『paradox soar』インタビュー
ゆくえしれずつれづれが表現する“素直な自分”と“互いを繋ぎとめる想い” 現体制初アルバム『paradox soar』インタビュー
ゆくえしれずつれづれの3rdアルバム『paradox soar』が会心の出来だ。2015年に結成され、幾度もメンバーの脱退を繰り返しながらも、現4人による体制が整ってから約1年半。『paradox soar』はそんな4人の歩みの集大成であると同時に、自分の弱さを曝け出し、相手の存在を受け入れられるーーすなわち、ありのままの自分を表現できる場所がゆくえしれずつれづれであることを強く示す作品だ。これまでシャウトを多用した歌唱やハードコアな音楽性を得意としてきたなかで、ストレートかつメロウなロックナンバーが増え、「歌」そのものの魅力が前面に表れたのも本作の特徴である。
オリジナルメンバーのまれ・A・小町、リーダーのメイユイメイ、幽世テロルArchitect(現KAQRIYOTERROR)から移籍してきた个喆、1年半前には新加入メンバーだったたかりたから。インタビューを読めば明白だが、4人のキャラクターは本当にバラバラだ。しかし、そんな4人の個性を一切押し殺すことなく、自由に解き放つことで逆にグループそのものの個性へと昇華させられるのが、今のゆくえしれずつれづれの魅力である。終盤に収録されたメンバーそれぞれのソロ曲は、その象徴と言えるだろう。入場者数制限を行いながら『Overdestrudo』ツアーで全国を回り、多忙ながらも充実した日々を過ごす4人と正面から語り合った。(編集部)
「新しいゆくえしれずつれづれの世界観を作りたい」
ーー个喆さんとたからさんは、ゆくえしれずつれづれとしてアルバムに参加するのが初めてだと思いますが、完成してみてどんなお気持ちですか。
たかりたから(以下、たから):新しい自分を見つけられた作品になりました。ライブ中とかは、どんどん前に前にっていう自分を出していけたんですけど、今回のアルバムは聴かせる曲が多かったので、感情表現や技術として新しい部分が見つけられたかなって思います。
ーー具体的に新しいと思えたのはどういうところなんでしょう?
たから:高音の発声がすごく綺麗に出るようになりましたね。最初は本当に高い声が出なかったんですけど、ファルセット自体と、ファルセットと地声の中間地点を出せるようにならないとなってずっと思っていたら、高い部分のパートをもらえて。「howling hollow」とか、本当に聴かせるぞっていう気持ちで努力することができました。
ーー个喆さんはいかがですか。
个喆:アルバムなのでだいぶ前に録ったシングル曲もたくさん入ってるんですけど、割と最初の方に詰め込まれているので、聴いていくうちにだんだん成長の過程を楽しんでもらえるんじゃないかなって思います。今まで个喆は高い声が多めだったんですけど、今回は低いフレーズのパートもあったので、たからと逆になっていったのが面白かったです。
ーーたからさんと得意分野を入れ替えてみるチャレンジもあったんですね。
个喆:はい。私も「howling hollow」が気に入っていて、歌い出しはすごく落ち着いてて低いフレーズから入るので好きです。あとはスクリームが増えたんですけど、个喆的にただぶっ飛んだ感じのよくわからない叫びじゃなくなってきたので、それも個性として聴いてくれたらいいなって。
ーーオリジナルメンバーである小町さんは3枚目のフルアルバムになりますけど、現体制として初めてのアルバムをどのように感じていますか。
まれ・A・小町(以下、小町):メンバーの脱退と加入の繰り返しで慌ただしい状況が続いてたんですけど、ようやく今この体制で落ち着いて。もう変わりすぎているので、小町的には別物になったと思っているんですけど、いい感じになってきたねって周りから言われるので、やっと物語が繋がってきた感じがしてます。このメンバーになって1年半くらいですけど、その最初のシングル(「Odd eye」)から入ってるので、4人の軌跡が詰まった1枚になったかなって。私はあまり前向きになれないタイプの人間なんですけど、今は周りのメンバーもすごく支えてくれているので、前よりも逃げ場がないなって思います(笑)。
ーーというのは?
小町:悪い意味ではなく、逃げようとしても捕まってしまうというか、4人がちゃんと繋がれていて孤立していない感じ。みんながしっかりとお互いを見ているんだろうなって。
ーーなるほど。メイさんはアルバムを振り返ってみていかがですか。
メイユイメイ(以下、メイ):アルバムを通したら「Wish/」が印象に残ってる大切な曲かなって思います。今までのつれづれにないようなストレートで前向きな歌詞で、「みんながいるから私はここに立っている」というのが強く出ている曲だったので、本当に今だからこそ歌えるなって思いました。今までは「君」に対して「僕はここにいるよ」って歌ってきたと思うんですけど、今回は逆にこっち側から「そばにいてね」と言えるようになったんじゃないかなって。
ーーどうしてそれを言えるようになったんだと思いますか。
メイ:これまでは人にすがれない臆病な側面が前に出てたんですけど、そうじゃなくて、自分の弱いところも全部受け止めてくれるメンバーと群青さん(ゆくえしれずつれづれのファンの通称)がいるから歌えていますね。
个喆:一緒に生きていこうね、っていう感じに个喆は思ってました!
