『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』彩る音楽世界 言葉にならない感情も表現した、劇場版サントラ&ボーカルアルバムを聴いて
ヴァイオレットの言葉にならない感情も表現
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を彩る音楽は、実に特別なものであると感じさせる。その劇伴を手がけるEvan Callは、バークリー音楽大学映画音楽作曲科を卒業した才能の持ち主だ。アニメの音楽や声優への楽曲提供に止まらず、昨年公開された高橋一生と川口春奈のW主演映画『九月の恋と出会うまで』など、近年は実写作品も担当。また、今年12月25日公開予定の中川大志と清原果耶が声優としてW主演を果たす映画『ジョゼと虎と魚たち』も手がけている。
Evan Callの音楽は、美しく壮大なシンフォニックサウンドが特徴で、水樹奈々「アヴァロンの王冠」では、オーケストラとコーラスによる壮大なシンフォニックロックを聴かせた。シンフォニックメタルやオペラなども好み、オーケストラとコーラスを使った重厚なサウンドメイクは、アニメ音楽界においては他の追随を許さない存在だ。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、手紙というものを通して、人々のさまざまな思いを描き、主人公はその思いに触れることで成長していく。手紙に書かれる文字(言葉)が何よりも重要だが、語彙の少ないヴァイオレットは、しばしば言葉を詰まらせる。Evan Callの音楽は、単にシーンに合った音楽というだけでなく、そんなヴァイオレットの言葉にならない感情も表現してくれている。アルバムを聴き終えこみ上げてくるのは、劇中でヴァイオレットが感じたであろう、愛や慈しみといった気持ちだ。切なくて儚い、でも実に愛おしい気持ちが溢れてくる。
サウンドトラックのサブタイトルの『Echo Through Eternity』には、「永遠に響く」という意味がある。物語に込められた未来への希望や願いが、コロナ禍を生きる我々の心を癒やし、きっと聴く人の心に火を灯してくれる作品だろう。
■榑林史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。