IZ*ONE、“今”の心境を刻み込んだ新作『Oneiric Diary(幻想日記)』 サウンドの隅々から漂う刹那的なムード

 サウンドの面で最も評価すべきなのが、「Merry-Go-Round(回転木馬)」だ。ApinkやWanna Oneなどの作品で知られるe.one(チョン・ホヒョン)をコンポーザーとして起用した同曲は、きらびやかなストリングスを挿入した70年代ディスコミュージックである。これまでのIZ*ONEにはなかったタイプの曲だが、e.oneはグループのピュアでエレガントなイメージを一切変えることなく作り込んでいることに驚く。

'최초 공개' 아이즈원(IZ*ONE) - 회전목마 (Merry-go-round) | IZ*ONE COMEBACK SHOW ONEIRIC DIARY

 この曲はダンスも是非チェックしてほしい。『Oneiric Diary(幻想日記)』をリリースした当日にテレビ番組に出演した彼女たちは、大きなステージをフルに使った優雅なパフォーマンスを披露している。特にサビの部分で見せた回転木馬が上下する様子を表現した振り付けは斬新かつアーティスティックであり、多くのファンが魅了されたに違いない。

 “幻想日記”というコンセプトのほかにも、本作には注目すべきポイントがある。それは日本語の曲が収められていることだ。ご存じの通り、IZ*ONEは新型コロナウイルスをはじめ、さまざまな事情で日本での活動が十分にできていない。それゆえに日本で待っているファンたちに直接自分たちの気持ちを届けたいと思ったのだろう。「Secret Story of the Swan(幻想童話)」と「Merry-Go-Round(回転木馬)」の日本語バージョンは、どちらも、〈あなたのために歌い踊る〉ことを約束している。もちろん〈あなた〉とは、日本のWIZ*ONE(IZ*ONEのファンの呼称)だ。

 ニューアルバム『Oneiric Diary(幻想日記)』で新たなフェーズに入ったIZ*ONE。本来であれば手放しで喜びたいところだが、一抹の寂しさを感じるのはなぜだろうか。2021年4月の活動終了まであとわずかというのもあるが、サウンドの隅々から「とにかく今を楽しもう」という刹那的なムードが漂っているせいかもしれない。さきほど触れた「Secret Story of the Swan(幻想童話)」の歌詞の一節“想像していたすべての瞬間が/目の前に近づくそのときまで/あなたのためにダンスを踊るわ”も、解散が近づくメンバーたちの心境を反映しているとも考えられるが、それは深読みしすぎだろうか。

■まつもとたくお
音楽ライター。ニックネームはK-POP番長。2000年に執筆活動を開始。『ミュージック・マガジン』など専門誌を中心に寄稿。『ジャズ批評』『韓流ぴあ』で連載中。ムック『GIRLS K-POP』(シンコー・ミュージック)を監修。K-POP関連の著書・共著も多数あり。

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