マライア・キャリー、歌手/音楽家としての才能を徹底解剖 Nao'ymtに聞く、常にトレンドを乗りこなす世界的歌姫の凄さ

マライア・キャリーの才能を徹底解剖

「時代に合わせて売れる前の若手アーティストをフックアップしている」

マライア・キャリー(1996年東京ドーム初来日公演ライヴ写真)

ーー先ほどもプロデューサーの話が出ましたが、Naoさんの視点で、これまでのマライア作品には欠かせない印象的なプロデューサーといえば誰ですか?

Nao'ymt:個人的には、彼女のキャリアにおいてはジャーメイン・デュプリとの出会いが大きかったんじゃないかなと思うんです。先ほども触れた「Always Be My Baby」で初めてジャーメインと共作したわけですが、そこでマライア自身も「彼とは合うな」と思ったんじゃないでしょうか。その後も、「We Belong Together」という大ヒット曲を一緒に作っていますし。ジャーメイン・デュプリのTR-808のドラムの音と、ピアノのトラックはやっぱりマライアの声と合うなと思います。

Mariah Carey - We Belong Together (Official Music Video)

ーー黄金コンビですよね。マライアの楽曲を聴いていて、イントロにジャーメイン・デュプリの「So So Def」という掛け声が入っていると「お、来たな」と思ってしまいます。

Nao'ymt:マライアがジャーメインとの制作をスタートしたころ、ちょうどエクスケイプやジャギド・エッジら、So So Defに所属するアトランタ産R&Bも盛り上がったきた頃だったので、その辺の流れも組んでいるのかなと思いましたね。ちなみに、アルバム『Butterfly』では、ブレイク以前のドゥルー・ヒルも参加してるんですよね。プリンスの「The Beautiful Ones」をカバーしていて。だから、時代に合わせて大きく売れる前の若手アーティストをフックアップしているところもすごいなと。目の付け所が独特だなって。

ー−あのアルバムにはボーン・サグズン・ハーモニーのメンバーらも参加していて、すごい構成でしたよね。

Nao'ymt:当時、誰も思いつかないような組み合わせでしたよね。

ーー初期のマライアと現在のマライアの変遷というか、今、30年前の楽曲を聴いた時に、改めてどのように響きますか?

Nao'ymt:マライア自身がそう思っているかどうかは分からないですけど、歌い方がだんだんストレートになってきた気がしますね。初期の頃は「そこまで節回しを動かさなくていいんじゃないの?」みたいなところがあって。多分、マライアは「私、こんな風に歌えます!」って感じなのかもしれないですけど、聴いている方としてはちょっと疲れちゃうときもあったんですよね。「そこ、もうちょっとロングトーンでいいんじゃないの?」って。でも、ヒップホップのプロデューサーは、おそらくそういう難しいボーカルテクニックは求めていなかったんじゃないかなと思って。だから、キャリアが進むにつれてヒップホップのプロデューサーと組み始めた頃から、割と歌い方がシンプルになってきた気がしますね。

ーー今回、マライアの活動30周年を記念してリリースされた『レアリティーズ』は、垂涎モノのレアトラックで構成されています。本作を聴いて、印象的だった点などはありますか?

Nao'ymt:聴いた感じ、90年代のミックスの音だなと感じました。だから、楽曲のミックスが、当時のまま収録されたのかなと思って、逆にそれを楽しんじゃいました。当時の楽曲って、ベースの音も特徴的で、リバーブ感とか、キックの軽さというか、独特の音の分離の仕方があるんです。「今だったら、そんなに音を広げないかな」とか「そういえば、当時ってこうだったな」って思いながら聴いちゃいましたね。

「ビジュアルやキャリアも含めて、マライアと同じタイプのシンガーはいない」

マライア・キャリー(1996年東京ドーム初来日公演ライヴ写真)

ーーNaoさんらしい視点ですよね。個人的には、こんなに完成度の高い未発表曲がたくさん残っていることに、とにかく驚きました。今回は1996年に東京ドームで行われたライブの様子もブルーレイディスクとしてパッケージされています。

Nao'ymt:この時のライブ、確かバックコーラスにケリー・プライスが参加してるんですよ。

ーーえー! 全く知りませんでした!また映像を見返して見ないと。デビュー直後だけあって、マライアが本当にフレッシュで、それでいて堂々としていて……感慨深いなあと思いました。

Nao'ymt:一番思うのは、安定感があって、その上ブレないということ。これってやっぱりすごいところで、こちらとしても安心して観ていられるんです。あと、高音を出す時に耳に手を当てる仕草をしますけど、あれも特徴的ですよね。

ーーまさにマライア! という感じですよね。ディーヴァ感がある。1996年の時点で、すでにヒット曲だらけのパフォーマンスであることにもびっくりします。Naoさんも、プロデューサーとして楽曲を作る場合に、アリーナやドームなど大きい場所でのパフォーマンスを想定して制作に取り掛かることはありますか?

