DJ泡沫が選ぶ、2020年K-POP年間ベスト10 BLACKPINK、TXT、GOT7、NCT……“楽曲”そのものと向き合った1年
Cosmic Boy『Can I Heat?』
Junggigo「EOY feat.Jay Park」
OnlyOneOf『Produced by [ ]』
BewhY&Simba Zawadi『NEO CHRISTIAN』
V.A.『どストライクな彼女(She is My Type)』OST
BLACKPINK『THE ALBUM』
TOMORROW X TOGETHER『minisode1 : Blue Hour』
NCT『RESONANCE Pt.2』
GOT7『Breath of Love : Last Piece』
ぺク・イェリン『tellusaboutyourself』
以前2018年に年間ベスト記事を書いた時はその年の社会情勢などから「2018年のK-POP」を表すと思った10枚を選んだが、2020年のテーマは「気に入った、またはぜひ聴いてもらいたいと思うK-POP/HIPHOP作品」ということで、個人的に聴くものとして好みだったり面白いと思ったアルバム(EP・シングル含む)を10作品選んでみた。
2020年は、CODE KUNST、BRONZE、DPR LIVEなどトラックメイカーのアルバムが豊作だったが、個人的に最も良く聴いたのはGIRIBOYが中心のクルー・WYBH(宇宙飛行)に所属しているCosmic Boyによる2年ぶりのEP『Can I Heat?』だった。以前は音楽を移動中や外にいる時に聴くことが多く、外部からの刺激を遮断したりそれに負けないような存在感の曲を求めていた気がするが、新型コロナウイルスの影響により家の中で音楽を聴く機会が増えたせいか、家仕事などの「暮らしの動作」と共存できるような音を求めるようになった気がする。全編アコースティックでチルなこの1枚が今の生活スタイルにハマったようだ。個人的に好きなシンガーソングライターのソヌ・ジョンアがフィーチャーされているのも良かったところ。
『アイドルマスター』の実写企画であった『アイドルマスター.KR』をきっかけに、韓国でソロデビューした日本人アーティスト・YUKIKAのようにシティポップ要素を取り入れたようなK-POPを耳にすることは珍しくなくなってきた。その中で今年個人的にいちばんしっくりきたのがJunggigo「EOY feat.Jay Park」。80s〜90sのJ-POP男性ソロボーカリスト、例えば来生たかおや池田聡を思い起こさせるようなJunggigoの温かみのある声質がニューミュージックっぽいアレンジと絶妙にマッチしている。Jay Parkをフィーチャーしラップパートが入るあたりは間違いなく「K-POPらしい」アレンジと言える。
デビューから一部で楽曲の良さが話題となっていたOnlyOneOfは、HaeilなどR&Bで知られるアーティストやLOOΠAの楽曲で知られるBillie Jeanの起用など、楽曲面へのこだわりが強く感じられるボーイズグループだ。今年リリースしたEP『Produced by[ ]』は、タイトルの通り1曲ごとに異なるプロデューサーを迎えたシリーズで、Rain(ピ)の『Rainism』や、個人的に名盤だと思っているMBLAQの『BLAQ Style』などを手掛けたJR Grooveのようなベテラン作曲家、さらにGRAY、Cha Cha Maloneのようにアイドルへの楽曲提供でも有名なプロデューサーだけでなく、BOYCOLDや Samuel Seoなどアイドル系楽曲とは今まであまり接点がなかったHIPHOP/R&B系のプロデューサーやアーティストも参加している。所属レーベルの<RSVP>は俳優系のマネジメント会社、8Dクリエイティブが初めてアイドル制作のために作った事務所。タイトル曲のリリックビデオをリリースしたりと、まず「顔を知らせる」ことがメインになりがちな新人グループとしては、独特のA&Rセンスを感じるグループだ。『Part.2』でGroovyRoomがプロデュースした「a sOng Of ice & fire」は『ゲーム・オブ・スローンズ』の世界観をコンセプトに、MVの概要欄からは「ありきたりなK-POPっぽい楽曲やコンセプトにはしません」という熱量を感じる。全曲がタイトル曲となってもおかしくない、華やかさと同時に「K-POP=アイドルミュージックらしさ」という定形からも少しずれている感じが聴き飽きないアクセントになっており、音だけでも集中して聴きたくなるシリーズだった。
『SHOW ME THE MONEY 5』の優勝者としてブレイクした人気ラッパー・BewhYと、レーベルメイトのSimba Zawadi(現在はSon Simbaと改名)がリリースした『NEO CHRISTIAN』は、タイトル通りの1枚。韓国は宗教的に仏教徒よりもキリスト教徒の方が多い国で、クリスチャンアルバムや楽曲に参加するアーティストは時折耳にしたが、韓国のラッパーによる本格的なクリスチャンミュージックアルバムを聴いたのは、これが初めてかもしれない。2人ともプロテスタント信者で、特にBewhYは過去の楽曲にもキリスト教的要素を伺わせるものがあった。ジャケットは『新世紀エヴァンゲリオン』のオマージュで、内容的には2012〜2014年あたりのカニエ・ウェストをリファレンスしたとのこと。カニエのアルバム『Yeezus』のような作品を韓国ヒップホップ的なアプローチで表現できないか、という試みのようだ。キリスト教系のミッションスクールに通っていたので個人的に元ネタがわかる部分が多いこともあり、こういうfaith=信仰心の表現の仕方もあるのだなと興味深かった。トラック自体のクオリティやヒップホップっぽくない3拍子を多用するラップのテクニックも堪能でき、GRAYやVainといったプロデューサーや、Jvcki Wai、C Jammなどフィーチャリング陣も豪華。
今年7月、韓国での利用者が最も多い音源配信サービス、メロンミュージックのチャート改変があり、以前にも増してTV番組関連やファンダムがあらかじめ強いアーティスト以外の楽曲が上位にあがることが珍しくなったようだが(12月にも改変があり、アプリとサイトのトップ画面にチャートそのものを載せなくなった)、その中でも8月にBTS「Dynamite」を超える勢いでランクインし、現在もチャートインし続けているのが、人気ウェブトゥーン(=ウェブコミック)『She is My Type(どストライクな彼女)』のOST楽曲。ウェブトゥーンのOST自体は以前からあったものの、今回のようにチャート上位に入るのは初。ヒットの要因としては、原作の人気、ラブロマンスというジャンル、キュヒョン(SUPER JUNIOR)やサンドゥル(B1A4)、CRUSHやMONSTA Xといった人気アーティストが参加していることがシナジーになった結果らしい。個人的にはCAR THE GARDENの「All Night Long」が好きで夜聴くのにぴったりだと思う。