田中ヤコブ『おさきにどうぞ』連載 第1弾
田中ヤコブ×石塚淳(台風クラブ)対談、エレキギターで生み出すロマン 曲作りから録音まで“理想のサウンド美学”を語り合う
「ソロだと制約がないからなんでも入れられる」(田中)
ーーでも、ヤコブくんの新作には、「えかき」「いつも通りさ」といったストリングスが入った曲もあります。
田中:「えかき」に関しては、名古屋にハートカクテルっていう好きなバンドがいて、そのメンバーの亀谷(希恵)さんにぜひバイオリンを弾いてほしくて、直談判して、機材担いで夜行バスで名古屋に行ってきました。ハートカクテルは他の人に曲をもらって演奏しているバンドなんですけど、それで俺も勝手にハートカクテルに曲を提供するなら……ってイメージして作っていたんです。でも、でき上がったら亀谷さんに本当にバイオリンを弾いてもらいたくなって、それでお願いしたら受けてくださって。で、「いつも通りさ」の方は、めっちゃ頑張って俺がチェロ弾きました。
石塚:あ、やっぱそうなんや。
田中:近所に1時間500円とかでチェロを貸してくれるところを見つけて。
石塚:そこってヤコブくん以外利用してる人いんの?(笑)
田中:普段はクラシック音楽系の人が利用しているところみたいです。ソロだと、制約がないから、なんでも入れようと思えば入れられるところが大きな利点で。バンドでストリングス入れる気はあんまりないですけど。
石塚:うん、俺もストリングスとか興味ないことないけど、エントロピーが増大して無茶苦茶になるじゃないですか(笑)。ギター、ベース、ドラムでねじ伏せるので精一杯で。
田中:石塚さんの曲は古典的でありそうで、古典的でないっていうか。一聴して、音とかリフはロックンロールかなって感じもするんですけど、曲を聴けば聴くほどいろんな要素が感じられるんですよね。構成としてもちゃんと循環して成り立っている。ポップスとしてのわかりやすさもあるし。実際にコピーするとそのすごさに気づくんですよ。さっき話したように、もしかして一緒にやるかもしれないってなった時に「火の玉ロック」をやってみたんですけど、これがもうめちゃくちゃ難しい。どこに転がっていくかわからない。聴いていた時の違和感が心地よくて、コピーしたらすごいってことがわかる。深淵を覗く感じっていうか。そこは自分も目指しているところなんでよくわかるんですよ。
石塚:一発で聴けなあかんのに、作ってる側は、A/F#m/D/Eとかのコードだと全く盛り上がらないからいろいろ試してみる……みたいな感じなんですよね。で、間違って押さえたコードがおもろかったら次に進めることもあります。かつ、聴き流せるかどうかも重要で。
田中:でも、聴き流せないところがあるというか。歌詞もそうだし、全ての要素がそういう感じするんですよね。近くで見た時と、遠くから見た時の違いがあるような感じっていうか。遠くからちゃんと見えるっていうのが確かにすごいんですけど、えてしてそういうものって近くで見たらあんまり……ってことあるじゃないですか。でも台風クラブは近くで見てもいろんな要素が複合的に、有機的に混ざり合ってる気がして。そういう音楽ってなかなかないんで、聴いていてすごいなあ! って思います。パッと聴きでも素晴らしいし、聴き込んでいくとその良さにエビデンスがちゃんとあるというか。
石塚:でも確かに、普通に聴いて「いい曲!」と思えるのがまず大前提。で、あとは俺がおもろないと作れないので、中身はちょっとややこしいことにしてるって感じ(笑)。しかも、楽曲もなるべく3分台に収めたい。
ーー台風クラブの「日暮し」はバンド史上、初の4分越えです。
石塚:あれね、それでもかなり削ったんですよ。最後の〈ナー・ナー・ナー〉ってところも歌いたいしなって。まあテンポも遅いし、削って4分半、これでギリギリでしたね。ソロとかもBメロの尺にして……。
田中:基本3分半にこだわるってよくわかります。4分越えるなら意味のある4分越えじゃないとって思いますよね。
