マライア・キャリー デビュー30周年企画インタビュー
マライア・キャリー、歌手/音楽家としての才能を徹底解剖 Nao'ymtに聞く、常にトレンドを乗りこなす世界的歌姫の凄さ
トレンドをいち早く取り入れる感度の高さと柔軟性
ーー「マライアっぽさ」というと、4つのディケイドにわたって常に旬なプロデューサーたちと組んでヒットレコードを出し続けたという点も挙げられるかなと思います。
Nao'ymt:流行を作ることができるプロデューサーって、ビートにしろ、メロディにしろ、やっぱり個性的じゃないですか。でもマライアって、どのプロデューサーであっても、そのプロデューサーの独特のフレージングやフローをちゃんと歌えるんですよね。それが、彼女のすごいところじゃないかなと思います。中には、流行りのフレーズだからって無理やり歌わされてる感じが出ちゃう人もいるんですよね。「この歌い方、あんまり合ってないな」、みたいな。そういう意味では、ネプチューンズだろうとジャーメイン・デュプリだろうと、どのプロデューサーでもちゃんと歌えるんですよ。
ーーマライアって、「FANTASY」や「HONEY」の頃からずっと、ストリート・マナーを大事にしているシンガーでもある。ウータン・クランのメンバーと組んで見たり、パフ・ダディを大々的に起用したり。『CAUATION』でも、テイ・キースやガンナといった、第一線のヒップホップアーティストやビートメイカーが参加しています。長年にわたって活躍している歌手として、流行りのビートに追いついていきながら歌うというのは、一つのスキルということですよね。みんなができることではない?
Nao'ymt:それはすごく難しいところでもあって、例えば、「自分はこうだから」と言って流行を追わないのも一つの美学じゃないですか。でもやっぱり、音楽って洋服等と一緒で、どこかで新しいものを取り入れることも一つの楽しみ方であり表現の方法だと思うんですよ。
これは好みによるかもしれませんけど、個人的には、そういう点を追い求めることはすごく大事なんじゃないかなと思ってるんです。マライアは、どんな時代でもそのときに流行ってるものを自分の作品に取り入れることができる。それはすごく、彼女のこだわりを感じるところでもあります。
ーーこれは普段のNaoさんへの質問になってしまうのですが、ご自身で楽曲を作られる時、どれぐらい流行を取り入れるべきか悩む、みたいなことってありますか?
Nao'ymt:流行を100%取り入れるのは悔しいんですよ。そこはやっぱり、流行ってる次を作りたいと思うから。だから、「流行50・自分50」くらいのバランスで作っていますね。だから、新たな歌唱法やメロディはいつも常に探しています。ただ、流行っているものじゃないと分かってもらえないというか、流行って初めて理解されるので、流行っていないことをやるのはその分、リスクも高いです。
ーーちなみに、Naoさんご自身が、海外のプロデューサーに影響受けることはありますか?
Nao'ymt:それはもう、非常にありますね。マライア・キャリーも得意としていますけど、特にストリートテイストの強いビートにウィスパーボイスを乗せるやり方は、自分のプロダクションにもかなり取り入れていました。ただそれも、なかなか初めは分かってもらえなくて。安室奈美恵さんとかにも、ドンドンと響くような、明らかにウィスパーボイスっぽくないビートに対して「ウィスパーボイスで歌ってほしいんですけど」って言うと、「本当にウィスパーでいいんですか?」と聞かれて。お願いして、歌ってもらいました。あとは、ネプチューンズの独特のドラムのズレとか、ティンバランドのハイハット感やR.ケリーたちにも影響を受けましたね。
ーーオールタイム・フェイバリットといえば?
Nao'ymt:一番好きなのは、やっぱりティンバランドですね。ティンバランドの登場以降、あそこまで世界的に流行ったビートってないんじゃないかな? と思っていて。
ーーティンバランドのR&B作品というと、やはりアリーヤが真っ先に思い浮かびます。
Nao'ymt:そうですよね。アリーヤ、もう大好きで。彼女も、強いビートにウィスパーボイスで歌うタイプだから、それを広めたかったんですけど、なかなか日本では認知されなくて(笑)。
「恋人たちのクリスマス」を15分で完成させたという逸話も
ーー今回は、事前にNaoさんがお好きなマライアの楽曲も選んできていただきました。
Nao'ymt:はい。私が一番好きなのは「Always Be My Baby」で、この曲ができたときのインタビュー記事を読んでいたら、「頭の中にメロディが鳴ってた」って言っていたんですよ。あの曲を、プロデューサーのジャーメイン・デュプリとマニュエル・シールの三人でセッションしていて、ジャーメインがビートを打って、マニュエルがキーボードでコードを鳴らしたら、もう降りてきたみたいで。それを「ただ渡しただけ」と言っていて。だから、マライアは結構“降りてくるタイプ”のアーティストなんだなと思いますね。世界中で大ヒットした「恋人たちのクリスマス」も、15分ほどで完成したそうなんですね。ウォルター・アファナシエフと一緒にスタジオに入って、「タンタン、タンターン」っていうあのブギウギのメロディをピアノで弾いたら、マライアがその場でフレーズを歌って出来たらしいんです。8月にレコーディングしたから、スタジオの中に全てクリスマス風のデコレーションを施したという話も聞いたことがありますね。
ーーまさに天才型というタイプなんでしょうか。他にも、「H.A.T.E.U.」をフェイバリットに挙げていただいています。
Nao'ymt:はい、大好きですね。まず、単純に曲がいいという思うんです。あとは、ヴァースというか平歌(ひらうた)のところで、マライアがちょっと低めの声で歌っていて、そこがかっこいいなと思って。
ーー「H.A.T.E.U.」が収録されているアルバム『Memoirs of an Imperfect Angel』は大半をザ・ドリームが手掛けていますよね。当時、すごく新鮮に聴こえました。
Nao'ymt:ちゃんと、形にしてモノにしてますよね。他のアーティストとコラボしている曲だとボーイズIIメンとの「One Sweet Day」も大好きな一曲で、私は(ボーイズIIメンのメンバーである)ウォンヤ・モリスが好きなんですが、二人の掛け合いがすごくよかった。この二人が歌ったらすごいことになるんじゃないかな、と思っていたら結果的にそうなった、という感じの曲ですよね。
アルバム単位で言うと、『Memoirs of an imperfect Angel』が好きで。あのアルバムは、全体的にアンビエントというか、ダークな感じが漂っているという印象なんですね。その点が、あんまりマライア・キャリーっぽくなく、落ち着いてる感じがしてすごくいいなと。ただ、正直初めて聴いたときはそんなピンと来なかったんですけど、何度が聴いている内に素晴らしさに気がつきました。