小山田壮平、ソロアルバム『THE TRAVELING LIFE』先行レビュー 音楽への溢れる想いと多様な情景が表す強い光

小山田壮平、ソロアルバム先行レビュー

 小山田壮平、初のソロアルバム『THE TRAVELING LIFE』が完成した。人生を旅に重ね、これまでのたくさんの出会いと別れが去来し、音楽への想いが通底するアルバムだ。

 昨年行われたバンド形式のツアー同様、藤原寛(Ba、AL/ex.andymori)、Gateballersの濱野夏椰(Gt)と久富奈良(Dr)という顔ぶれによるバンドサウンド。サイケデリックなブルース、シャープなオルタナティブ、美しいバラード、センチメンタルなフォーク、雄大なUKロックと、豊かなサウンドデザインが聴ける。andymori、ALと活動をする中で、天才的なソングライター/シンガーとして珠玉の歌とメロディと言葉を生み出し続けていた小山田壮平ならではの、目眩がするほどの強い輝きを放つ楽曲が並ぶ。

 アルバム制作の中でも終盤にできたのが、「HIGH WAY」「君の愛する歌」「旅に出るならどこまでも」の3曲だという。3曲とも「人生は旅である」というアルバムのテーマと「そこには当たり前のように音楽=歌がある」という想いが顕著に表れている曲だ。

 特に、多大な穏やかさを湛えつつ、何ものにも侵されないようなタフな軸が存在するような楽曲、1曲目の「HIGH WAY」に心が奪われる。かつてなく穏やかで透明感のある歌声で、オーガニックでピースフルなサウンドに乗せて、〈ロックロールでもいい ジャズに浸るのもいい/何をかけたって楽しくやれるのがいい/キザな言葉も変態的な衝動もその時君にやってきた運命なんだ〉と小山田は歌う。そして、〈誤解されないように生きるなんて無理な話/そんな気持ちもすべて流れていくのだから/面倒くさいやつも爽やかなひともいい/誰が現れたってまっすぐに見つめよう〉と。様々な音楽、様々な感情、様々なパーソナリティが存在する世界をじっと見つめ、自分は自分の意志を持って「光」を信じて進んで行けばいいーー。達観にも近いような肯定する力が漲っている。

 andymori時代を振り返ると──あらゆる人を愛したいと思う博愛性と人と人は根源的にはひとつになれないという孤独感。さらに、全世界を手中に収めるような万能感とすべての差別と格差への諦め。小山田の楽曲には、表裏一体の強い希望と深い絶望が予告なく押し寄せる波のように混在していた。しかし「HIGH WAY」のサビでは〈何が起こっても止まらないHIGH WAY〉というフレーズが、呼吸のようなナチュラルな歌で綴られている。

 アルバム終盤、〈流れ星のような人生 だけど生活に降りつもる/ホコリやクズを払いのけて歩き続ける きょうだいよ〉と自らの人生を振り返りつつ、〈君の愛する歌を歌いたい 誰かと誰かが争っていても〉と、今までとこれからの指針を歌い上げる「君の愛する歌」もとても高らかに響く。もちろん、これらの楽曲で歌われている小山田の心は永遠に変わらないわけではない。アルバム『THE TRAVELING LIFE』のテーマと同じく、1分1秒感情は移りゆくものだ。

 敬愛する画家、ゴッホに縁の深いフランスのアルルに訪れた時に生まれたという「ローヌの岸辺」や10代の時から何度も訪れているインド・バラナシでの情景を膨らませて書いたという「Kapachino」といった、旅先での思い出がきっかけとなって生まれた曲もあるし、「ゆうちゃん」や「あの日の約束通りに」といったかなり昔の自らの心象風景に深く潜るようにして生まれた曲もある。

 全12曲、描かれている情景は多様だ。しかし、この『THE TRAVELING LIFE』は、小山田壮平自身のみならず、多くの聴き手にとって、闇に落ちたり、混乱が訪れた時に強い光となり得る作品となるだろう。深く人間臭く美しい、歌と言葉とメロディが溢れている。

 

■リリース情報
「HIGH WAY」
配信:2020年7月29日(水)
配信はこちら

『THE TRAVELING LIFE』
発売:2020年8月26日(水)
<初回限定盤:CD+DVD> ¥3,800(税抜)
<通常盤:CD> ¥2,800(税抜)
<アナログ:2LP> ¥3,500(税抜)
※アナログ盤のみ2020年9月4日(金)発売 

「THE TRAVELING LIFE」特設ページ 
オフィシャルサイト

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