトも効いているが、一方で押しつけがましさのないつつましさのような、華はあるがやりすぎない、その「ちょうど良さ」を知っている1枚。

 ペク・イェリンの楽曲でおそらく日本で最も有名なのはドラマ『愛の不時着』OSTに収録されている「Here I Am Again」かもしれない。そんな彼女の新譜『tellusaboutyourself』は、前作同様、全編英語詞。「Square(2017)」のようなポップで爆発力のある曲はないが、アルバム全体から受けるドリームポップやローファイな雰囲気は、どこか夢の中にいるような、フラットでふわふわとした印象を受ける。最初はハングルで歌詞を書いたそうだが、英語の方がより合っていると判断して英語詞にしたというが、確かに韓国内よりは欧米圏のポップスに近い音楽的なアプローチかもしれない。ぺク・イェリンによる歌詞は、どれも短編小説のような趣を感じるが、特に「Lovegame」に込められた現代的な愛についてのメッセージが印象に残る。

 パンデミック下でライブが行われなくなり、外出も控えがちになって家にいる時間が増えると、どうしても「ながら聴き」する機会の方が増えるため、仕事以外では耳だけで聴いた時に楽しめる曲を繰り返し聴くことが増えた。そういう意味では、パフォーマンスやMVなどの視覚的な刺激やコンセプト、メッセージなどの情報を除外してもただ音声のみで個人的な喜びを感じられる楽曲というのが裏テーマだったのかもしれない。もちろん、それらの要素があれば何倍にも楽しめるのがK-POPの長所だが、改めてK-POPの「楽曲」そのものと向き合った年だったように思う。

■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
ブログ:「サンダーエイジ」
Twitter:@djutakata

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