星野源、人との出会い・感謝・音楽を鳴らす喜び 10年を振り返った渋谷クアトロ配信ライブレポート
星野源が配信ライブ『Gen Hoshino’s 10th Anniversary Concert “Gratitude”』を開催した。
2010年6月23日に1stアルバム『ばかのうた』でソロデビューした星野源。アルバムリリースを記念し、同年7月12日に行われた初ソロワンマンライブから10年後の同じ日付に、同じ会場である渋谷クラブクアトロから、ソロ活動10周年記念配信ライブを開催した。
約10万枚のチケットが販売され、配信ライブということを考えるとおそらくその数倍の視聴者が見守る中、ライブはまず、舞台裏を移す映像から始まる。カメラが彼を捉えると、ステージのある5Fへと続く階段を登り、ステージへと上がっておもむろにギターを担ぎ歌い始めた。1曲目は「Pop Virus」。途中でカメラを指差すなど、視聴者を意識した動きも見せていく。
ワンコーラスを歌い終えたところで、バンドメンバーのもとへと移動。彼を含めた8人がクアトロのホールスペース(通常は観客がいる場所)で円形に陣取り、広々とした空間の中で極上のアンサンブルを奏でる。
今回の配信は、現場のスタッフの努力の甲斐もあってか照明が素晴らしい。やわらかい緑色やあたたかいピンクの光が目に優しく、全体の色味に落ち着きがある。ギターの長岡亮介曰く「照明器具がお客さんみたい」だという独特のムードが漂う。さらに解像度が高いため臨場感は抜群。映像から柔らかなイメージと同時に、“生”感もしっかり伝わってくる。
曲を終えると星野源はこう話した。
「ライブの代わりに”ライブっぽい”配信をやるのではなく、ちょうど円形だから、ドームの真ん中とかでやってきたものを、ここでやろうと思って。それとなるべく近い距離で見れるものをやろうと思って。普通のライブじゃ見れない角度から見れたり」彼の言う通り、フロアの至るところにカメラが設置されているため、それぞれのパフォーマンスを間近で確認できるのもポイントとなっている。メンバー間の演奏の掛け合いだけでなく、メンバー同士のコミュニケーションも魅力となっている彼らゆえ、こうしたライブ形態はむしろ有り難い。
メンバーたちと目を合わせながら確かめ合うように音を刻んでいく姿であったり、トム・ミッシュとコラボした楽曲「Ain’t Nobody Know」のギターのフレーズを長岡がプレイする様子(ギターファン的にも堪らないはず!)や、弾き語りの楽曲における微妙な表情の機微など、リアルなライブではなかなか確認しづらい点に注目することができる。
そんな中、星野が唐突にメンバーにこう問いかけた。
「たとえば東京ドームだったら『東京〜!』って言うけど、これはなんて言えばいいんだろう?」
確かに、日本だけでなく世界中から観ることのできる今回の配信。特定の地域性を持たないため、観客の居場所を言葉で表すのが難しい。すると、ベースのハマ・オカモトが「おのおの」と提案。このアイデアにメンバーたちは、それだといった反応を示してひと盛り上がり。次の「桜の森」で早速「おのおのー!」と大きく叫ばれた。
こうした仲睦まじいやり取りがライブを通して繰り広げられていたのが印象的だった。メンバー紹介のコーナーでは、ドラムを長年担当してきた河村"カースケ"智康が「こういうことができて幸せだよね。やっぱり合奏っていいなと」とつぶやく。それに対して、MPCを操るSTUTSも「ひとりでやる配信ももちろん良さがありますけど、こうやってみなさんと集まって音を出せるって楽しいことだなと改めて実感しました」と続ける。世の中の状況もあるのだろう。こうして人がひとつの場所に集まって会話している光景を見ているだけでも心が和む。
その後に披露したのは、まさしくそんな人と人の触れ合いをテーマにした「肌」。会場で全員が向き合って演奏するフロアの光景になぜだか救われる。そして「折り合い」も披露された。星野が打ち込みからボーカル録音まで自宅で一人で作ったというこの曲を、バンド仕様で初パフォーマンス。コーラスや生楽器の存在によって、より世界観の広がりを感じるアレンジになっていた。
その後、デビュー前の20代前半の頃に作ったという「老夫婦」、そして東日本大震災が起きた2011年の3月に書いたという「未来」を続けて歌った。
「あれからもう少しで10年が経ちますね。その頃にはこういう場所に立つとは全然想像できていなかったので、すごく面白いと思うと同時に、生きていくのって大変だなと。でもそんな中でも面白い瞬間とか楽しい時間をちゃんと自分で作って、生きていきたいなと思っております」
10年間という長い月日に思いを馳せるようなゆったりとした演奏に、観ているこちらも思わず画面の前で色々と思い返しながら聴き入ってしまう。
そして、結果的に「自分が一番元気付けられた」という「うちで踊ろう」を、ついにバンド編成で初披露。ディスコ風のアレンジだが、シックな趣があり、元々のiPhoneで撮ったものとはまた違った感動がある。非常に基本的な、原初的な意味での“音楽の楽しさ”を感じ取れた。