麻倉もも、田村ゆかり、豊崎愛生……強い憧れと大胆なアレンジ光る、女性声優たちによる松田聖子カバーを聴き解く

 そして、今回参加した声優陣のなかでも、世代的に離れてはいるものの、うら若きころの松田聖子の姿を見つめ、トキめいていた少女だったのが田村ゆかりである。80年代のアイドルたちを愛し、のちに自身の音楽活動においてもアイドルらしいパフォーマンスを披露していった田村にとって、松田聖子はまさに憧れの存在ともいえよう。

 そんな彼女がカバーした「Rock'n Rouge」は、元々ユーロポップやハウス寄りのサウンドが構想としてあった、呉田軽穂(松任谷由実)による楽曲である。歯切れ良いベースサウンドに、ブラスセクションがタイミング良く入ってくることで、リズムやBPM以上にアップテンポな楽曲として強く印象に刻まれる一曲だ。1984年に発表されたこの曲で、同年の『NHK紅白歌合戦』にも出場している。

松田聖子 - Rock'n Rouge

 今作で田村は、この名曲を別の曲のように一新させている。楽曲のコアであったベースサウンドとブラスセクションはなくなり、単音で彩りを添えるキーボードとアコギ、優しいコーラスと田村の歌声が絡みあった、非常にソフトなサウンドへと変幻している。しかもドラムのサウンドすらも排されており、いわゆるウワモノのみで構成されたカバーになっているのだ。当初ユーロポップをも視野に入れていたオリジナルから遠く離れ、松田聖子の楽曲から、もはや田村の音楽として感じられるほどのアレンジがなされている。

Rock'n Rouge - 田村ゆかり

 リスナーを優しく包み込むようなスウィートな曲に変貌したのは、田村の声色による影響も大きいだろう。線が細く、どことなくライトな印象の田村の声は、時として柔らかな声色へと変貌する。「Rock'n Rouge」のカバーを心地よく響かせているのは、田村自身の歌声であり、松任谷由実によるコード進行、ハーモニー、メロディラインが絶妙に合わさっているからではないだろうか。

 声色を生かし、憧れの存在の楽曲を自身の音楽としてレスポンスした田村のカバーは、オリジナルの良さに新たなスポットを当てた素晴らしいカバーであろう。

 このほかにも、内田真礼、伊藤美来、さらに本人名義ではほぼ歌唱してこなかった佐倉綾音によるカバーも収録されており。聴きどころ満載な一作となっている。

赤いスイートピー Lyric Video(豊崎愛生、内田真礼、佐倉綾音、麻倉もも、伊藤美来)〜「VOICE~声優たちが歌う松田聖子ソング~ Female より〜

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■草野虹
福島、いわき、ロックの育ち。『Belong Media』『MEETIA』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中。
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