VINTAGE ROCK 若林敏郎氏が語る、「Stand by Crews」プロジェクトへの思いと“コロナ以降”のライブとの向き合い方

若林敏郎氏

 コロナ禍における音楽文化の現状、そしてこれからについて考えるリアルサウンドの特集企画『「コロナ以降」のカルチャー 音楽の将来のためにできること』。第9回は有限会社ヴィンテージロック代表・若林敏郎氏へのインタビューを行った。スピッツ、UNISON SQUARE GARDEN、クリープハイプなど数多くの人気バンドのライブ制作・運営に携わってきた同氏がコロナ禍に直面した公演の自粛。仕事を失ったライブやイベントの現場を支える大切なクルーたちをサポートするべく立ち上げたのが「Stand by Crews」だ。本プロジェクトでは、スピッツの恒例イベント『サンセット』協力のもと、グッズの収益を支援金として関係各所に分配する。同氏にプロジェクト立ち上げの経緯から、今後のライブのあり方に対する考えまでじっくりと話を聞いた。(6月9日取材/編集部)

音楽を大事に思ってくれている人たちに向けてできることを

ーー改めてVINTAGE ROCKはどのような仕事をしている会社か教えてください。

若林:国内のロックバンドを中心としたアーティストのコンサートツアー、ライブ、自社主催イベントの制作・運営を行っている会社です。在京でイベンターを始めるときに一つのジャンルに特化した、カラーを持ったイベンターを作りたいと考えました。自分が好きな音楽ということも含めて、日本のロックバンドを応援していきたいという思いで会社を始めて今に至ります。

ーーコロナ禍の状況を振り返ってみていかがでしょうか。ブログでは3月からの動きや心情が生々しい言葉で綴られています。

若林:みなさん一緒の状況なので、僕たちと関わっているアーティストに限ったことではないですが、9年前の震災の時も一時的な自粛はありましたが、まさかこんな世界が訪れるとは……というのが正直なところです。最初に自粛要請が出た2月26日は3月に行われる2万人規模の公演の会場打ち合わせをしていて。そこでは「大丈夫でしょう」という話をしていましたが、ニュースが飛び込んできて一変しました。次の日に控えているコンサートもいくつかあったので、打ち合わせを半ば中断するかたちで各所に連絡をとり、直近に迫っている公演の対応を行って、半月くらいはずっとその繰り返しでしたね。最初はこんなに長引くことを全然予想していなかったし、4月になればできるだろうと予想していたのですが、状況はご存知のとおり思わしくなくなる一方で。緊急事態宣言に入ってからは、いかに今の状態が長期化するかを見据えた動きにシフトしていきました。

ーー音楽業界は音楽人同士の支え合いによりここまで持ちこたえてきたという側面があります。世の中のエンターテインメントに対する見方についてはどのように感じていますか?

若林:緊急事態宣言が解除されて少しずつ日常に戻っていく中で「満員電車がライブハウスのようだ」という報道を目にする機会がありますが、僕からすると「ライブハウスが満員電車のようだ」というように逆の見え方なんです。やっぱりまだライブハウス=悪のような伝え方をされるのだなというのは悲しくなりますね。ただ、人によっては必要のないものでもあるということは理解していて。音楽にまったく興味がなかったり、音楽に救われたという瞬間がない人も当然いるわけで、まずは衣食住があり、その先にあるものではあると思います。でも、顔が見えないリスナーの人たちも含めて僕が見ているのは音楽を大事に思ってくれている人たちなので、こういう言い方は誤解を招くかもしれないけれど、僕はそういう人たちに向けてできることをやっていきたいと思っています。

ーーブログの中には「やめてしまおうか」とつらさを吐露していた日もありました。そのような思いからどのように心情は変わっていったのでしょうか。

若林:引き続き出口が見えない状況ではあるのですが、最近増えてきている配信での公演、ロックバンドがたまに行うアコースティックスタイルで、客席を間引いて行う公演などを行えるムードが徐々に出てきています。そんな中で長期の自粛期間をうまくつなぎとめる公演の提案、これまでとはかたちを変えた提案をしていきたいと思い始めるようになりました。

ーー現在のお仕事の状況はいかがでしょうか。

若林:来年予定していたものに加えて、この数カ月の予定が延期になっているのでスケジュールのバッティングが出てきています。アーティストによってどこまで先の計画を組んでいたのかは差がありますが、組み立て自体を大きく変えていかなければいけないなと。さらにオリンピックもずれているので、来年控えていたものを再来年以降にずらしたり、来年の終わりに動かしたり。そういった予定の変更はいろんなアーティストの中でかなり出てきています。今はスケジュールの組み直しの作業が主な業務になってきましたね。

スピッツとの出会いと『サンセット』の歩み

ーー今回始動した「Stand by Crews」は、スピッツの恒例イベント『サンセット』協力のもと立ち上げられた支援企画です。スピッツとの出会いや『サンセット』の立ち上げについて教えてください。

若林:スピッツとはメジャーデビューする直前に出会ったので、30年以上の付き合いになります。バンドがキャリアを重ねてそれなりのポジションにいる中で、アルバムを出してコンサートツアーをやって、という一つのルーティーンはそれはそれで正しいのですが、その先の活動にむけてちょっとなにか違うアプローチをしてみないかという話から始まり、10年前からスタートしたイベントが『サンセット』です。若いバンド・若いお客さんとの交流などをバンド発信でやっていこうというのがコンセプトのひとつとなっています。

ーー今年で10回目となる予定だった『サンセット』ですが、どんなイベントに育ったと感じていますか?

