2020年注目のシンガーソングライターMaica_n 音楽に対する貪欲さと1st EP『Unchained』で問う“自分らしさ”

Maica_n『Unchained』で問う“自分らしさ”

 男性とも女性ともとれる、中性的な歌声のシンガーソングライター・Maica_n。すでにデビュー前から山崎まさよしや奥田民生、Charら大物ミュージシャンとセッションを行ない、Spotifyの人気プログラム「Early Noise」にネクストブレイクアーティストとして2年連続で選出されるなど各方面で話題となっていた彼女が、満を持してのメジャー1st EP『Unchained』を5月20日にリリースした。

 佐賀県生まれ、徳島県で育った現在19歳のMaica_nは、父親の影響でThe BeatlesやThe Band、ダニー・ハサウェイ、ボズ・スキャッグスといった1960〜70年代の音楽に幼い頃から親しんできた。昨年6月にリリースされた5曲入りミニアルバム『秘密』を聴けば、例えば冒頭曲「Dance With Me」のグルーヴィなリズム、洗練されたエレピのバッキングなどに、AORやニューソウル、さらには日本のシティポップ〜ニューミュージックなどからの影響を感じることができる。

 その一方で、エルヴィス・プレスリーの映像をYouTubeで発掘し、そこから関連動画を辿ってStray Catsなどのロカビリーにもハマるという、デジタルネイティブ世代ならではのリスニングスタイルによって、自分が生まれる遥か前の音楽も貪欲に取り込んできた。The Shirellsによる1961年リリースのヒット曲「Baby It's You」のカバーを、かの有名なThe Beatlesのバージョンではなく、1969年にSmith(イギリスのザ・スミスではなく、カリフォルニア出身の女性ボーカルバンド)がブルースロック調にカバーしたバージョンに倣ったアレンジを施すなど、マニアックなこだわりも感じさせる。もちろん、現在進行形の音楽にもアンテナを張っており、エド・シーランやジョン・メイヤー、日本では星野源からの、特に歌詞の面での影響は大きいという。

 そんなMaica_nによる本作『Unchained』は、前作『秘密』でのオーガニックなサウンドプロダクションと比較すると、エレキギターをより大きくフィーチャーしたバンドっぽいアレンジが施されているのが特徴だ。編曲には、『秘密』でも「Hanakoさん」などを手掛けたgomesこと中込陽大が引き続き参加しているのに加え、Dr.StrangeLoveのベーシストである根岸孝旨が「HYW 55」「Unchain」の2曲を手掛け、「Flow」のアレンジにも小田原豊、斉藤和義との連名で参加している。CoccoやGRAPEVINEを世に送り出し、くるりやaiko、一青窈などの作品をプロデュースしてきた根岸による、エッジの効いたサウンドスケープによって、今作ではMaica_nの歌声に「艶やかさ」のようなものが加わったように感じる。さらに根岸は今回、ベーシストとしても参加しており、元レベッカのドラマーで、自身のリーダーバンド・TRAUMAなどでも活動している小田原豊と共に、しなやかかつ強靭なリズムを作り出している。ちなみに本作で全編にわたってギターを弾いているのは友森昭一。彼もまた、レベッカや筋肉少女帯、鬼束ちひろ、大塚愛など様々なアーティストのライブサポートを行なってきた。

 本作『Unchained』の冒頭を飾るのは、ブルーノートスケールを取り入れた渋みのあるメロディラインと、随所に散りばめた透明感溢れるファルセットのコントラストが印象的な「HYW 55」。80年代ニューウェイヴを彷彿とさせる、「友森節」が炸裂したギターカッティングと、ファンキーな根岸のベースラインがスリリングに絡み合い、サビではボコーダーのようなエフェクトを施したコーラスが、不思議な浮遊感を醸し出している。続く「Unchain」では、ヘビーにかき鳴らされるMaica_nのアコギと、ディレイを駆使した友森のエレキギターが織りなすアンサンブルに乗って、どこか昭和のニューミュージックを思わせるような、懐かしくも哀愁漂うメロディが歌われる。〈誰かの ''He said, she said'' 耳塞げ〉や、〈耳障りなノイズ shut down〉といったラインは、溢れ返る情報や同調圧力、過去の自分などあらゆる束縛から自由になること、自分らしさを取り戻すことの大切さを訴えているかのようだ。

Maica_n -「Unchain」Music Video

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