音楽特番における“名曲企画”増えざるを得ない事情 そして見えてくる未来につながる可能性とは
コロナ禍が続くなか、今年もテレビ各局で夏の音楽特番が放送された。そこで共通して目立っていたのが、往年のヒット曲を中心に各アーティストの代表曲を「名曲」としてフィーチャーした企画だった。
これはいまに始まったわけではなく、近年続く傾向だ。そういうこともあってか、最近は本人が歌唱するシンプルなスタイルばかりではなくなってきた。
たとえば、コラボがそうだ。その形式も、ますます多彩になっている。
『2020 FNS歌謡祭 夏』(フジテレビ系)では、実に25曲ものコラボがあった。DA PUMPとm.c.A・T、TUBEと鈴木雅之による互いの持ち歌のコラボもあれば、森山直太朗が平手友梨奈のダンスとのコラボで「生きてることが辛いなら」を歌うという組み合わせもあった。また『ライブ・エール~今こそ音楽でエールを~』(NHK総合)では、「やさしさに包まれたなら」を松任谷由実本人と他の出演者たちがコラボする場面があった。
カバーも目を引く。たとえば、『2020 FNS歌謡祭 夏』では志尊淳と城田優がスキマスイッチの「全力少年」、満島ひかりが中島みゆきの「ファイト!」を、『音楽の日2020』(TBS系)では島津亜矢がOfficial髭男dismの「Pretender」、三浦大知が井上陽水の「少年時代」を歌った。『THE MUSIC DAY 人はなぜ歌うのか?』(日本テレビ系)では、乃木坂46が「Get Wild」など小室哲哉の楽曲のカバーメドレーを披露した。
ただこうした工夫によって新鮮さが保たれたとしても、毎回繰り返されればマンネリ気味になってしまうこともあるだろう。
しかし、「名曲」企画が増えざるを得ない事情もある。
ここ何年かで、ヒット曲誕生の仕組みは劇的に変化した。ヒット曲がテレビで生まれる時代から、ネットで生まれる時代になった。
最も象徴的なのが、今年有数のヒット曲である瑛人の「香水」だろう。この曲が配信でリリースされたのは昨年2019年の4月だが、ヒットし始めたのは今年春に入ってから。よく知られるように、きっかけはTikTokだった。ユーザーが「香水」の歌ってみた動画や弾いてみた動画を次々と投稿し、急速に知名度を上げていった。
米津玄師に代表されるように、ネットから人気アーティストが生まれる流れは数年前からあった。ただその場合多くは、YouTubeのMVなどがきっかけだった。「香水」のようにアーティスト本人が直接かかわらないところでヒットしていくケースは珍しい。その点、楽曲が自然発生的にシェアされるところからヒット曲が生まれるという、ますますネットらしい流れになっている。
こうなってくると、テレビとネットのギャップもいっそう広がってくる。「誰もが知るヒット曲が減った」「『紅白』を見ても、初めて見る歌手ばかりだ」というような声が聞かれるようになって久しいが、その状況はいまのところ簡単に解消されそうにない。そのなかで必然的に増えるのが、「名曲」をフィーチャーする企画ということではないだろうか。
とはいえ、テレビの音楽番組もその状況を漫然と眺めているわけにはいかない。テレビとネット、年上の世代と年下の世代をつなぐために自ら行動を起こすことも必要だ。
その意味で、2020年8月16日放送の『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)は興味深かった。内容は、先述の「香水」のような、SNS時代のヒットの法則を探ろうというもの。ゲストとして「夜に駆ける」がやはりネットから大ヒットしたYOASOBIも登場し、SNSや動画共有サイト、サブスクからいかにしてヒット曲が生まれるのか、そうしたヒット曲の音楽的特徴はどのようなものかを、ヒャダインの解説を交えわかりやすく説明していた。
ただし、ヒットの法則に「新しい」「古い」はあっても、音楽まで同じ基準で評価することは、音楽シーンそのものをやせ細らせてしまいかねない。