ムーンライダーズ、圧巻のバンド演奏で聴かせる瑞々しいパフォーマンス 40周年迎えた『カメラ=万年筆』再現ライブレポート

ムーンライダーズ、圧巻のバンド演奏で聴かせる瑞々しいパフォーマンス 40周年迎えた『カメラ=万年筆』再現ライブレポート

 今ではすっかりおなじみとなった「名盤再現ライブ」だが、まさかこのアルバムで聴けるとは夢にも思わなかった。

 ムーンライダーズ、1980年発表の5作目『カメラ=万年筆』。当時、従来のロックや既存の概念を打破し、新しいものを生み出そうとして世界的に大流行したニュー・ウェイヴの影響を強く受け、「とにかくトガったことを」という題目のもとで制作された作品である。サンプリングやポストプロダクションなどのデジタル技術がない時代に、アイデアと演奏技巧の限りを尽くして作ったアバンギャルドな音像は、初期の傑作として今に至るも人気が高い。

 その『カメラ=万年筆』の発売40周年を記念しての祝祭、2016年から活動休止中のムーンライダーズにとって実に4年ぶりとなるバンド単独のスペシャルライブは、折からのコロナ禍により無観客の配信ライブとして行われることになったのだった。

 開演時間、ステージ袖に静かに佇む鈴木慶一の映像はモノクローム。まさに『カメラ=万年筆』の世界観を司るヌーヴェルヴァーグ映画のような雰囲気で、彼の佇まいや面差しに、結成45年の時の重みを見る思い。

 メンバーはステージではなくフロアに、お互い向き合う形で輪になっており、袖から歩いてきた慶一がそこに加わる。円環が完成しただけで早くも熱くなる胸。今夜は観客に向けてのライブでもあるけれど、それ以前に、何よりも各々が「ムーンライダーズ」としての演奏を愉しむためのライブなのではないか、そんなことを感じさせるポジショニングである。

 フリースタイルのインプロ~「地下水道」を経て、アルバムのオープニングナンバー「彼女について知っている二、三の事柄」が始まった。疾走感のあるビートが久々にムーンライダーズのライブを見る感激をさらに盛り立てる。

 曲の終盤には中央にバケツが置かれ、中の水を鈴木博文が繰り返しすくい、パシャパシャと音を鳴らす。アルバムにも同様の音色が使われていたが、その水音が演奏と絡み合う様を目の前で見るのはなんともシュール。11曲目「ロリータ・ヤ・ヤ」の前にも登場したこのバケツは、2013年に亡くなったメンバー、かしぶち哲郎がかつて演奏に使用するために所望し買ったものだそうで、ここもファンにとってはたまらなくグッとくるポイントだったと思う。

 全体的に、無観客ということもあるのか、音の響き方が通常とは異なり、各々の出している音がすごくクリアに聴こえるのが興味深かった。

 特に「無防備都市」や「太陽の下の18才」では白井良明のギターが極立って聴こえたのだが、幾何学的なフレーズが主メロと関係なく暴走しまくる様は圧巻の一言。他のメンバーの演奏も自由を極めたような闊達ぶりで、こんな音像をバックにボーカルはよく歌えるな、と改めて思ったりも。『カメラ=万年筆』は40年前の作品だけれど、そのスピリットたる“トガり”は今もって健在にして有効。ヤケドしそうな奇天烈さである。

 「超絶技巧のニュー・ウェイヴ」というと語義矛盾のようだけど、本当にこのバンドは演奏が巧い。巧い人たちが本気を出して変なことをしようとしたら、それすなわち無双なのは当たり前の話なのだ。

 6曲目「インテリア」に移る前には、これまた奇天烈な「ウェアオー」というコーラスを全員で行い、慶一が掃除機を持ってそれぞれの声を吸いに行くという、いかにもニュー・ウェイヴ(というか前衛!?)っぽい演出もあった。そうかと思うと後半にはマスクをつけたメンバーが咳き込んだり息をあげたりする、まさに「今様」なパフォーマンスもあり、過去と現代の心象が縦横無尽に交差する。

 音楽界でのポジションからいってもムーンライダーズはもっと老獪な手堅さを前面に出してもいいはずなのに、彼らの関心事は常に「今」だから、いつまで経っても瑞々しい。

鈴木慶一

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