ジョン・レノンの音楽は、なぜ日本のアーティストたちに歌われるのか? 言葉を超えて伝わる純粋なまでのメッセージ性

ジョン・レノンはなぜ日本のアーティストに歌われるのか

 さて、そんなジョンの楽曲は、これも幾多のシンガーたちに唄われてきた。中でも人気なのが「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)」で、LOVE PSYCHEDELICO、flumpool、NOKKO、平原綾香、それにクリス・ハートといった人たちが唄っている。これはクリスマスソングとして認知されているからで、個人性が強いジョンの歌の中でもとりわけ高い普遍性を獲得していると言える。

HAPPY XMAS (WAR IS OVER). (Ultimate Mix, 2020) John & Yoko Plastic Ono Band + Harlem Community Choir

 日本ではジョンのトリビュート盤は公式には2枚作られていて、そのどちらもが『HAPPY BIRTHDAY, JOHN』というタイトルである。1枚目は1999年の発表で、ヨーコや息子のショーン・レノン、佐野元春、細野晴臣らが参加。2枚目は2005年のもので、こちらには椎名林檎、DREAMS COME TRUE、槇原敬之、フジファブリック、BONNIE PINKなど、多数の才能が参加している。

 また、先ほどから触れている『ジョン・レノン スーパー・ライヴ』は、ジョン&ヨーコと日本の現代の音楽シーンとの架け橋になった感がある。こちらも駆け足で紹介するしかないが、ムッシュかまやつ、ゆず、キリンジ、坂本龍一、加藤登紀子、スキマスイッチ、木村カエラ、くるり、Chara、綾香、OAU、井上陽水、細美武士、miwaなど多くのアーティストたちがジョンの歌を唄ってきた。そして、忌野清志郎。彼はこの日本でジョン・レノンの歌を独自に解釈したアーティストの筆頭として挙げられるべきだろう。

 こうしたカバーでも、やはりアーティストそれぞれの個性は出るものだ。たとえば椎名林檎による「ヤー・ブルース」「スターティング・オーヴァー」は、楽曲が持つ魅力を彼女流の解釈によって最大限に拡大したかのような趣がある。最近インタビュー取材した奥田民生はジョンの楽曲やサウンドの構造に関心を惹かれてきたようで、遊び心も込みで、オマージュやリスペクトを盛り込んだ演奏をしてきた人である(しかも彼の場合はオリジナル曲でも、だ)。

椎名林檎 - yer blues

 ジョンがバンドで鳴らす曲の多くは、その質感が非常にヘヴィ、かつソリッドだ。また、彼のしわがれた声はロックボーカルとしての存在感が強く、そこを目指した唄い方をするシンガーもいる。かと思えば、ジョンには優しい声も、アコースティックな曲のチャーミングさもあることから、その振り幅も魅力的である。

 このようにジョンの歌は、日本の音楽シーンでずっと愛されてきた。ちなみに現在開催中の展覧会『DOUBLE FANTASY -John & Yoko(ダブル・ファンタジー ジョン&ヨーコ)』(以下、『ダブル・ファンタジー展』)にコメントを寄せている顔ぶれには、細野晴臣、つんく♂、曽我部恵一、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)、JQ(Nulbarich)、小山田圭吾、オカモトコウキ(OKAMOTO’S)、片寄明人(GREAT3)といったミュージシャンたちが並んでおり、思ってもみなかった名前に驚くファンもいることだろう。また、こうして具体的に影響を公言しているアーティスト以外にも、ジョンの音楽を自分の内面で消化し、表現に還元しているアーティストも間違いなくいるはずだ。

 それともうひとつ。ジョンの歌が日本で支持され続ける要因としては、オノ・ヨーコの存在も少なからず関係していると思う。1970年代のジョンはお忍びでヨーコとともに来日することがあり、開催中の『ダブル・ファンタジー展』では、ジョンが日本語を学ぼうとした際のスケッチブックも展示されている。こうした間には内田裕也と交流を持っていたようで、先日公開された娘である内田也哉子へのインタビューによれば、お互いの伴侶であるヨーコと樹木希林も含めて、いい関係であったとのことだ。