たから:うん、同じです。
ーー自分は今作のキーワードは「愛」だなって思ったんです。1曲目の「Wish/」のなかで〈Love is indeed(愛は確かにある)〉というシャウトが入っていて、ラストの「Hue」でアルバムを締めくくる言葉が〈ぼくは愛を誓おう〉なんですよね。愛を探しに行って、自分たちにとっての愛とは何かを掴み取るまでの16曲のストーリーになってると感じたんですけど、そう言われてみるといかがですか。
小町:愛か......そうですね。「Wish/」は今までと異質で、想いと想いの上に生まれた楽曲だなと思うし、そこから想いを仲介してくれるような曲たちがちゃんと連なって生まれてきてくれたので。愛はあるなと思います。
ーーその愛って、具体的にどういうものだと捉えて歌っていますか。
小町:私はあまり愛がわからない人間なので、基本的に誰かを愛せないんです。でも一つ確かに愛せるもの......コドモメンタルに尊敬する人たちがいてくれるので、それを強く想いながら歌ってます。
たから:私は、つれづれにいたいと思えるのは今のメンバーがいるからなので、そういう想いを乗せて歌った感じはします。それを愛というのかはわからないけど。
ーー个喆さんが幽世テロルArchitect(現KAQRIYOTERROR)からの移籍だったのに対して、たからさんはつれづれに新加入されて一番難しいポジションだったんじゃないかと想像したんですけど、そこからどういう努力を積み重ねてきたと思いますか。
たから:私自身の努力よりも、みんなが受け入れてくれたことが大きいかも。メイがちゃんと指導してまとめてくれて、小町は何も言わずに寄り添ってくれて、个喆はずっと隣にいてくれて。そういう3人の支えが大きいなって思います。
ーー个喆さんはいかがですか。
个喆:「Wish/」を歌った時はメンバーのことはあんまり考えてなくて、勝手に頭の中で女の人と男の人を想像して、「大事な恋人いなくならないで!」みたいな感じだったんですけど、今考えたらつれづれのこと歌ってるなって思います(笑)。
ーーもともとラブソングとして捉えていたんですね。聴き返してつれづれの曲だなって思えたのはどうしてだったんですか。
个喆:MVを撮ったからですかね。こまちゃん(小町)のことをみんなで囲んで、「いなくならないでー!」って思う4人の歌だなって。
メイ:メイもやっぱりメンバーに対しての愛だなって思います。今まで何人もゆくえしれずつれづれを脱退した人たちがいたので、もう絶対にこの3人を離したくない! っていう気持ちで歌いました。
ーー〈ただそばに居てほしい〉って歌われているのが象徴的ですよね。メイさんは途中加入されて、今までグループが変わっていく過程を見ていたと思うんですけど、つれづれが最初からずっと体現してきたものと、変わってきた今のつれづれが体現しているもので、何か違いを感じていますか。
メイ:最初にメイが加入してきた時は、長い期間つれづれの世界観を作ってきた人たちに囲まれていたので、初めはその世界観を守ろうとするのに必死だったんです。加入して1年経って、全然完璧じゃない自分が新体制のリーダーになったんですけど、そこでやっぱり自分が知ってたゆくえしれずつれづれの世界観はこのメンバーでは作れないなって感じました。たからと个喆が悪いわけじゃなくて、今のメンバーで新しいゆくえしれずつれづれの世界観を作りたいっていう想いに変わりましたね。
ーーそう思った時に、具体的にどういうところが一番変わったと思いますか。
メイ:前は脱退した(◎屋)しだれがかなり前面に出ていたんですけど、今はそういうのがなくて、4人それぞれが自分たちの個性を持って前に出られるようになりました。そこがすごい変わったなって。メイもしだれがいた時はずっと甘えていて、ただついていくことしかできなかったんですけど、今は少しでもみんなを引っ張っていこうっていう、大きい愛はあると思います。
「表現することで自分が救われている」
ーー「愛」という言葉を取り上げてお話を伺いましたけど、生きづらさや孤独といったテーマもゆくえしれずつれづれの歌のなかで大きいですよね。そこは皆さんの中でどのように消化して歌っているんですか。
メイ:メイは共感します。夜中に起きてたら、今世界で起きているのはメイだけなのかもしれないって思うんですよ。「howling hollow」は本当に孤独を感じてすごく共感しました。
个喆:メンヘラだ(笑)。
メイ:そうなのかな......みんな、そういうのないの?