若林:スピッツにもいわゆるパブリックイメージのようなものがあるかと思うのですが、「こういうこともするんだ」という新たな提示ができたのではないかと。あと、今第一線で活躍している若手バンドとスピッツのメンバーはだいたい20歳以上年齢が離れているのですが、例えばご両親がスピッツを聴いていて、それに影響されてバンドを始めたという話を聞くことも多くて。そういう若いバンドの子たちもいるということはこのイベントのブッキングを通じて発見できたことです。スタッフサイドにも新鮮な感触が手応えとしてはありますね。

ーー草野マサムネさんはラジオでも積極的に新しい世代のミュージシャンの音楽を紹介されていますが、『サンセット』というイベントはライブを通して新しい音楽をファンやリスナーにレコメンドする機能を果たしています。

若林:バンドとしてもそうですし、イベントとしても「まだあまり知られていないけれど、いい音楽を現役バンドマンが紹介していく」という部分に責任のようなものを持って取り組んでいます。イベントの成り立ち含め、意義のあるイベントに育ったのではないかと感じています。

ーーYouTubeでは横浜・赤レンガパーク野外特設会場にて開催された一夜限りの野外ライブ『スピッツ 横浜サンセット2013 -劇場版-』が公開中です。こちらの公演の出来事は覚えていますか?

若林:もちろん覚えています。台風がイベントの翌日に直撃して、前日も雨予報がずっと出ていて徐々に風も強くなっていましたが、当日は奇跡的に日差しが差し込んできたり、ライブ中に大きな月が見えたりして無事終えることができました。台風と戦いながらやっていた印象が強く残っています。

『スピッツ 横浜サンセット2013 -劇場版-』

ーー 「Stand by Crews」はどのような経緯で始動したのでしょうか。

若林:3月中下旬くらいから漠然と今の状況が相当長くなるという予感が個人的にもありました。自分の会社もそうですが、ライブハウスやスタッフがこの先どうなるかわからない中で、自分は何をすべきかをずっと考えていました。「ライブハウスを守ろう」というクラウドファンディングの動きが少しずつ活発になり、それに賛同されている方々の姿を見て「リスナーの人たちはまだ音楽を必要としてくれているんだ」と感じる部分もありましたね。

 スタッフや関係者と電話で中止の話をすると「いったいいつからやれるんですかね」とか「あと2~3カ月このままだとちょっとやばいかも」という声が聞こえてくるようになっていて。そこで具体的にどういうことができるかを考えていたんですけど、例えばライブハウスがクラウドファンディングを始めるとなると、ライブハウスという対象が見えやすいから支援する人の気持ちも動かしやすい。一方でスタッフは縁の下の力持ちとしてライブを支える存在ではあるものの、顔や名前があまり見えない分、お客さんにとっては支援をする人のイメージが湧きづらいのではないかと。そういう人たちを支援するための方法論がなかなか見つけられなかったんです。

 そんな時にスピッツの3月から始まるはずだったツアーが全て11月以降に延期することになり、控えていた『サンセット』の開催も難しくなりました。そこでイベントはやらなくても毎年販売しているグッズを作って経費を除いた収益をスタッフに還元したいという相談をスピッツのマネージメントチームにして、了承を得ることができました。毎年東京・仙台・大阪の3箇所でイベントをやっているのですが、プロデューサーチームがオンラインで集まってそこに向けた動きが始まり、思いついてから着手するまでは早かったです。

 クラウドファンディングを始めるということも一瞬考えましたが、トゥーマッチにリスナーの力を借りるのはどうなのかということをずっと思っていて。僕たちのような会社が、例えば音源を売るというのもそもそも音源を作る機能を持っていないし、これまでやってきた生業を崩してやることが正しいのかという自問自答もありました。そういった意味ではイベントグッズは毎年売っていたものですし、今回イベントを行わないのでイベント制作費に充当していた収益をすべて支援に充てることができます。

ーースピッツのみなさんも30年の活動の中でライブを絶え間なく行ってきて、中止せざるを得ないことに対するさまざまな思いがあるかと思います。

若林:スピッツに限らずどのバンドもとにかく今は中止になって悔しいというよりも、1日でも早く元に近い状態に戻ること、ファンのみなさんの安全面や健康面のことのほうが気持ちとしては最初に来ているとは思います。そして予定していたライブを再開できる時にはチーム全員が揃っていたいということは強く思っている部分だと思いますね。

ーーライブのステージを作っているスタッフは具体的にどんな方々がいるのでしょうか。

若林:規模が大きくなるにつれて関わるセクションは多岐に渡っていきますが、ライブハウスのツアーの場合、ステージ上で鳴らされるすべての楽器や声の音のバランスをミックスしてEQで加工してトータルでお客さんが聴くサウンドとして届けるPAという音響の担当。ライティングを曲に合わせていかにドラマチックに見せるのかを担当する照明。サウンドの細かい調整や楽器自体の調整をする楽器の担当。基本はこの3セクションです。ここに舞台監督、大道具や舞台セット、映像、機材を運ぶドライバーなどが増えていきます。僕たちはライブ制作というポジションで全体の統括、トータルの予算管理、俯瞰で見てショーをよくするためにどうすべきかを考える役割を担っています。あとは移動の手配など細かいところを含めてサポートしています。

 公演の終わりには、その日の反省点、次をよくするためのポイントについて各セクションのスタッフとメンバーが集まってミーティングをしているんです。当たり前になにも考えずにやっていたことが突然できなくなって、改めてスタッフの存在を強く感じるようになりました。

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