 なお、参考までに、ヨーコはジョンの死後に音楽から遠ざかった時期もあったが、2010年前後には小山田圭吾がギターを弾くプラスティック・オノ・バンドを率いて活動した。過去には小泉今日子、シーナ&ロケッツ、ソウル・フラワー・ユニオンの前身のメスカリン・ドライヴが彼女の曲をカバーしたこともある。ヨーコもまた、わが国の音楽シーンに影響を与え続ける存在であることも付記しておこう。

 ここまでジョンの楽曲と存在、それを日本のアーティストたちが音楽に還元してきたものを確かめてみて、気づいたことがある。彼の表現は、もちろん歌、メロディ、サウンドといったものによるパワーもあるが、それ以上に大切に思われているのは、そこに込められたメッセージ性だということだ。

IMAGINE. (Ultimate Mix, 2020) - John Lennon & The Plastic Ono Band (with the Flux Fiddlers) HD

 ジョンの歌は、曲によっては理想的とも夢想的とも受けとれ、純愛的でも、赤裸々でもある。そしてカバー曲のほとんどは、その中身をなんとか理解しようとした上で唄われている。表現の仕方の違いはあれど、どのシンガーも、それぞれの誠実さを抱えながら唄っていることが感じられるのだ。そしてジョン・レノンという人の存在はピュアの極みで、その歌は人間の根源や本質に向かっている……と捉えられているような節を感じる。彼の歌を唄う人は、「自分もこうありたい」「ジョンのような姿勢やものの考え方でありたい」と告げているかのように思える。それはまるで彼・彼女たちの心のよりどころ……あえて大げさに言えば、「聖域」のような印象さえ受けるほどだ。

 もっとも、ジョンのような生き方を実践したらいばらの道が待っていることは明らかで、誰もがマネできるようなものではない。それゆえに、よけいにジョンの純粋さは際立っていると思う。

 ジョンの死から今年で40年。当時の僕は子供だったが、ここまで彼について語られるようなことはなかったと記憶している。彼の音楽に心を揺さぶられる者は間違いなく増え続けている。それはきっと、これからもそうであるに違いない。

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・ジョン・レノンと現代のミュージシャンを結ぶものとは? 孤独、愛、怒り…新ベスト盤に収められた2020年にこそ必要なメッセージ
・ジョン・レノンから現代を生きる人々へーー価値観の転換期である今、『ギミ・サム・トゥルース.』が示す指針

■青木優(あおきゆう)
1966年、島根県生まれ。1994年、持ち込みをきっかけに音楽ライター業を開始。現在「テレビブロス」「音楽と人」「WHAT’s IN?」「MARQUEE」「オリジナル・コンフィデンス」「ナタリー」などで執筆。

■リリース情報
ジョン・レノン生誕80周年記念
ニュー・ベスト・アルバム『ギミ・サム・トゥルース.』
10月9日(金)発売
ご試聴はこちら

■展覧会情報
『DOUBLE FANTASY -John & Yoko(ダブル・ファンタジー ­ジョン&ヨーコ)』
会期:2020年10月9日(金)〜2021年1月11日(月・祝)
休館日:2020年12月31日(木)/ 2021年1月1日(金)
場所:ソニーミュージック六本木ミュージアム(東京都港区六本木 5-6-20)
主催:株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント / 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ
チケットに詳細はこちら
オフィシャルサイト

ジョン・レノン
©2018 YOKO ONO LENNON All Rights Reserved

■映画情報
ジョン・レノン生誕80周年記念上映
劇場上映版『イマジン』

<10月9日(金)より生誕80周年記念上映>
TOHOシネマズ日比谷他、全国順次公開ドルビーアトモス上映

出演:ジョン・レノン、オノ・ヨーコ、ジョージ・ハリスン他
監督・制作:ジョン・レノン、オノ・ヨーコ
2018年(オリジナル1972年)/イギリス/86分
配給:Eastworld Entertainment / カルチャヴィル 

劇場上映版『イマジン』公式サイト

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