ムーンライダーズは“現代ロックの道しるべ”であり続ける 満月の夜、活動再開果たした中野サンプラザ公演レポート

ムーンライダーズは“現代ロックの道しるべ”

 アンコールも出色だった。1曲目に演奏されたのはなんと「帰還~ただいま」。この選曲には心底シビレた。なぜならこの曲は、1995年6月21日に武川雅寛がツアー先で遭遇した全日空857便ハイジャック事件に想を得ており(加藤登紀子のツアーメンバーとして北海道を訪れた武川がハイジャックに遭い、函館空港の機内で約15時間監禁されて命の危機と向き合った事件)、歌詞で描かれている閉鎖空間で自由を奪われた状況は、まさにウイルスに人間性と日々の営みをジャックされている今の世の中と重なるからだ。おそらく、そのような意図を持って発信されたバンドからのメッセージなのだろう。2度目のアンコールで披露された「はい!はい!はい!はい!」もメッセージ性の強い曲で、これも付和雷同的に世間のムードが決まってしまう今の日本への警鐘なんだな、と思いながら聴いた。

 彼らの詞は、その先見性からしばしば「予言的」と言われることも多くあったけれど、数十年も前の曲が今、また説得力を増していることにおののく。

 また、今回はメンバー共作の「今すぐ君をぶっとばせ」「DON'T TRUST ANYONE OVER 30」をのぞいて、かしぶち哲郎(2013年逝去)が書いた曲は演奏されなかった。今はドラムスに夏秋文尚がいて、彼がしっかり跡を継いでいるわけだし、これもバンドが新しいフェーズに入ることを示唆しているのではないかと思う。

 その証拠に鈴木慶一はMCで「来年にはアルバムを作ります」と宣言した。常に世の中の出来事を反映させた作品作りをしてきたムーンライダーズだけに、アルバムを作るのも「言いたいことがある」からに他ならず、ウィズ・コロナの世界をどう見てどう切り取るのか、そこも興味深い。もし2021年のうちにリリースされれば、『Ciao!』以来10年ぶりのオリジナルアルバムということになる。

 メンバーはそれぞれ60代後半~70代に差し掛かり、一般的には「老境」と言ってもいいはずなのだが、各々別バンドやサイドプロジェクトはどういうわけか年々増えており、実に精力的だ。

 とりわけ鈴木慶一は、はちみつぱいの前身となるバンドを結成したのが1970年なので、そのミュージシャン生活は50年にも及ぶ。ソロや劇判の他では、高橋幸宏とのユニット・THE BEATNIKS、KERAとのNo Lie-Senseや、矢部浩志らと組んだロックバンド・Controversial Sparkなどがよく知られているところだが、11月28日にはゲーム音楽『MOTHER』を共に手掛けた田中宏和(Chip Tanaka)をゲストに迎え、ミュージシャン生活50周年記念ライブを行う。脇を固めるのは、Controversial Sparkの岩崎なおみをはじめ、旧知のゴンドウトモヒコ(METAFIVEなど)や佐藤雄介(カメラ=万年筆)、柏倉隆史(toe、the HIATUS)、西田修大(ex 吉田ヨウヘイgroup)の布陣だ。

 白井良明もオータコージらとのユニット・for instanceを再始動。コロナ禍を逆手に取ってリモートレコーディングで作ったアルバム『door that window』をリリースしたり、鈴木博文はFouHEROという新しく組んだカルテットと自身のソロで毎月ライブを行ったりと、ライダーズの外の活動も何かと賑やかだ。

 いずれのプロジェクトにもメンバーに若いミュージシャンたちがいるが、こと音楽的なことに絞って言えば、ライダーズの面々がベテラン然として“率いて”いるわけではなく、むしろ彼らと対等な関係を築こうとしているのが特徴的だ。ムーンライダーズの感性の若さは、そんなところにも秘密がある気がしている。

 来年はいよいよ結成45周年のメモリアルイヤー。現代的なロックのあり方を示す一つの“道しるべ”として、ムーンライダーズの存在は今後ますます意義を増していくのだろう。

■美馬亜貴子
編集者・ライター。元『CROSSBEAT』。音楽、映画、演芸について書いてます。最新編集本『ビートルズと日本〜週刊誌の記録』(大村亨著/シンコーミュージック刊)が発売中。

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