怒髪天、京都磔磔から無観客生配信ライブ『響都ノ宴』を届けた意味 リハーサルから本番までを徹底レポート

怒髪天生配信ライブ『響都ノ宴』レポ

ようこそライブハウス“お茶の間”へ!

 定刻通りに出囃子「男祭」が流れると、階段から颯爽と降りた3人がそれぞれの持ち場につく。

「ビールの用意はいいかな? ようこそライブハウス“お茶の間”へ!」

 最後にゆっくりと降りてきた増子が満面の笑顔をカメラに向け、そう口にすると坂詰の「ワン、ツー、スリー、フォー」ならぬ「飲め、飲め、飲め、飲め!」という野太いカウントに乗せて「酒燃料爆進曲」が投下される。今宵の特別な宴はここに始まった。

清水泰次(Ba)

 対面式円陣配置だからこそ、見ている側もリアルに感じ取れる怒髪天のグルーヴ。4人の間をカメラがくぐり抜けながら、ガヤガヤと騒々しく演奏するメンバーの表情を舐め回すように追っていく。通常のライブどころか、ライブビデオでも味わえない距離感だ。増子はカメラ越しにお茶の間の顔を1人ひとり見つめていくかのように歌う。「みんな元気かー!俺たちは元気だぜー!」清水泰次(Ba)が曲中で叫ぶ。気持ちよさそうにコーラスを取る上原子も、にこやかにビートを刻む坂詰も、久しぶりのライブを、大好きなライブハウスで演奏できる喜びを噛み締めている。そうした4人から生み出されるグルーヴと臨場感はお茶の間にも届いてるはずだ。

 「HONKAI」「セイノワ」と、メッセージ性の強いナンバーを立て続けに披露。〈ロックバンドが理想や夢歌わずにどうする〉(「HONKAI」)こういうご時世だから余計になんだかグッとくる歌だ。

「よくきた! ……シーン、なんつってね」

増子直純(Vo)

 増子がいくら煽ろうとも、歓声はない。しかしながら、いつもとは何もかもが異なるこの空間を思いきり楽しんでいるようだった。リアルな反応がないからこそ、いつも以上にアツくなっているようにも思えた。初披露となった新曲「ポポポ!」ではコミカルに攻め立て、「せかいをてきに…」ではレゲエのリズムでしなやかなアンサンブルを聴かせる。「GREAT NUMBER」では図太くどっしりと重心の下がったリズムで貫禄を見せる。怒髪天というバンドは、どうしてもクセの強さが注目されがちだが、音楽性は幅広く演奏力は申し分なく、各メンバーのスキルもとてつもなく高い。なんでもこなすオールマイティなバンドだ。この日はちょうど坂詰の真後ろ側からライブを観ていた。これまで幾度となく怒髪天のステージを観てきたわけだが、このアングルでライブを見たのは初めてであるし、こんなに間近から目と耳で彼らの音を感じることができた貴重な体験だった。

結成36年目、50代バンド“怒髪天”の凄み

上原子友康(Gt)

 MCなどではいつもイジられてばかりの坂詰だが、跳ね返りを操るようなしなやかな腕使い、絶妙な緩急をつけていくリズム……ドラマーとしてのテクニックとバンドの屋台骨としての存在感は凄まじく、この背中が怒髪天の土台を支えているのだと改めてそう思った。清水のベースは細やかで堅実的に坂詰と共にグルーヴを支え、時にアグレッシブに攻めていく。上原子のギタープレイは本当に鮮やかだ。自分だけのプレイを貫く者、多彩な音色を操りながら派手なプレイで魅了する者、様々なタイプのギタリストがいるが、上原子はどのタイプにも属さない。使い込まれたストラトキャスター1本から繰り出されるあの枯れたトーンだけで、パンクからハードロックからカントリーから演歌さながらの和情緒まで、なんでもこなしていく。「ポポポ!」のサイレン、「ロクでナシ」のルーツミュージックを感じさせるオールディーなソロ、「スキモノマニア」のシュレッドなソロ、と思えば「GERAT NUMBER」では三味線さながらの刻みが炸裂する。本当に芸達者なギタリストである。そして増子だ。聴き慣れているから忘れかけているが、普通に考えればかなり喉に負担が掛かりそうなボーカルスタイル。以前インタビューでLOUDNESSの二井原実と同じキーだという衝撃的事実も判明した(参照:増子直純に聞く、怒髪天が結成から35年続く理由 「“楽しい”っていうことに尽きる」)わけだが、リハーサル時から本番が心配になるほど全力で歌っていた。本当に強靭な喉を持っているボーカリストだ。

