5thアルバム『necessary』インタビュー
藤田麻衣子が明かす、“休み”から得たたくさんの気づき 「作るときの楽しい気持ちとまた出会えた」
前作『wish』から約1年ぶりとなる藤田麻衣子の5thアルバム『necessary』。デビュー15周年を迎える来年を見据え、さまざまなトライを続けるなかで生まれた作品だ。トライのひとつが昨年とった約半年間のお休み。休んで、捨てて、軽くなって、「書きたい」というあふれるような衝動と再び出会ったという。それはまさしく藤田が必要としていたことだった。問わず語りに聞かせてくれたのは、緩やかな時間を送るなかで得たたくさんの気づき。ふと我に返り、「あれ? 私、音楽の話、全然してなかったような?」と苦笑する場面も。いやいや、そういうことこそを聞きたかったんです。そのすべてが藤田麻衣子の新しい音楽を連れてきてくれたのだから。(藤井美保)
あのときみたいにもっと熱くなりたい
ーー割と早いペースでの5thアルバムだったと思うのですが、創作意欲を掻き立てられる事柄などはあったんでしょうか?
藤田麻衣子(以下藤田):大きかったのは、約半年ほどお休みをいただいたことです。デビュー以来ずっとコンスタントに曲を書き、1、2年に1枚はアルバムを出していたんですけど、『wish』を出した後、ちょっとインプットする時間がほしくなったんです。「インプットしたらきっと書きたくなると思う。アルバムは1年後に必ず出すから」とスタッフに約束して(笑)、昨年5月の『藤田麻衣子 オーケストラコンサート2019』から『藤田麻衣子Xmas Special Live 2019』まで、ライブは一切やらずに自由な時間をすごしました。
ーー生活にどんな変化がありましたか?
藤田:ライブがないと、まず荷造りしなくていいんですよ。家を中心にいられると、心も穏やかにもなる(苦笑)。読みたかった本を読み漁ったり、部屋の掃除に燃えたり、と、ずっとできずにいたことをいろいろとやりました。そうしたら、秋になった頃、本当に自分が思ってた以上に「そろそろ書こう」という気持ちになったんです。というより、書きたいことがあふれてきました。
ーー必要な時間だったんですね。
藤田:ここ数年、ライブはやれるだけやってたし、カバーアルバム『惚れ歌』に挑戦するなど、とにかく忙しくいろんなことにトライしてたんですね。というのも、2021年が15周年の年。そこに向けて、どういう自分でいたいか、どういうアーティストでありたいか、模索していたからなんです。そういうなかで、難しいことかもしれないけど取り戻したいと思っていたのが、デビュー当時にあった「書きたい」というあふれるような気持ちでした。1年に数十曲は書いているので、あふれていないことはないんですけど。
ーー多作な人という印象があるくらいですから。
藤田:技術も増えてきて、書く速度もそれなりに上がっているはずと自分でも思ってるんです。でも、何かが足りない。「あのときみたいにもっと熱くなりたい」とずっと思っていました。その気持ちに出会うために、たくさんの挑戦をしてた気がするんです。「まだ出会えない、まだ出会えない」と葛藤しながら。そして昨年、「まだやってないことって何?」と考えていたときに、ふと「あ、休憩」と思いました(笑)。
ーーどんなことをしてたか具体的に聞かせていただけますか?
藤田:音楽という意味でのやりたいことはいつもやれていたんですけど、その分、それこそ部屋はグチャグチャ(笑)。だからまず、整理整頓から始めました。気になって手に取った本に、「片づけが大事」と書かれていることも多くて。
ーーたしかに「片づけ」はブームかもしれません。
藤田:「片づけると運気も上がる」なんて書いてあると、やりたくなりますよね(笑)。いやー、捨てました。服だけじゃなく、なかなか捨てられない家具まで。まだ物がギュウギュウに入ってるうちから粗大ゴミの予約をとって、捨てざるをえないように自分を追い込んで物を減らしていきました。
ーーいわゆる断捨離ですね。
藤田:話が脱線するようなんですけど、私のスマホは、いつもライブの写真や動画で容量いっぱいなんですね。そういう状態だと動きも遅くなる。そこで気づいたんです。もしかしたら、自分も今、容量がいっぱいになってるんじゃないかって。何かにトライしても自分の欲しいものが見つけられないのは、だからかもしれないなと。それが、「物を捨てよう」につながりました。そのうち自分の部屋だけではあきたらなくなり、実家のお掃除まで(笑)。両親はそんなこと全然求めてないから、最初「嵐がきた」みたいな感じでうんざりしてたんですけど、きれいになったら、「やっぱり気持ちがいいものだな」と言ってくれました。
ーー親孝行もできたわけですね(笑)。
藤田:はい。片づけが楽しい夏でした。それで身も心もスッキリしたのが、本当に大きかったと思います。秋になって創作意欲が湧くと、ホントに霧がパーッと晴れるみたいに、「あ、このタイトルで、この思いを書こう」と、どんどん自分の欲しい言葉が見つけられるようになりました。
ーー休んで、捨てて、軽くなる。大事なんですね。
藤田:20代から30代の前半まで、何か迷ったときの選択肢は「もっと頑張る」しかなかったんですね。努力すればできるという思いだけで走り続けてた。もちろん、そうやってがむしゃらにやらなきゃいけない時期もありますよね。でも、ずっと同じやり方ではそのうち通用しなくなる。今回やり方を変えてみて、本当にいい効果があったなと思います。
ーー『necessary』というタイトルは、片づけをするなか、必要なもの、必要じゃないものといった取捨選択をした経験が反映されたものですか?
藤田:そこは実は全然考えてなかったです(笑)。昨年10、11月で10曲くらい作ったんですけど、そのうちのお気に入りの1曲が「necessary」でした。「次のアルバムにコレは絶対入れたい」と、すぐにスタッフに伝えたくらい。
ーーそうだったんですね。
藤田:私、詞先で曲を書くんですけど、〈温もり 視線 会話〉というこの曲の詞が出てきたとき、「ああ、これって昔から私にとって必要なものだったな」と気づいたんです。まず親ですよね、それをくれるのは。子はそこに愛を感じて安心する。「ファンの方とのサイン握手会が好きなのも、そこに温もり、視線、会話があるからだ」と思いました。期せずしてそんなに大事なものについて書いたんだから、アルバムタイトルはもう『necessary』だなと、早い段階で思いました。
ーーお休み中の行動からの必然だったような。
藤田:そう! すべてがリンクしてますよね。お休みの半年間で、自分にとって必要なもの、必要じゃないものを選ぶ行動をしていた。その結果なのかもしれないなと、今、思いました。