乃木坂46 山下美月、「自分じゃない感じ」自作MVで描いた“アイドルの世界” 楽曲に秘められた桜井玲香とのバックストーリー

 山下は『真夏の全国ツアー2019』の初日(2019年7月3日ナゴヤドーム)に復帰。そのライブで山下は「自分じゃない感じ」を歌うことはなかったが、9月1日に卒業を控えている桜井玲香が自身のプロデュースユニット(中田花奈、和田まあや、金川紗耶、阪口珠美)で披露する曲として「自分じゃない感じ」をセレクトした。桜井は振り付けをシャッフルダンスにアレンジして、「自分じゃない感じ」に新しい命を吹き込んだ。

 山下にとって桜井は憧れの存在だった。パフォーマンスだけでなく人間性の部分でも尊敬していて、『乃木坂工事中』(テレビ東京系)の「バレンタイン企画」で告白したこともある。9月1日のラストステージで、桜井が自身の活動休止期間について話した時、山下は自分と重ね合わせて涙を流したという。ライブが終わり、バックステージでメンバーが歓談している中、ひとりポツンとしていた山下に声をかけたのは桜井だった。

「グループ活動を休止している時から、いまもずっと心配してるよ。美月は頑張りすぎてしまうから、無理をしすぎないことも大事だからね」(『OVERTURE』No.020)

 桜井の言葉に山下は泣きじゃくってしまったという。

 山下は同年9月28日に更新されたブログで桜井のラストステージについて触れ、「何より嬉しかったのがユニットコーナーで自分じゃない感じを披露してくださったことです!毎回毎回裏のモニターで張り付くように見ていて次の曲間に合わないから早く移動して!といつもスタッフさんに怒られていました。すごくすごく大切で大好きなこの楽曲をプライベートでも聴いてくださっていたらしく本当に嬉しかったですし救われたような気持ちになりました。これからも玲香さんのことがずっと大好きです」と記している。

 山下は「自分じゃない感じ」と桜井玲香を通して、自己肯定できるようになったのかもしれない。『神酒クリニックで乾杯を』や『電影少女』、そしてドラマ・映画『映像研には手を出すな!』と映像作品への出演が続き、外仕事に目が向いていると思われることもあるが、山下は乃木坂46というグループに貢献したい気持ちが人一倍強い。

 『日経エンタテインメント!』2020年6月号では、「乃木坂46はグループ全体が上ってほしい気持ちが強くて、そのために私ができることをしたいので、「センターになりたい」みたいなグループの中での個人的な欲求はあまりないんです。今後も個人活動とグループ活動をバランスよくできればなと思ってます」と語っている。乃木坂46の活動では”個”よりも”グループ”を重視しているようだ。

 山下は乃木坂46の活動を通して、「理想としていた”何をやってもかわいいアイドル”には自分は当てはまらない」と考えるようになったという主旨の発言をすることが多い。それでも山下は「アイドルの世界」を好きでい続けている。

 山下が監督した「自分じゃない感じ」のMVにも、その想いに反映されている。「与田祐希の焼き芋」「大園桃子のトマト」といった3期生それぞれの好きなモノや特徴を表すシーンで、山下自身が好きなモノとして表現されているのは「アイドルの世界」なのだ。しかし、「自分じゃない感じ」の物語を膨らませたセルフプロデュース力は現在のアイドルに必要不可欠だし、今回の『乃木坂46時間TV』で齋藤飛鳥と松村沙友理にイジられた時に見せた愛嬌は山下の新たな魅力になるはずだ。

 『乃木坂46時間TV』で証明されたアイドル性で、山下美月は“最強の世界”を描き出す。

■大貫真之介(おおぬき しんのすけ)
フリーの編集・ライター。アイドルを中心に、サブカルチャー全般を多くの雑誌に寄稿。『EX大衆』、『月刊エンタメ』、『日経エンタテインメント!』、『OVERTURE』などで坂道シリーズの記事を執筆。

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