 当人たちがあまりにも悠々と演奏してるために気づきにくいところではあるのだが、怒髪天とは、実はとんでもないスキルを持ったモンスターバンドであると、あらためてここに記しておく。

 ヘルペスを患った坂さんへの愛のあるいじりも。「見ている人が笑っているかわからない」などと言いつつも、相変わらず饒舌な増子を軸にアットホームな4人の関係性が垣間見れるMC。「ただおじさんたちが見つめ合って笑ってる」(清水)、「練習の時と変わらない」(増子)、他愛の話が次々と飛び出す。配信越しに見ていても、この磔磔の雰囲気も相まって、4人の日頃のリハーサル風景を覗いている感覚になったことだろう。結成35年を超えた50代男性バンドとは思えないほど、4人の仲の良さはファンにはお馴染みのことだと思うが、この日、1日密着して分かったことは、リハーサルであろうが楽屋であろうがライブであろうが、彼らは何も変わらないということだ。ついさっきまで楽屋で会話していたテンションのまま、今こうしてライブでMCをしている。

 令和という新しい時代に過度な期待はしていないが未来は信じたいという祈りの歌「シン・ジダイ」は、なんだかこの現況だからこそ余計に心に響く。そして自粛期間のやり場のない気持ちを綴った「孤独のエール」だ。

「もっとみんな聴いてワーッとなってもいいなじゃねぇのと思ってるんだけど、考えてみればまだライブでやってないからね」(増子)

 楽曲はライブで、みんなの前で披露して育っていくものだと語る。お茶の間からの魂は、今この磔磔に集結している。現場にいた人間皆がそう感じていたし、それをいちばん感じ取っていたのは誰よりも演奏している4人だったはず。そんな想いが込められた〈がんばれ〉が響いた「孤独なエール」であったし、この日ばかりは「“怒髪天からの”エール」でもあった。

 「それではお茶の間のみなさん、お手を拝借」と、「オトナノススメ」で大はしゃぎするラストスパート。オーラスは「雪割り桜」。ゆったりとおおらかなリズムに乗せて、力強く野太い増子の歌声が響き、上原子のギターがむせび泣くようにそれを受け継いでいった。〈春を待たずに咲き誇る魁の花〉という言葉が、この先の見えない世の現況を表しているようだった。

「生きてまた会おうぜ!」

 聴き慣れたはずの増子の締めの言葉が、今日というこの日にずっしりと響いた。

 会場に足を踏み入れた瞬間、彼らが無観客生配信ライブの会場として磔磔を選んだ意味はすぐに解ったし、それは配信を見た人にも充分に伝わったはずだ。こんな生配信ライブは怒髪天にしかできない“宴”だった。MCで増子は「磔磔を助けたいとも思った」と語っていた。ライブハウスがあって、そこにバンドがいて、ライブが行われる。ただそれだけのことが、今はなによりもありがたく、多くの人の心を元気づけるのだ、そう強く感じた夜だった。

 終演後、思わぬサプライズで日比谷野音でのライブ『怒髪天 必要至急特別公演  キャプテン野音2020 ~1/2の神話(キャパ)~』が発表された。キャパ半分、まだまだ規制も多く油断が出来ぬ状態での開催となるわけだが、彼らに心配はいらない。この日の増子の言葉を借りれば「あまり先のこと考えてもしょうがないから今やれることをやる」、そう、怒髪天は“冬の時代に咲いた花”なのだから。

■配信情報
『怒髪天 delivery 響都ノ宴
”カラダ立ち入り禁止。第一回、タマシイ限定ライブ。カモン!俺達界隈(魂のみ)。” 』
アーカイブ視聴:2020年8月2日(日)23:59まで
【Streaming+】2020年8月2日(日)18:00 まで購入可能。

■ライブ情報
『怒髪天 必要至急特別公演
キャプテン野音2020 ~1/2の神話(キャパ)~』
日程:2020年9月6日(日)
会場:東京・日比谷野外大音楽堂
開場16:30 / 開演17:30
前売指定席 ¥6,900(税込)
act:怒髪天(ワンマンライブ)
詳細はこちら

■リリース情報
デジタルアルバム『チャリーズ・エンジェル』
デジタルシングル『THE JAPANESE R&E』
配信中

公式サイト

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