アルバム『アンデッドアリス』インタビュー
DECO*27が語る、ボカロ文化の継承とジャンルとしての奥深さ 「人と人、音楽から音楽へとどんどん繋がっていける」
ボーカロイドプロデューサーであり、音楽家としてたくさんの傑作を世に送り出してきたDECO*27。自身の誕生日、12月16日に『アンドロイドガール』(2019年5月発売)以来1年7カ月ぶりとなるアルバム『アンデッドアリス』をリリースする。本作は、「アンデッドアリス feat. 初音ミク」、「勘違い性反希望症 feat. 初音ミク」、「二息歩行 (Reloaded) feat. 初音ミク」、「乙女解剖 feat. 初音ミク (TeddyLoid Alllies Remix)」、「ポジティブ・パレード feat. 初音ミク」、「ネガティブ進化論 feat. 初音ミク」を含む全12曲を収録。
ボカロ文化を牽引してきたDECO*27による、キャッチーな言葉遣いながらも奥深い哲学的な歌詞の魅力、楽曲へ伏線を張り巡らすギミッカブルな関連性の妙。ストーリーテラー、初音ミクの真骨頂といえるボーカロイドアルバムの決定打となる作品だ。
DECO*27は昨年、新会社「OTOIRO」代表に就任。音楽、映像、デザイン、グッズなどを一気通貫で手がけるクリエイティブカンパニーを設立した。
ボカロ文化を世界へ広める決意のもと、新しいチャレンジをしている。そのひとつが、ニコニコ動画からYouTubeへの動画投稿のシフトだ。しかし、これは一部ファンからは疑問の声も届いた。そこで、DECO*27本人に、なぜ今YouTubeなのか? そして、ボカロPが自身の歌唱によるプロジェクトへ移行するアーティストが続出するなか、なぜ“いま”、初音ミクをフィーチャーしたボカロアルバムを制作するのか? その真意を聞いてみた。(ふくりゅう/音楽コンシェルジュ)
幸せを広げていけることがエンターテインメント
ーーまずあらためて、「OTOIRO」設立のきっかけから教えてください。ボーカロイドプロデューサーが会社を作って経営もされるって珍しいですよね。
DECO*27:2018年の年末に前の事務所との契約が円満に終了して。その前からぼやっと会社を作りたいなと思いがあって。せっかく10年以上、活動をやってきて注目してくださる方も増えたのでもっと前に進む意思をみせたいと思ったんです。社名にもあるのですが“OTO”と“IRO”を組み合わせているんですね。うちの会社の最初のメンバーってakkaとか、それこそ初期の「モザイクロール」の映像を作ってくれていて。関わってくれたクリエイターにはずっと好きな動画を作ってほしいし、イラストを描いてほしいなって思ったんです。だったら自分で雇用すればいいんだって気がついて。好きなクリエイティブを一生やっていてほしいなって。それもあって会社OTOIROを立ち上げました。
ーーしかも、音楽アーティストやデザイン面など所属クリエイターも増えているそうですね。
DECO*27:“IRO”部門に「勘違い性反希望症 feat. 初音ミク」をディレクションしたあわしまも入りました。彼女は昔、n-buna君のミュージックビデオなんかも作っていました。あと、“ITO”部門も作ったんですよ。最初は想定していなかったんですけど、“OTOIRO”には“ITO”という文字も隠れていて(笑)。アパレルというかグッズなども手がけられたらなと。そろそろ第一弾のグッズを発表している頃かな。マネタイズできるポイントが広がりましたよね。それは、会社にとってもグッズを楽しみにしてくれるファンの方にとっても幸せを広げていけることだと思っています。それがエンターテインメントだと思っています。
ーービジョンが明確ですよね。それこそ最近はコロナの影響でオンラインライブやオンライン上でのエンターテインメントが注目されていますが、DECO*27さんはずっとそれを実践されてきたアーティストです。こうして、大きな一歩を踏み出したのはインターネットやスマホの浸透によって、音楽シーンであったりビジネスに大きな革命が起きていることへと繋がるのでしょうか?
DECO*27:ずっとやってきたことがネット上での活動なので、自分自身コロナによって変化したことはそんなにないんですよ。ライブ活動を主軸にされていたアーティストの方々がこちら側にくるのかなって、そんな認識だったりはしますね。
ーーちなみに今年から、DECO*27さんがニコニコ動画への楽曲アップを止めて、YouTubeへ投稿の場を移されました。このことへ一部ファンの方が疑問を感じられてコメントしていたりもします。どんな考えでYouTubeへ活動の場を移行されたのですか?
