音楽特番における“名曲企画”増えざるを得ない事情 そして見えてくる未来につながる可能性とは

音楽特番、“名曲企画”増えざるを得ない事情

 一方で、かつての歌謡曲が当時を知らない若い世代を惹きつけ、「昭和歌謡」として人気を集める現象もある。そこにはノスタルジーではなく、いまの音楽にはない“新しさ”が感じ取られているのだろう。

 アーティストの口からも、そのような言葉をつい最近の音楽番組で立て続けに聞いた。

 宮本浩次は、9月19日放送の『SONGS』(NHK総合)のなかで歌謡曲愛を熱く語った。歌詞の主人公に感情移入してしまうという彼の話には、歌謡曲の持つ強い物語性を思い起こさせるものがあった。それは、「夜に駆ける」が星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』を原作にしている事実とどこかで響き合っているようにも思える。

 MISIAは、9月20日放送の『関ジャム 完全燃SHOW』に出演。そのなかで「音楽において最も大事にしていること」を聞かれた彼女は、1オクターブが12音階であることにとらわれる必要はない、昔の歌謡曲にはキーボードに当てはまらない音がいっぱいあったと語り、「世界はもっと広い」と言っていた。

 「古い」と片付けられがちな歌謡曲のなかにも、未来につながる可能性が存在することを2人の言葉は教えてくれる。その意味で、「名曲」企画もまたやりかた次第で未来を拓くものになりうるはずだ。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。

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