対談前の事前質問&回答
田中ヤコブ
【Q】音楽活動を始めるに至ったきっかけを教えてください。
【A】親が好きだった。野球部をやめてやることがなくなったから。
【Q】自身の音楽活動において、最も影響を受けたアーティストを教えてください。
【A】真島昌利、ジェフ・リン
【Q】ソングライティングにおいて最も気にかけていること、こだわっていることを教えてください。
【A】自分が良いと思える曲を作る。
【Q】ここ最近の愛聴盤(もしくは曲、アーティスト)を教えてください。
【A】Caravan(UKのプログレッシブバンド)、SE SO NEON『Nonadaptation』
【Q】対談相手のミュージシャンの第一印象を教えてください。
【A】几帳面な方。
石塚淳(台風クラブ)
【Q】音楽活動を始めるに至ったきっかけを教えてください。
【A】小6のとき、ユーロビートのコンピだと思っておじいちゃんに買ってもらったCD が、実は『MAX』という洋楽メガヒットを集めたコンピでした。そこに入ってたOasis「Don't Look Back In Anger」を聴いて、もしこれがエレキギターの音なら自分もエレキをやろうと思ったのがエレキッカケです。
【Q】自身の音楽活動において、最も影響を受けたアーティストを教えてください。
【A】影響同士が影響し合ってこちらに影響を与えているので、「最も」というのが思いつきません。 あちこちから山ほど影響を受けていますが、その巨大な山の頂はなだらかです。
【Q】ソングライティングにおいて最も気にかけていること、こだわっていることを教えてください。
【A】作ってて面白いか、バンドで鳴らして面白そうかどうかを気にしています。曲作ってるときはだいたい大風呂敷を広げ過ぎて、戻ってこれなくて頓挫します。なんとか力ずくで戻ってきて反復構造のあるポップになって、そこから苦労して歌詞を書いてやっと1曲になります。
【Q】ここ最近の愛聴盤(もしくは曲、アーティスト)を教えてください。
【A】センチメンタル・バス『さよならガール』、Jules & The Polar Bears『Fenetiks』
【Q】対談相手のミュージシャンの第一印象を教えてください。
【A】去年の夏の渋谷、ヤコブくんはラッキーオールドサンのツアーサポートで弾いていたんですが、アンサンブルの中では歌手を立てて涼しげに佇んでいるのに、ギターに耳を傾けるとアッツアツの音でえげつない演奏をしている姿が、往年のTVショーでの職人ギタリスト像と重なって、しばらくは心の中でSHŌGUNの人って呼んでました。
【Q】田中ヤコブ『おさきにどうぞ』で気に入った曲を教えてください。
【A】まだ2巡しかしてないのであくまで“2巡目の”です。 これから咀嚼してさらにおいしくなります。
「ミミコ、味になる」:イントロからいい予感がしていて、歌が始まった瞬間に12弦エレキが入ってきて早速気分は最高!
「BIKE」:超いい曲。 特にサビでドンタドドンタンになるのが大好きでキター! ってなります。
「cheap holic」:ハードロック然としたイントロを裏切って始まるメロウなコード運びが最高!
「LOVE SONG」:超いい曲。エレキギターも大活躍していて最高です。
「えかき」:ストリングスって? まさかヤコブくんストリングスもできるのか?
「いつも通りさ」: 要所で出てくるストリングスと一度だけ出てくるエレキリードが最 高。抜群に効いてます。
「小舟」:超いい曲。要所要所でそうきたか~ってなります。
■リリース情報
田中ヤコブ『おさきにどうぞ』
2020年10月14日(水)¥2,200+税
<収録曲>
01.ミミコ、味になる
02.BIKE
03.cheap holic
04.LOVE SONG
05.えかき
06.Learned Helplessness
07.THE FOG
08いつも通りさ
09.どうぞおさきに
10.膿んだ星のうた
11.TOIVONEN
12.小舟