VINTAGE ROCK 若林敏郎氏が語る、「Stand by Crews」プロジェクトへの思いと“コロナ以降”のライブとの向き合い方

それぞれのバンドに合った方法をきちんと提案していかなければいけない

ーー若林さんがライブ制作に関わるようになったきっかけは?

若林:僕は21のときにライブにまつわる仕事を始めて、途中4年くらいバンドのマネージャーをやっていました。単純に好きだったからというのがきっかけで、常にライブに紐付いた仕事をしていて気が付いたら30年を超えていましたね。ライブは生活の一部以上のもので、これだけデカい音を聴かない時間が続くのは仕事を始めてからは初めてです。

ーー仕事の中で一番やりがいを感じるのはどのような時でしょうか。

若林:やっぱりバンドが100人、200人の会場からスタートして、1万、2万となっていく過程を一緒につくっていけるのが一番大きいかもしれませんね。アーティストがハネると言われる瞬間に立ち会えたり、その予感を感じとったり、そういったところに喜びを感じます。スピッツが「ロビンソン」で世の中に広く認知されるあの1カ月前くらいの感じはいまだに覚えていますし、最近だとUNISON SQUARE GARDENやクリープハイプも下北沢の2、300の会場から付き合い始めたので。彼らが日本武道館など大きな会場でライブを行った時には達成感がありました。

 僕はロックバンドにも座席指定のホール公演をなるべく早い段階で提案するようにしています。もちろん、スタンディングを極めていくことは大事なことで、ライブハウスしかやらないという考え方もそれはそれで正しいと思います。しかし地方には300人規模のライブハウスしかない都市もあり、その土地に彼らの音楽を求めている人が1000人いるのにその人たちにライブを届ける機会を閉ざしてしまうのは個人的に違和感がある。ホールでもライブハウスでも、どんな環境でも変わらないパフォーマンスを見せることができるバンドになってもらいたいというのは関わっているバンドすべてに言えることで、それぞれのタイミングに合った提案をいかにできるかが最大のポイントだと思っています。

ーーバンドが新たな挑戦をする際にも、スタッフの存在が安心できる環境をつくる要素になっているということでしょうか。

若林:スタッフの存在は現場のムード作りも含めたものですよね。その日その日のライブだけではなく、そこに至るまでの過程を共にすることで生まれる関係性や現場のムードがあるので、そういったことも毎回気にかけるようにしています。

 今もう一つ気にしているのは、コンサートに行くことによって気持ちや生活が潤っていたリスナーの人たちがコンサートに行きたくても参加できない、開催されないという状況が長くなることで音楽に対して希望が持てなくなってしまうのではないかということです。スタッフを支援するプロジェクトと並行して音楽から離れていくリスナーが出ないようにすることを考えなければと思っています。時間をかけて少しずつ築いてきた信頼関係がこのコロナ禍で奪われてしまうのはどうしても納得いかないことですし、なんとかしたいと思っています。

ーー現時点で具体的に考えていることはありますか。

若林:先ほどもお話した配信ライブや、アコースティック編成で客席を間引いたかたちで規模を縮小してライブを行う、そのような発信は徐々にしていきたいと考えています。ただ、配信ライブについては、バンドごとに考え方の違いは当然あります。お客さんからのダイレクトな反応のない中でどう向き合えばいいのかと考えるバンドもいますし、一概に全員にあてはめることができない方法論です。やることができるバンドに関しては積極的にやっていくとしても、本来のライブとは別物という考え方が僕の中にはあります。オンラインでのライブは本来バンドがバンドをやる動機には無かったことですし、そういう意味でもカードとして切れる回数は限られている。ツアーのかわりにするというよりは、限られたチャンスを生かしてどのように実現していくか、各アーティストと慎重に協議しながら水面下で進めているところです。

 一方で、お客さんはもちろん、バンドも我々スタッフもライブがないことに思考や体が慣れてしまうとこれまでの感覚を取り戻すのは大変なことなのではないかと感じていて。バンドが集まって練習することも少し前まではできなかったですし、そういう感覚を取り戻すために配信ライブをやってみるというのも一つの手段になるのかもしれません。

ーー現在も直接バンドと意見をかわす機会はあるのでしょうか。

若林:メンバーとスタッフとの会議はリモートで頻繁に行っていますが、それぞれ違う見方をしていたり、違うことを感じていて統一性はほとんどありません。なので一つのマニュアルに沿ったやり方はまったく通用しないなと。それぞれのバンドに合った方法をきちんと提案していかなければいけないと改めて強く思います。

ーー若林さんが今後のライブシーンに望むことは?

若林:もちろんライブを再開できることが一番。しかし参加してくれる人の100%の安全と安心をもって初めて心から楽しむことができるものです。きちんとしたワクチンが開発されて、季節性のインフルエンザと変わらない向き合い方ができるまではなかなか難しいことですので、その間のバンドとリスナーの関係を守っていきたい。メッセージの伝え方には配信ライブ以外にも様々なアプローチがあると思うので、関係性をこのまま継続できるような方法をそれぞれのアーティストと相談しながら模索していきたいです。

 とはいえ、個人的にもお客さんもアーティストもライブがない状況はそろそろ我慢できなくなってくると感じていますし、ライブを始めていかなければならないと強く思っています。全国的に一定の条件を満たした上でライブハウスの営業も再開になります。うちの会社としてお客さんを迎えての公演は、具体的には7月21日bonobosのヴォーカル蔡忠浩の弾き語りのライブがありますが、感染予防対策と座席の調整をして、これは100%開催します。もしかしたらしばらくはステージ側もオーディエンス側もある種の「違和感」を持ちながら進めていくことになると思いますが、何年かあとに笑い話にできる日が来ると信じて、これは「レアケース」というポジティブな思考で向き合っていきたいですし、それぞれのアーティストと向き合ってそれぞれに合ったこと、ファンが求めていることを考えながら進んでいきたいですね。

ーー最後に、ライブならではの魅力はどんなところにあると感じていますか。

若林:同じ時間に同じ場所で同じものを共有できること。ソフト化されたものを家で見る楽しみ方ももちろんあります。しかし、記憶や思い出に残るという点では生で見るに勝るものはないと30年以上やってきて感じます。ライブというカルチャーは絶対になくならないものだし、「ライブっていいでしょ?」ということをこの先もずっと伝え続けていきたいと思っています。

■関連リンク
「Stand by Crews」プロジェクト

「コロナ以降」のカルチャー 音楽の将来のためにできること 特集ページ

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる