アルバム『THE TRAVELING LIFE』インタビュー
小山田壮平が語る、ソロアルバム制作の中で得た節目 「すべてに意味があるって考えていったほうが人生が楽しめる」
俯瞰的に眺めているような曲が多い
ーー例えば、andymoriの曲の中でも「teen’s」は10代の時に作った曲で。それと「HIGH WAY」や「君の愛する歌」の精神状態は真逆と言っていい程の違いがあると思うんですが、それについてはどう思いますか?
小山田:それもやっぱり、昔も「HIGH WAY」や「君の愛する歌」みたいな感情がなかったわけじゃないんですけど、曲にはできないくらい淡いものだったのが、単純に歳をとって経験を積んできて濃く出てきたってことだと思うんですよね。あまりそういう風に昔と今とを客観的に分析することはしてないんですけど、ちょっと冷静にはなってる気がしますね。激しい情熱っていうよりは、俯瞰的に眺めているような曲が多いのかな。
ーーちなみに「ゆうちゃん」は結構前からライブでやってる曲ですが、これは実在する人物なんですか?
小山田:実在しないですね。ただモチーフになった女の子がいて。自分がよく宿題をするのを忘れたり、忘れものをすることが多い子供だったんですが、そこで綺麗なノートを見せてくれたあの子によくしてもらったなってことを思い出して。大人になってもずっと、そういうゆうちゃんのような存在が常にいて、助けてもらって生きてるなってことを実感するんですよね。この曲も客観的な歌ではあるんですけど、ふたりの友情を描いていて。意識してなかったんですけど、「『ちびまる子ちゃん』のたまちゃんとまるちゃんの関係だよね」って言われたことがあって、「確かに」って思いました(笑)。たまちゃんはすごく優秀な子なんだけど、まるちゃんとすごく仲良しで。
ーー確かにそうですね(笑)。あと、このアルバムは歌がどんどん素晴らしくなっていると思っていて。
小山田:ありがとうございます。毎回歌入れは辛いんですけど、今回も苦しんで。アレンジまでほぼ終わって歌入れが始まる時から、まさにスランプのような状態に陥りました。歌っても気持ちが全然開放されなかったんです。実家の猫が死んでしまったり、コロナ禍の影響もあるだろうし。でも、なんで気分が落ちるかって、明確な理由ってよくわからないですよね。あと、毎回歌入れの時にすごくてこずるっていうのが記憶にこびりついているので、どんどん引っ張られて、またそういう状態になっちゃうっていうのもあるとは思うんですけど。ALは歌をふたりで歌っていたので、そこまでてこずった記憶はないんですけど、アンディは基本的に全部きつかったですね。ギターとかは多少いいやみたいに思っちゃうところもあるんですけど(笑)。基本的に自分は小さい頃からずっと歌に惹かれてきて、音楽といえば歌っていう聴き方をしてきたんです。アレンジの魅力に気付いたのはThe Beatlesとかくるりに出会ってからで。だから、自分の中で歌への理想像がどんどん膨れ上がってて、最終的にそれに押しつぶされるっていうか。しかもそのジャッジが年々厳しくなってる気がしてて。「今のはピッチが合ってたけど気持ちがこもってない」とか、「今のは気持ちがこもってたけどピッチが駄目だった」とか。ピッチシフターでちょっと直してみたりするけど、不自然に感じたり。それでどんどん神経質になって、苦しい状態になってしまうんです。
ーーこちらはできあがったものを聴いているので、まずは1曲目の「HIGH WAY」のすごく穏やかで、でも透明感のある歌に新たな喜びを感じつつ、「雨の散歩道」では美しいソプラノが聴けて、歌がどんどん良くなっているなと思いましたが。
小山田:嬉しいです。未だにこのアルバムに対して不安を抱えている状態なんですよね。どこかでOKとするしかないんですけど。でも、チェックだと思いながらそれでも何度も聴きたくなってるっていうことは、結局曲が好きなんだと思います(笑)。
ーー6月に出たライブDVDには、2018年の弾き語りツアーでのピアニストの宮崎真利子さんとのセッションも収められていますが、ギターなしでピアノと歌だけっていう経験は、何も持たずに歌う気持ちよさみたいなものはあったんですか?
小山田:それはありますね。難しいギターを弾きながら歌うと、どうしても意識が分散されてしまう。リズムはギターを持ってた方が良くなるんですけど、自由な開放感って意味ではギターを持ってないほうが良いですね。だから、あの時にハンドマイクで歌ったような自由さだったり、いろんなことが活きてはいると思います。
ーー『THE TRAVELING LIFE』は初のソロアルバムということで、小山田さんの音楽人生の中で大きな節目になっていると思うんですけど、作る前とできた後は心境的にどういう変化がありますか?小山田:まだそこまで客観的に聴けてなくて。リリースするまでソワソワしてる状態というか、いつもと違う感覚なんですよね。制作作業的には今までとそんなに変わってないんですけど、本当に何回も聴き直していて。そこでソロアルバムっていうものの責任を感じているという。バンドだと、ちょっと「みんなで作ったしいいや」って感覚もあって(笑)。でも今回は往生際悪く何回も聴いて。客観的なものになるのってやっぱり時間がかかりますね。今は「やばいやばい」と思いながら、「ここもう少しこうだったかな」とか考えちゃってるんで、早くリリースされないかなって思ってます(笑)。
■リリース情報
『THE TRAVELING LIFE』
発売:2020年8月26日(水)
<初回限定盤:CD+DVD> ¥3,800(税抜)
<通常盤:CD> ¥2,800(税抜)
<アナログ:2LP> ¥3,500(税抜)
※アナログ盤のみ2020年9月4日(金)発売
【CD収録曲】
1.HIGH WAY
2.旅に出るならどこまでも
3.OH MY GOD
4.雨の散歩道
5.ゆうちゃん
6.あの日の約束通りに
7.ベロべロックンローラー
8.スランプは底なし
9.Kapachino
10.君の愛する歌
11.ローヌの岸辺
12.夕暮れのハイ
【DVD収録曲】
初回限定盤のみ付属
[Live]
あの日の約束通りに(なんばHatch 2019.9.19)
革命(中野サンプラザ 2018.10.30)
16(中野サンプラザ 2018.10.30)
[Music Video]
OH MY GOD
HIGH WAY