Mr.Children『SOUNDTRACKS』が語りかける“今を生きる”大切さ 誰もが辿る人の一生に触れた、全10曲を聴き解く

死から生へ、「今」を讃えて生きていく

07. Birthday
 死・終わりを意識する曲が続いた後に向かうのは、Birth=生・始まりの歌。〈僕は僕でしかない〉と、変わらない自分を受け止めながらも〈いつだって It's my birthday〉、つまりは生まれ変わり続けようと歌う。〈ひとりひとりその命を 讃えながら今日を祝いたい〉と、本曲からも「今」を大切に生きる意志を感じる。

08. others
 君に触れると〈時間(とき)が止まった〉、愛し愛される、〈その一瞬を君は僕に分けてくれた〉ーー本曲の主人公にとって「君」は、「2人だけの幸せな時間」と「愛」という2つの望みを叶えてくれる存在。この2つはまさに「花 -Mémento-Mori-」で歌われてきた、桜井の、そして私たちの根源的な願いなのかもしれない。

09. The song of praise
 〈積み上げて また叩き壊して〉という歌詞は、まさにMr.Childrenの憧れへの挑戦の軌跡のことだと思うが、その段階を終え、〈僕に残されている 未来の可能性や時間があっても 実際 今の僕のままの方が 価値がある気がしてんだよ〉と、未来ではなく「今」を大切に生きようとする姿勢が、本曲にもある。〈違う誰かの夢を通して 自分の夢も輝かせていけるんだ〉というのは、次世代へのあたたかな思いであり、『SOUNDTRACKS』というタイトルに込めた思いとリンクしている。コロナ禍以前に作られた曲ではあるが、讃えあって今を生きて行こうというメッセージは、今の私たちの希望でもあるように思えた。

10. memories
 時は戻ることなく進んでいるのに、memories=記憶だけは昔のまま色褪せず残っていく。時の流れと一緒に、出来事も消え去って行くはずなのに、いまだに〈幕を下ろせない〉、終わったことにできない想いがある。人生に終わりは来るが、記憶の中で人は生き続け、人の想いは永遠に残る。『SOUNDTRACKS』を初めて聴いた時、過去、今、未来をつなぐ交差点に立っているような作品だと感じたが、まさに「記憶」がそれらの架け橋になっているのだということを、本曲が教えてくれる(歌詞カードの最後にとある一文が載せられているが、その意味するところもこれに通ずると思う)。

Mr.Children「SOUNDTRACKS」Trailer

 本作のテーマは、「愛を手にする」「終わりを想う」、そして「今を生きる」ということではないだろうか。誰もが辿る「人の一生」というものを思わずにはいられない作品だった。「今を生きる」大切さを、Mr.Childrenは私たちに語りかけているのかもしれない。

 最後に、ここまでは楽曲自体にフォーカスして述べてきたが、本作のサウンドはMr.Childrenが今までにやったことがないものだということも強調しておきたい。本作はグラミー賞の受賞経験を持つエンジニア、スティーヴ・フィッツモーリスと、ストリングスアレンジのサイモン・ヘイルを迎えて16チャンネルのテープで録音された。彼らはMr.Childrenと見事に化学反応を起こし、良い意味でバンドの殻を破っていった。

 楽器の響き方は今までと大きく違い、また音数も減った印象で、長年のファンなら一瞬で「いつもと違う」と感じたはずだ。しかしその違和感はすぐ高揚に変わった。ひとつひとつの音の存在感が増しており、すっかり虜になった。Mr.Childrenはまだ終わらない、この先ももっと素敵な未来があるということを確信する一枚であった。

 大好きなアーティストの最後の日というものは、ファンにとって想像したくないものである。桜井は「このアルバムで最後にしたい」と、それほどに最高傑作だという意味で言ったが、確かにここまで「最後」を意識させられた作品は初めてであった。アルバムのたび、自らを更新していくMr.Childrenの“終わり”は、まだまだ先のことであってほしい。ゆっくりでいいから、これからもその笑顔を見せてくれないだろうか。

■深海アオミ
現役医学生・ライター。文系学部卒。一般企業勤務後、医学部医学科に入学。勉強の傍ら、医学からエンタメまで、幅広く執筆中。音楽・ドラマ・お笑いが日々の癒し。医療で身体を、エンタメで心を癒すお手伝いがしたい。Twitter

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