安斉かれん、Hinaら参加『avex revival trax』に詰まった最先端 『M 愛すべき人がいて』で加熱する90年代J-POPリバイバル

90年代を今の視点で捉えた『avex revival trax』

シャネルとストラップ携帯で90年代を強調

 「come again」(2001年)は、VERBAL、☆︎Taku、LISAによる音楽ユニット・m-floの最大のヒット曲で、カネボウ化粧品「テスティモ」のCMソングとしてヒットした。GENERATIONS from EXILE TRIBEの「One in a Million -奇跡の夜に-」や浜崎あゆみの「Merry-go-round」などを手がける☆Takuによる、2ステップのビートと煌びやかなR&Bサウンド。現在はテレビ番組への出演で弾けた姿を見せている、LISAのミステリアスな魅力と儚さのあるボーカル。そしてジュエリーブランドのデザイナーやPKCZ®︎のメンバーなど多彩に活動する、VERBALのキレのある高速ラップ。J-POPのキャッチーさを海外のクラブミュージックに落とし込んだ楽曲は、時代を先取りしたとして当時の音楽シーンで話題を集め、現在の日本のR&Bシーンの礎を築いた重要な楽曲の一つとして今も語り継がれている。

m-flo / come again

 この「come again」を歌うのは、ドラマ『M 愛すべき人がいて』で主人公のアユ役を演じる安斉かれんだ。安斉は昨年自身の作詞曲「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」でデビュー、CGを駆使したサイバーパンク空間を表現したMVも話題を集め、3rdシングル表題曲「人生は戦場だ」はテレビ東京系アニメ『ブラッククローバー』のエンディングテーマに起用された。またデビュー前からコスメブランド「M・A・C」の店頭コレクションビジュアルに女性ソロアーティストとして初めて3カ月連続起用された経緯があるなど、ルックスやファッションも含めて新世代ギャルの旗手として注目される存在。

 安斉は持ち前の表現力で「come again」の切ない世界観を表現した。少し早口のメロディにハリのある歌声を乗せて、原曲の魅力はそのままに今の時代の「come again」といった新たな聴き心地を与えてくれている。VERBALが担当するラップパートは、日米のハーフによる4人組=INTERSECTIONのCAELAN(ケーレン)をフィーチャーし、斜面を滑るようなラップも聴き応えがある。

 また同曲の当時のMVは、タレントの内藤陽子が広尾を歩きながら携帯電話を取り出すシーンが有名だ。安斉はこのシーンやLISAの歌唱シーンを見事に再現。ただ本家の内藤が赤茶色の革ジャンを着てシルバーの携帯を持っていたのに対して、安斉はピンクのジャケットに赤い携帯、さらに内藤の携帯にはないストラップがジャラジャラ付いたものになっているという違いもある。90年代当時はハイブランドが流行し10代の若者がルイ・ヴィトンやシャネルなどのブランド物を身に着け、携帯電話のストラップはスマホにはない90年代を象徴するアイテム。原作をリスペクトしながら、より90年代を強調したものになっていると言える。

 90年代は、インターネットはまだそれほど普及しておらず、テレビが最大のメディアで、TV-CMタイアップから大ヒット曲が数多く生まれた。CMの短い時間で耳に残るキャッチーなメロディと日本語の歌詞、そこに海外のポップスを意識したサウンドやテイストを組み合わせることで独自の音楽文化が発達し、そんな中でJ-POPという言葉も生まれた。メディアの中心がネットやSNSになった今、Twitterの140文字やTikTokの15秒、パッと見で「いいね」をもらえる映え写真など、キャッチーさが求められる傾向は90年代のそれと近しいものを感じる。レコードやカセットテープからCDになったように、CDからサブスクへと音楽の聴き方が変わったという点も共通していると言えるだろう。

 90年代に生まれた90年代を知らない今の若い世代にとって、90年代文化は新しさと新鮮さに満ち溢れている。それが表出しているのが、近年の90年代リバイバルブームだ。ドラマ『M 愛すべき人がいて』の放送も、それに拍車をかけている一因だろう。当時のヒット曲を今の若い世代が歌ったアルバム『avex revival trax』は、懐古主義の作品ではない。90年代という時代を今の視点で捉えた、最先端が詰まったアルバムだ。

■榑林 史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。

『avex revival trax』

■リリース情報
『avex revival trax』
4月25日(土)デジタル配信開始
2020年5月13日(水)CD発売
¥1,500(税込み)
<収録曲>
01. REVIVE ‘EM ALL 2020(Beverly / FAKY / FEMM / lol – エルオーエル -/ Yup’in / 安斉かれん)
revived MAXIMIZOR「CAN’T STOP THIS!!」
02. Beverly revived globe「FACES PLACES」feat. SCHNELL from SOLIDEMO
03. FAKY revived DA PUMP「Feelin’ Good -It’s PARADISE- (Retake Version) 」
04. FEMM revived hitomi「CANDY GIRL」
05. Hina from FAKY revived Every Little Thing「出逢った頃のように」
06. lol -エルオーエル- revived TRF「EZ DO DANCE」
07. lol -エルオーエル- revived TRF「BOY MEETS GIRL」
08. Yup’in revived 相川七瀬「夢見る少女じゃいられない」
09. Yup’in revived 相川七瀬「恋心」
10.安斉かれんrevived m-flo「come again」feat. CAELAN from INTERSECTION

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■オンエア情報
「テレビ朝日×ABEMA共同制作」
テレビ朝日系土曜ナイトドラマ+ABEMA独占配信
『M 愛すべき人がいて』
2020年4月18日(土)スタート
毎週土曜夜11:15〜0:05 
出演:安斉かれん / 三浦翔平 / 白濱亜嵐 / 田中みな実
高嶋政伸 / 高橋克典 他
オフィシャルサイト

avex revival trax 特設サイト

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