たから:共感というより、自分は曲のストーリーを外から見ている感覚でした。自分の中にそういう部分がないとは言い切れないんですけど、感情移入するとうまく歌えない気がする。
ーーたからさんは、歌うことで表現されている自分には何が表れていると思いますか。
たから:本当に素直な自分だと思います。歌を聴いていると何も作ってる感覚もないし、作られているとも思わないので、ただ自分がまっすぐ歌っている感覚です。
ーーそれは、いま自分が生きてるなっていうのを実感するってこと?
たから:ああ、そうですね。普段自分を客観視することってあまりないじゃないですか。こうして作品として聴いてみると、自分を見ることができる。ああ、今自分はここにいるんだなっていうのはすごく感じますし、それはつれづれに入って初めて感じたことかもしれないです。
ーー个喆さんはどうでしょうか。
个喆:个喆は孤独を感じたことはあんまりないです。一時期、「あ......一人だ」って思ったことがあったんですけど今は一人じゃないし、今のつれづれは希望に向かってる曲も多いから、やっぱりそのまま自分っていう感じです。難しい歌詞の時は全然わからないので、自分にはないものを勝手に想像するような感覚なのかな......わかんなくなっちゃった!(笑)
ーー(笑)。でも、まさにグループのポジティブなエンジンになってるのは个喆さんですよね。
个喆:はい、すごくポジティブではあります(笑)。孤独ではないけど、自分の素直なまま歌っているのはたからと一緒です。
ーーそんなポジティブな个喆さんですが、今の活動を始めるに当たって何か憧れとかはあったんですか。
个喆:幽世テロルArchitectにいた時は憧れとか何も考えず、がむしゃらでした。つれづれのことは入る前から大好きだったから、そこに自分が入ることで好きだった世界観とかが変わってしまうのが嫌で......でも同じものは作れないから、いいやって諦めて考えないようにしようと思ったら「illCocytus」みたいなクセ強めの曲ができたりして(笑)。つれづれに入るときに「好きだけじゃやっていけないよ」ってめちゃめちゃ言われたんですけど、今は「好き」だけでやっていけるなっていう気持ちです。
ーーなるほど。小町さんは先ほど「あまり前向きになれないタイプの人間」と言ってましたけど、つれづれで歌う言葉には共感しているのか、全然違うのか。どういう感覚でしょうか。
小町:つれづれの曲はもろそのまま自分なので、共感ではないですね。自分の苦しさそのまま歌ってんなって。
ーー小町さんはつれづれのアルバムが3枚目になるわけですけど、歌われている苦しみは変わってきていますか。
小町:最初は「凶葬詩壱鳴り」という曲から始まったんですけど、それが誕生の瞬間の何もわかってない歌だったと思うんです。でもそこからいろんな人に会って、いろんな感情を知って色づいていって、曲の中にも情緒性とかが見えてきたのかなって。
ーーゆくえしれずつれづれの楽曲って「簡単に人を理解できるわけない」っていう気持ちと、「それでもそばにいたい」っていう気持ちが同じ度合いで混ざっている音楽だと感じているんです。言い換えると、反発心と寄り添う心の混ざり合いを体現していると思うんですけど、小町さんのなかにある葛藤もそういうものに近いんでしょうか。
小町:その葛藤がずっとあるからこそ痛いし、だからこそ痛くないっていうふうにも思います。それが悩みの種なんですけど、世界がどうであれ、重ねた想いと想いは変わらないよっていう気持ちは以前よりもありますね。自分はたぶん一人でも生きていける人間なんですけど、初めて大切なものに出会えたので、やっぱりその存在が大きいんです。生まれ変わりたくてつれづれに入って、「凶葬詩壱鳴り」とともに自分も歩き始めたなっていう想いでやってきてます。
ーー生まれ変わりたかったというのは、一人で生きていける自分を変えたかったということですか。
小町:いや、そこは別に変えるつもりはないですし、一人で何かを探し続けるのも自分にとっては幸福だと今も思っていて。でも出会ってしまった人とは「離れたい」「離れたくない」っていう両面で戦っているので、その狭間で苦しんでますね。大体の曲の歌詞はGESSHI類さんが書いてくださっていて、心の中の矛盾、罪、混沌としたものを全部並べてもらっていて。いつもそのまま自分だなって思うからこそ、好きというより、苦しいものもらっちゃったなあ......という感じです。
ーーそれでも、その中に今の自分を置いていくしかないっていう感覚?
小町:そうですね。この活動が好きかどうかはいまだに掴めてないんですけど、表現することに興味があるのは変わらないですし、コドモメンタルの尊敬する人が作ってくれているものを表現する一人としていられるのは幸せです。
ーー表現者でありたいっていう想いは強いんですね。
小町:表現者なんてカッコいいものにはまだなれてないですけど、本質的にそういうものが好きなので。表現することで自分が救われている感じです。