櫻井孝宏、中村悠一、神谷浩史、福山潤、小野大輔、入野自由……『おそ松さん』で技の限りを尽くす、声優たちの演出力
赤塚不二夫の名作ギャグ漫画『おそ松くん』に登場する松野家の6つ子が成長した姿を描いたTVアニメ『おそ松さん』(テレビ東京ほか)。“赤塚不二夫生誕80周年記念作品”として2015年に放送されて以降爆発的な人気を誇り、2017年には第2期が、2019年には劇場版『えいがのおそ松さん』がそれぞれ放送・上映された。そしていよいよ、10月12日から第3期の放送が開始されるということで、改めてその魅力を振り返ってみよう。
第一線を走り続ける6人が、技の限りを尽くして臨む『おそ松さん』
“ニート&童貞”に成長した6つ子が繰り広げるドタバタ劇は、基本的にはシュールかつブラックなギャグで構成されている。シリーズを通して『おそ松さん』の構成・脚本を手がける放送作家の松原秀は、バラエティやお笑い番組を手がけるいわば“笑いのプロ”。しかし、松原が描く『おそ松さん』は決して笑いだけではない。ときにしんみり、ときにほっこりするエピソードがさりげなく挿入されているのも人気の理由である。
そして、その独特な世界観の魅力を最大限に引き出したのが、6つ子を演じる櫻井孝宏、中村悠一、神谷浩史、福山潤、小野大輔、入野自由だ。『おそ松くん』以上にそれぞれの個性がデフォルメされた『おそ松さん』の6つ子に息を吹き込む彼らはみな、声優としてつねに第一線を走り続けていることは言うまでもない。そんな彼らが技の限りを尽くす『おそ松さん』の収録現場は、予想だにしなかった化学反応が起こるようだ。
そもそも、『おそ松さん』が始まった当初は6つ子の個性がいまほど確立していなかったという(参考)。それが、回を重ねるごとにキャスト同士の掛け合いから奇跡的な瞬間が生まれ、徐々に浮かび上がってきたそれぞれの個性を松原が“当て書き”によって伸ばしていったのが、いまの『おそ松さん』の6つ子なのだ。
6つ子を演じるのが彼らではなかったら、私たちはまったく違った『おそ松さん』を観ていたかもしれない。そんなことを想像しながら、改めて6つ子を演じるキャスト陣の“演出力”をおさらいする。第1期第1クールEDテーマ「SIX SAME FACES 〜今夜は最高!!!!!!〜」、第1期第2クールEDテーマ「SIX SHAME FACES ~今夜も最高!!!!!!~」、第2期第2クールEDテーマ「大人÷6×子供×6」には各キャラがセリフや合いの手を入れたバージョンもあるので、それらを参考にそれぞれの個性を楽しんでいただきたい。
おそ松のバランス感、カラ松のふと見せる隙、チョロ松の増幅された“イタさ”
松野家長男・おそ松を演じる櫻井孝宏は、一松役の福山潤いわく「常軌を逸したバランス感覚の持ち主」。ほかの5人がそれぞれに突出した個性があるなか、真ん中に立つおそ松は“小学6年生のメンタルのまま成長してしまった奇跡のバカ”という、6つ子全員に通じる要素をストレートに表現している。そこには足すものも引くものもなく、ひたすら無邪気でテキトーな“子どものような大人”像があるのみだ。個性あふれる5人に引っ張られることなく、おそ松の立ち位置をしっかりと捉え演じる。それこそが福山の言う“絶妙なバランス感”を持つ櫻井の真骨頂なのだろう。
中村悠一が演じる松野家次男・カラ松は自分の世界に浸り、クールを気取ったナルシストだが、メンタルが弱くビビりの一面も。中村は「ある種“隙だらけ”なところが魅力で、しかもそれをカラ松は自覚していない」と分析しているが(参考)、まさにその“無自覚な隙”がふと表に現れる瞬間こそが、カラ松の最大の魅力と言えるだろう。実際、カラ松の涙が切ない第1期5話『カラ松事変』で“カラ松ガール”になった視聴者も多いとのこと。カッコつける部分と、つい素が出てしまう部分の両方を、“いい声”の中村が演じる。そのギャップがカラ松というキャラクターに深みを持たせているのだ。
『おそ松さん』のキャスト取材の際によく聞くのが、「チョロ松のセリフは台本で読んでも何が面白いのかわからないけれど、神谷(浩史)さんが演じたら抜群に面白くなる」という言葉。6つ子のなかでは常識人ぶっているためツッコミ役にまわることが多い松野家三男・チョロ松だが、クズニートには変わらない。その葛藤から生じる高すぎる自意識をおそ松とトド松に指摘される第1期19話『自意識ライジング』は、神谷が演じることによって増幅されたチョロ松の“イタさ”が浮き彫りになる神回とも言えるだろう。以降のチョロ松は、まともなことを言っていてもなぜか面白く聞こえてしまうという現象を引き起こした。