THE ORAL CIGARETTES、2作連続でアルバムチャート首位に 転換期迎えたバラエティ豊かな作風を分析

 他の楽曲に耳を傾けると存外にバラエティに富み、ファンキーなディスコ調の4つ打ち「Fantasy」はアイドルやダンス&ボーカルグループの楽曲かと思うほどにポップでダンサブル。一方イントロはビートレスのアンビエントだし、インストのテクノ「Breathe」がちょうど全体の折返しに挟まれていたりして、楽曲ごとにサウンドはあちらへこちらへと(いささか気まぐれに)展開してゆく。シングル「ワガママで誤魔化さないで」のカップリングでもあった「Color Tokyo」はホーンセクションを含んだ物憂げなR&B的なビートから始まったかと思うと、ミドルテンポのずっしりとしたロックサウンドに展開し、終盤では2つのサウンドが混線するかのように入れ替わり登場する。スムースにことを運ぶよりも、むしろ断絶を強調するかのような一曲で、このアルバム自体の似姿とでも言おうか。

THE ORAL CIGARETTES「Fantasy」
THE ORAL CIGARETTES「Color Tokyo」Music Video <5th ALBUM『SUCK MY WORLD』2020.4.29 Release>
THE ORAL CIGARETTES「ワガママで誤魔化さないで」Music VIdeo<TVアニメ「revisions リヴィジョンズ」OPテーマ>

 一番耳をひいたのはゴスペル的なコーラスの導入だ。楽曲タイトルからして直球の「Hallelujah」や「The Given」、アルバムの最後を飾る「Slowly but surely I go on」ではぶ厚いコーラスを従えて、山中のボーカルもヴィジュアル系的なケレン味とはまた異なる響きに至っている。こうしたコーラスが映えるような抜けの良いメロディを書いているということもあろうし、暗さよりも明るさに比重が寄るアレンジの傾向も影響しているだろう。ダークさとは相反するような明るさに振り切りつつ、「ゆっくりでも着実に進んでいく」と浮足立たないバランスは、かえってその強さを浮き彫りにしている。『SUCK MY WORLD』というタイトルから想像するものとは真逆と言ってよい。

THE ORAL CIGARETTES「Hallelujah」
THE ORAL CIGARETTES「The Given」
THE ORAL CIGARETTES「Slowly but surely I go on」Music Video

 意欲作とも言えるが、前述したように転換期というか、果たしてこの後にどのような道筋をバンドが歩んでいくかはちょっと不明瞭であるに思う。逆に言えばもっと思い切った方向へ突っ込んでいく余地のある一枚で、ここで披露されたアイデアのどれがどのように次につながっていくかが気になる。期待のほうにベットしたくなる一作だ。

■imdkm
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージックについて考察する。著書に『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)。ウェブサイト:imdkm.com

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