DECO*27:僕はそもそも新しい場で活動することにワクワクする人間なんですね。じゃなかったら自分で会社、OTOIROを立ち上げていません。まず純粋に、YouTubeに主軸を置いた場合にどれだけ数字、見ている人が変化するのかなというのを知りたかったんです。
ーー好奇心なんだ。
DECO*27:あと、海外のお客さんと触れ合った際に情報源を聞くとYouTubeと答える人が多くって。なので、YouTubeで楽曲はアップして英語の字幕もつけていたりします。より世界へ伝わるようにチャレンジをしていきたいんです。僕、ボカロで曲を投稿してから13年目に突入したんですよ。2008年、はじめたての頃って、本当にただ楽しくて何も考えずに作品を投稿してました。13年経つと、当時小学生の子で「モザイクロール」を聴いてたってファンやーーあ、うちの社内にもいるんですけどーーそんな方々とお仕事で一緒になるんですね。その時も質問するんです。「どこで僕の曲を聞いていましたか?」って。そうするとYouTubeって声ばかりで。
僕が大きな目標として掲げているのが“ボーカロイドを世に広めたい!”なんです。もっと広めるにはより多くの人が見てくれる場にしなければと。となれば、こちらも合わせていかないとなって。ノウハウもニコニコ動画やYouTubeだとまた違うと思うんです。なので主軸をYouTubeに置いて、もっともっと日本だけじゃなく海外、そして今の世代の若い子たちにも届けていきたいなって。
ーー文化の継承ですね。
DECO*27:これまで聴いてくれているファンの方も大事ですし感謝もしています。プラスアルファ、より新しい層へ広げていきたいなと思っているんです。10年後にも、今の小学生に「YouTubeで曲を知って聴いていました!」って言ってもらえるように。
ーーシーン全体を盛り上げたいという想いであったり、いかにすればボカロ文化を広げられるかという考えからなんですね。
DECO*27:そうですね。ニコニコ動画も相当長くやっているので愛着も強いんです。育てていただきましたし。でも、もっともっと長く続けて結果を出し続けていきたいんですよ。そこでは悩みましたよ。予想通りというか、ファンの方からネガティブなコメントも届きました。「ニコニコを捨てたんだろ!」って。でも、それは違うんです。とはいえ、新しいことをすると変化に対して相反する意見は生まれると思うんです。でも、それに対してTwitterで返事を書くのは違うのかなって。
ーーTwitterは仕組み上、議論の場としては向いていないツールですからね。
DECO*27:なので、今、このインタビューで聞いていただけたので、そこはちゃんと残る形で発言したいですね。
ーーそれこそ、ボカロ文化の始まりは小さなカルチャーでしたが、どんどん幅を広げていって、今やTwitter、YouTube、中国ではbilibili、TikTokなど、様々なツールを使って広がっていきました。それこそ文化圏としていえば、YOASOBIやずっと真夜中でいいのに。、ヨルシカだって同じ枠組みですし、元ボカロPである米津玄師による活躍など音楽シーンのメインストリームへとなりつつあります。そんな意味では、ボカロ文化圏黎明期から活動するDECO*27さんによる、ニコニコ動画からYouTubeへ移行した決断は様々なことを考えた上での動きということですよね。
DECO*27:継承するためにはどうすべきなのか? みなさんの考えるきっかけにもなってほしいんですよね。
ーー僕はずっとボカロカルチャーを見続けてきましたが、音楽業界の方なんて、数年前「ボカロ、終わったよね」なんてしたり顔で語る人も多かったですもんね。そんな時に、ヨルシカのn-bunaさんが活躍していたことを僕は知っていますから。でも、大きな視点でこの文化を継承させるにはどうすべきか? DECO*27さんはいろいろと考えられているのですね。
DECO*27:新陳代謝は起きると思います。どうすれば自分たちのカルチャーを広げていけるか? ボカロ文化でもそれをアーティストやリスナーが考えるフェーズに入ったんじゃないですかね。ちなみに、中国ではYouTubeは観られないのでbilibiliにはアップしています。でも、bilibiliやYouTubeだと伸びる曲の傾向が違うんですよ。そういったこともチャレンジしてみないとわからなかったので。
ーーどんな傾向の違いなのですか?
DECO*27:bilibiliはどちらかというと可愛い系ですね。あとEDMテイストの四つ打ちな曲が人気で。YouTubeの方は明るい鬱というか、曲は明るいけど歌詞は暗い、僕らしいエモい曲が聴かれていて。
ーーインフラによってリスニング傾向が分かれるのはおもしろいです。ちなみに、初音ミクのアイコンのすごさってあると思うんですよ。初音ミクは楽器でありボーカリストであり象徴でもある。さらに、初音ミク自体がメディアとなり、アーティスト同士、ファン同士をつなぐ存在でもあるという。それこそ日本のユースカルチャーが生み出した音楽文化のスタイルとして画期的で、70年代のパンク、90年代のオルタナティブロックなどと並ぶ素晴らしいカルチャーだと思うんですよね。
DECO*27:ああ、そうですよね。ボーカロイドが面白いのは、パンクとかって音楽ジャンルなんですけど、ボーカロイドというジャンルの中に様々な音楽ジャンルがあるんですよね。ボカロPによって様々な特色ある曲を聴けるという。一度沼に落ちたら奥深い世界が広がっているんです。それこそ、自分が普段は聴かないジャンルの音楽に出会えた人も多い。そこからルーツを辿って広がったり。人と人、音楽から音楽へとどんどん繋がっていけるんですよ。
ーー近年ではTwitterやInstagramなどで“ファンアート”という、いわゆるファンによる二次創作文化が起きましたけど、それってボカロ文化ではずっと当たり前のように、さらに二次創作からn次創作にまで広がりをみせているスタイルですもんね。“歌ってみた”、“踊ってみた”とか。それこそ、DECO*27さんの曲はまふまふさんや すとぷりさんもよく歌ってくれていますし。
DECO*27:ボカロ文化ならではの拡散は、最高に楽しいエンタテインメントですよね。自分で曲を作った時って「最高だ!」って思うじゃないですか、それをいろんな人が解釈して二次創作が生まれて、なかにはとっても素晴らしい作品があって。とても刺激になりますね。「ああ、こんな捉え方もあったか」とか「今のトレンドはこんな感じなのかな」とか。広めていただいて、勉強にもなるんですよ。ありがたいことですよね。