Sports Team、Fontaines D.C.、IDLES......UKチャート賑わすロックバンド ヒットの鍵は“インディコミュニティの活性化”

Sports Team『Deep Down Happy』

 結局のところファンがレコードを買っただけなのだが、Sports Teamの戦いはそこに特別な意味をもたらした。大げさに言うとレコードを買うという行為は、音楽を楽しむと同時に彼らとファンの活動を支持し、そのコミュニティに参加するという行為に成り代わったのだ。十代の若者が中心になって活動しているWhatsAppのグループ、Sports Teamコミュニティがその代表例だ。単なるバンドのオンライン・ファンコミュニティの枠を越えて、そこでお勧めの音楽を共有し合い、ライブ会場での出会いを果たし、さらにはロックダウン中の心の支えになりもした。

 今ではSports Teamというふざけたバンド名がまさに“スポーツのチーム”、たとえばフットボールクラブを応援することと同じ意味合いを持ち始めたようにも思える。スタンドからピッチに降り立った俺たちの仲間、Sports Teamの音楽はただの音の塊ではなく、人と人、自分の考えと他人の意見とを繋ぐ“バンド”としてそこに存在したのだ。

Sports Team - Camel Crew
Sports Team - Here's The Thing
IDLES『Ultra Mono』

 ブリストルのIDLESはよりシリアスな政治的主張をそこに加えて、AF GANGという強固なコミュニティを築き上げてきた。この集団にはインターネット以前のコミュニティを知る人たちも多く存在し、Sports Teamのそれとはまた違った様相を呈している(主戦場がFacebookというのも示唆的だ)。だが、どちらのバンドにもこうしたコミュニティが成立しえたのは、やはりライブがあったからで、その熱量がそのままオンライン上に持ち込まれたのではないかと推測する。いずれにしてもブリストルの街の頼れる兄貴、あるいはリーダーとしてIDLESが精神的支柱となり、集団の先頭に立っているのは間違いない。

IDLES - WAR (Official Video)
IDLES - DANNY NEDELKO (Official Video)
Fontaines D.C.『A Hero's Death』

 そしてFontaines D.C.は、こうしたコミュニティの眼前に現れたスターなのではないかと思う。海の向こう、アイルランドからやってきた彼らは、仲間でも兄でもなく、そこにはアウトサイダーへの憧れが強くあり、ボールを持った瞬間に何が起きるのかと期待して目を奪われてしまう選手のように、皆がFontaines D.C.に視線を向けた。その点がSports TeamやIDLESと異なる部分だ。Fontaines D.C.はよりナイーブに文学性を帯びて、連帯を必要とせずに、ロックンロールの憧れとしてそこにあったのだ。プレミアリーグのスター選手のユニフォームが欲しくなるように、Fontaines D.C.のレコードも欲しくなる。そしてその結果がチャートのアクションに表れた。

Fontaines D.C. - A Hero's Death (Official Music Video)
Fontaines D.C. - Televised Mind (Official Music Video)

 ストリーミングで音楽が聴けるのになぜレコードを買うのか? その答えこそがこれらのバンドのチャート躍進の正体なのではないかと思う。つまり我々は特別が欲しくなり、その物質を通して誰かを感じ、満たされたいのだ。何かの一部になること、そこには音楽を聴いてそれで終わりにならない過程がある。今のUKシーンはそんな特別なものになりうるバンドがたくさんいる。それゆえに次に何が起きるのかと追いかけ、感じたくなるものなのだ。

■Casanova.S
ロンドンのフットボールクラブ、トッテナム・ホットスパーFCのファンでインディミュージックファン。デビュー直後のSports Teamのツイッターをなんの気なしにフォローしてからというもの気がつけば今のUKシーンにどっぷり浸かる日常に。まさにクラブを応援するかのごとし。
Twitter(@CCYandB)

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