Mariah Carey - All I Want for Christmas Is You (Live at Tokyo Dome)

Nao'ymt:昔はあまりなかったんですけど、ここ数年はCDよりも配信の方が主流になって、自然とライブの重要性が増してきた。そうすると、“ライブでどう聴かれるか、見せられるか”という問題は、自分の中で結構大きくなりました。でも、それが難しくもあって。一般的なライブ映えする曲が果たして本当にいい曲か、と言われるとそうでもないんですよ。そこがいまだに悩むところですね。どうしてもライブはみんな身体を動かして盛り上がりたいじゃないですか。そうすると、日本では四つ打ちのノリばかりになっちゃうんです。それだけになっちゃうのも、違うと思いますし。

ーーマライアもそういう点を意識していると思いますか?

Nao'ymt:どうですかね。逆に、考えていない気がしますけどね。そこは、逆に出来上がった曲をどう見せようかという風に考えているんじゃないかな。でも、自分で作って自分で歌っているわけだから、無意識に自分がステージの上で歌っていることを想定しているのかもしれません。

ーーこうして初期の楽曲を聴き直して見たり、彼女のディスコグラフィーを振り返ったりしてみると、マライアは30年間ずっと貪欲にチャレンジし続けている。その精神がすごいなと思います。

Nao'ymt:マライアは、全てをソツなくこなせる感じですよね。作詞作曲もできるし、セルフプロデュース能力にも長けている。戦略を練って曲を作るというよりは、直感的に出来上がったものを作品にしているんじゃないかなと思います。1994年にリリースしたクリスマスアルバムも、最初は反対されていたみたいで。ホリデーアルバムって一年の限られた期間にしか聴かれないのに、デビューして、キャリアが絶頂の時にそれを出すのは結構、攻めの姿勢じゃないですか。でも、その反対を押し切ってリリースしたら見事に大成功したんですよね。あの曲のヒット以降、ロックでもポップスでも、ブギウギっぽいクリスマスソングが増えましたよね。そういうところでも、マライアが先駆者になっていたのかなと思います。

ーー確かに、そうですね。クリスマスソングのコンピレーションなども増えた気がします。ちなみに、マライア・キャリーのフォロワー的なシンガーって、誰か思い浮かびますか?

Nao'ymt:そりゃあ、アリアナ・グランデが出てきたときは「マライア・キャリーじゃん!」って思いましたよね。アリアナ自身はそれをすごく嫌っているそうですけど、でも、あの高音の歌い方とかも、明らかにマライアのデビュー当時を彷彿とさせるようなところもありましたし。でも、ビジュアルやキャリアも含めて、マライアと同じタイプのシンガーはいないなって思います。

Emotions - Ariana Grande (Mariah Carey cover)

ーーここまで長きにわたって世界中の人に愛される女性シンガーって、そうそういないですよね。

Nao'ymt:ジャンルを超えて、いろんな層の人に受け入れられてますからね。みんなに愛される秘訣は、やはり親しみやすい曲を歌っているところだと思います。彼女の作曲能力というか、みんなが口ずさみたくなるようなキャッチーなフレーズを生み出せるということですから、それは欲しくても手に入らない才能ですよね。

はじめてのマライア・キャリー

 

■リリース情報
「Ohサンタ!feat.アリアナ・グランデ&ジェニファー・ハドソン」
配信中
再生/購入リンクはこちら

『レアリティーズ』
発売中
¥7,000(+税)
※国内盤のみ1996年東京ドーム初来日公演ライヴ映像Blu- ray付豪華3枚組仕様
※国内盤のみ歌詞・対訳・解説付き
※国内盤のみ高品質Blu-spec CD2仕様
視聴・購入はこちら

<CD1収録曲>
1.ヒア・ウィ・ゴー・アラウンド・アゲイン(1990)
2.キャン・ユー・ヒア・ミー(1991)
3.ドゥ・ユー・シンク・オヴ・ミー(1993)
4.エヴリシング・フェイズ・アウェイ(1993)
5.オール・アイ・リヴフォー(1993)
6.ワン・ナイト(1995)
7.スリッピング・アウェイ(1996)
8.アウト・ヒア・オン・マイ・オウン(2000)
9.ラヴァーボーイ (Firecracker  Original Version) (2001)
10.アイ・プレイ(2005)
11.クール・オン・ユー(2007)
12.メズマライズド(2001)
13.バードランドの子守歌(Live)(2014)
14.セイヴ・ザ・デイ with ローリン・ヒル(2020)
15.クローズ・マイ・アイズ(Acoustic)(2020)

<CD2収録曲>
Blu-ray 1996年東京ドーム初来日公演(原題「Live At The Tokyo Dome」)
1.デイドリーム・インタールード(Fantasy Sweet Dub Mix)
2.エモーションズ
3.オープン・アームズ
4.フォーエヴァー
5.アイ・ドント・ワナ・クライ
6.ファンタジー
7.オールウェイズ・ビー・マイ・ベイビー
8.ワン・スウィート・デイ
9.アンダーニース・ザ・スターズ
10.ウィズアウト・ユー
11.メイク・イット・ハプン
12.ジャスト・ビー・グッド・トゥ・ミー
13.ドリームラヴァー
14.ヴィジョン・オブ・ラヴ
15.ヒーロー
16.エニタイム・ユー・ニード・ア・フレンド
17.恋人たちのクリスマス

公式HP

Nao'ymt公式Instagram
Nao’ymt公式Linktree

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる