鹿乃×MONACA 田中秀和、アルバム『yuanfen』対談 “死”と向き合い明確になった今伝えたいこと

鹿乃×MONACA 田中秀和対談

「一人でもいいので誰かの役に立って死にたい」(鹿乃)

――それ以降の楽曲で、印象に残っている楽曲といいますと?

鹿乃:私はまず、「KILIG」ですね。この曲は、ファンの方が聴いてくださったときに、きっと「初恋の曲なのかな」と思う人も多いんじゃないかと思うんですけど、これは先ほどお話した「Linaria Girl」のように「音楽に恋に落ちる瞬間」を表現したものなんです。最初は一生懸命少女マンガを読んだり、『テラスハウス』を観てトキメキを表現しようと思ったんですけど、どうにもうまくいかなくて(笑)。そこで「自分が音楽に恋に落ちる瞬間の気持ちを、素直に書こう」と思いました。そういう意味でも、デモの段階で一番ロマンティックだと思った「KILIG」に合うと思ったんです。これは私なりの音楽へのラブレターですね。

「KILIG」

――〈200年くらい飽きるまで隣ずっと〉という歌詞が印象的です。

鹿乃:音楽って、私や田中さんが死んだ後にも残るものだと思うんです。それと同じように、「この音楽が好き」という気持ちって、200年先まで続いていきそうな奇跡のようなものだと思っていて。歌うときも浮かれているようなキラキラした雰囲気を意識しました。

田中:編曲を担当してくださったハヤシベトモノリさんに、色んな音色が出ては引っ込む雰囲気にしたい、とお話しました。その結果、音でもキラキラした雰囲気が表現できたのかもしれないです。

鹿乃:他には、アルバムのどこかで自分自身を表現する歌詞を書こうと思っていて、デモを聴いて「絶対にこの曲だ」と思ったのが5曲目の「聴いて」でした。この歌詞は、等身大の自分の飾らない言葉で書いています。みんなは私を「いい人だ」と言ってくれますけど、「そんなのじゃないよ」と思ったりすることもありますし、一方で、そもそも私が音楽を続ける理由って、生きている間に、一人でもいいので誰かの役に立って死にたい、と思っているからでもあって。自分が寂しい気持ちのときにも、音楽があると、一人じゃない気持ちになれることってあると思うんです。歌い方は、田中さんにディレクションをいただいてかなり試行錯誤しました。

「聴いて」

田中:そうですね。今回のアルバムでは、1曲の中でも時系列に沿って鹿乃さんの歌い方が変わることを意識してもらった曲が多いのですが、この曲もまさにそういう曲でした。

鹿乃:最初はあえて抑えて歌うことで、みんなが思っている鹿乃のイメージからスタートして、曲の最後に感情が乗るように歌ってみよう、とか。

――ああ! 確かに、この曲でも終盤は全然違う声になっていますよね。

鹿乃:ミックスの雰囲気も、遠くに響かせるようなものにしてくださいました。

田中:というのも、この曲は「自分の内側を見つめることで、ものすごく大きなエネルギーが外に放たれる」という意味で、僕の中ではシューゲイザーのようなイメージだったんです。

――他にもお2人それぞれ、印象的だった曲はありますか?

田中: 8曲目の「罰と罰」は、個人的には「つくれてよかった」と思った曲でした。この曲は最後に歌を録ったんですけど、歌詞も言葉数が多いですし、自分自身あまりこういう雰囲気の曲は過去につくったことがなくて。編曲の佐高陵平さん(y0c1eとしても活動)もそうだったと思うんですけど、佐高さんの音楽性との化学反応を期待してお任せしたら、めちゃくちゃいいアレンジにしていただきました。

「罰と罰」

――ジャズのテイストもあって、同時にモダンな要素も入っている楽曲ですね。

田中:そうですね。曲の基盤はラテンジャズだと思うんですけど、サウンドはもっとモダンな雰囲気になっていて、鹿乃さんのウィスパーボイスの表情づけも印象的ですし、それがエディットした音と混ざり合うようになっていて。歌詞は、鹿乃さんが1日で書かれていたと思うんですけど、とても素敵だと思いました。魂が込められた歌詞というか。

鹿乃:ありがとうございます(笑)。この歌詞は、「執着しすぎた罰」「執着しなさすぎた罰」という意味で、「悪縁」のようなものを表現しているんです。悪縁って、どちらか一方が悪いわけではないと思うんですね。どっちにもすれ違いがあって、責任があって。そういう雰囲気を表現した曲でした。

――なるほど。そしてラスト曲「エンディングノート」についても聞かせてください。

「エンディングノート」

鹿乃:今回のアルバムは、「今死んでも悔いの残らないような作品をつくりたい」という気持ちでつくりはじめた作品なので、そういう意味でも、もちろん遺書ではないんですけど、最後に「エンディングノート」を入れたいと思ったんです。楽曲の雰囲気を説明していただいたものにも、「もう終わりだけれどまだ終わりたくない」と書かれていたので、「テーマはこれしかない!」と思って。そこから、「エンディングノートということは、本当にみんなへの気持ちを書くものになるよなぁ。そのとき、自分はどんな歌を歌いたいだろう?」と考えていたら、シンプルに「ありがとう」と伝えたいという気持ちになりました。それこそ、田中さんと初めてお仕事をさせていただいた曲「day by day」の歌詞にもあった“愛の唄”(〈誰かのため/愛を唄おう〉)なのかな、って。もちろん、これが本当に最後ではなくて、まだまだ活動していこうと思っているんですけど、ネットの中で生まれた「鹿乃」というキャラクターの終わりを想像して歌詞を書いてみました。

――歌詞も曲もアレンジも、かなり壮大なものになっていますよね。

田中:いい曲……。

鹿乃:(笑)。歌詞を最初に渡したとき、田中さんは「こうくるとは思わなかった」と言われていましたよね?

田中:感動してしまって、半分泣いているような状態でした。テーマもそうですし、全部の言葉が刺さってくる感じがして。レコーディングのときも、演奏してくださるミュージシャンの方々に鹿乃さんの歌詞を共有して、説明してから演奏をしてもらっています。この曲で編曲をお願いしたのは、僕がいつもお仕事させていただいているsugarbeansさんで、演奏してくださったミュージシャンの方々も、僕がいつもご一緒している方々です。実はこのレコーディング中は、僕らの間で、「死」というものへの気持ちが共有できている時期だったんです。それは、レコーディングの現場では言葉としては出なかったんですが、「死」というものに対する身近さや、「僕らにもいつそれが訪れるかわからない」、だからこそ「今何を伝えたいのか?」という思いのようなものが、かかわってくれた方々全員で共有できていたように思います。歌詞をお渡ししたときに、演奏してくれたみなさんが「これはブルーズだ」と言われていて。僕も鹿乃さんが「人生のブルーズを表現した楽曲」なのかな、と思っています。

――最後に、今回の『yuanfen』は、お2人にとってどんな作品になったと感じていますか?

鹿乃:たとえば、色々と悩んで考えていても、諦めずに少しずつでも進んでいけば、その先で何かが開けていくようなことってあると思うんです。この作品は、そんな道標のような作品になってくれたらいいな、と思っています。あと、このアルバムから、私自身の視野が変わってきた部分もあるんです。活動を続ける中で、自然と日本の人たちを意識していた部分があったんですけど、もともと鹿乃はインターネットから出てきたわけですし、「もっと広い視野で考えたらいいのかな」と思えるようにもなって。そうやって、今世界中の人が私の音楽を聴いてくれていることや、自分が活動をしていくことについて、自信を持てるようになった作品でもありました。「聴いてさえもらえれば、好きになってもらえる」と思える素敵な曲をプレゼントいただいて、「音楽で希望をいただけたな」と思います。

田中:僕も、1枚のアルバムを全曲プロデュースさせていただくことは、作家として大きな経験になりました。アルバム1枚すべての楽曲を同じ作家が書くことは、昨今なかなかないことですし、この作品ではアルバムを通して聴いたときに美しいものにしたいと思って、曲順からこだわりを持ってつくらせていただいて。自分にとっても、「1枚すべてサウンドプロデュースをさせていただきました」と胸を張って言える作品になったと思っています。

■リリース情報
2020年3月4日(水)発売
『yuanfen』
【初回盤】
<CD+DVD> ※LPジャケット仕様
TECI-1675(DVD:TEBI-42601) / 価格:¥3,818+税
<収録曲>
01.午前0時の無力な神様
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Aire
02.光れ
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Nor
03.yours
作詞:鹿乃 作曲・編曲:田中秀和(MONACA)
04.KILIG
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:ハヤシベトモノリ
05.聴いて
作詞:鹿乃 作曲・編曲:田中秀和(MONACA)
06.漫ろ雨
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:曽我淳一
07.おかえり
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Oliver Good(MONACA)
08.罰と罰
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:佐高陵平(Hifumi,inc.)
09.エンディングノート
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:sugarbeans
bonus track
光の道標
作詞:こだまさおり 作曲:山田高弘 編曲:齋藤真也

<DVD>
1.午前0時の無力な神様 Music Video

【通常盤】
<CD>TECI-1676 / 定価:¥3,000+税
<収録曲>
01.午前0時の無力な神様
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Aire
02.光れ
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Nor
03.yours
作詞:鹿乃 作曲・編曲:田中秀和(MONACA)
04.KILIG
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:ハヤシベトモノリ
05.聴いて
作詞:鹿乃 作曲・編曲:田中秀和(MONACA)
06.漫ろ雨
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:曽我淳一
07.おかえり
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Oliver Good(MONACA)
08.罰と罰
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:佐高陵平(Hifumi,inc.)
09.エンディングノート
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:sugarbeans
bonus track
光の道標
作詞:こだまさおり 作曲:山田高弘 編曲:齋藤真也

『鹿乃 VR Live ReBirth』

■ライブ情報
『鹿乃 VR Live ReBirth』
2020年3月29日(日)19:00~(日本時間)/18:00~(北京時間)
INSPIX LIVE:24コイン
ニコニコ動画 ネットチケット販売価格(税込価格):2,000ニコニコポイント(2,000円)
※視聴URL、ネットチケット販売URLは別途鹿乃公式HPにて公開。
bilibili動画 ネットチケット販売価格:100元
※視聴URL、ネットチケット販売URLは別途鹿乃公式HP。

■関連リンク
鹿乃 オフィシャルサイト
鹿乃 オフィシャルTwitter

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