chay、アーティストとしての集大成 ステージ上で花開いた10年分の努力と成果

chayが見せた、10年分の努力と成果

 ここでパープルのジャケットを羽織り、リボンのようなベルトを巻いた彼女は、MCで2020年10月にメジャーデビュー7周年を迎えたことに触れ、「デビューして8年目に入りました。早いようで長いような不思議な感覚ですが、こうして歌っていられることはいつも応援してくれているみんなのおかげです」と感謝の気持ちを述べた。

 そして、「10年前の今頃はちょうど路上ライブをしていました。当時は怖いものは何もなく、とにかく夢に向かってがむしゃらに突っ走っていたなと思います。デビューして、年齢を重ねて、現実をみていく中で、どんどんちっぽけな自分になっていき、抱く夢さえもちっぽけになっていってしまう。そんな壁に当たったこともありましたが、まだまだ夢の途中だと思っています。これからも、ずっときっと叶うと信じ続けて、歌い続けていきます」と決意を語り、デビュー前の19歳の自分に思いを馳せる「ずっと きっと 叶う」をアコースティックギターの弾き語りで披露。さらに、ループマシンを使い、一人でアコギやコーラス、クラップなどを多重録音をしながら、エド・シーラン「Shape of You」をカバーし、観客を喜ばせた。

 そして、「大切な人との時間は当たり前のようで当たり前ではない。明日には無くなってしまうこともあるという実体験を基に書いた」と説明した「伝えたいこと」では、アコギをタッピングして作ったループをバンドへとバトンタッチするという新たな試みにもチャレンジし、松尾潔&川口大輔コンビによる「砂漠の花」では息を混ぜないという、これまでにない唱法で艶っぽく歌い上げた。この2年5カ月の間に、彼女は自主企画のアコースティックライブを開催し、ルーパーとしての技術を磨くとともに、昨年はミュージカル映画に出演し、初の演技も経験した。技術や表現力という面でもアーティストとしてのさらなる進化も見せてくれたパートだったと思う。

 オルゴールの音を基調にしたバンドによるインスト演奏の間に、彼女は白いファーのケープが付いた濃紺ドレスに着替え、ヘアスタイルも編み込んで再登場。ファンタジックな世界観の「My Fairy Tale」、バンドメンバーの深沼がアレンジし、この日のドラムでもあった田辺貴広も参加していたウィンターソング「Snowflake」をしっとりと聴かせたところでケープを取り、ノースリーブ姿へ。

 「みんなが幼かった頃、手のひらが小さかった頃を思い出して聴いてください」と語り、アルバムの中でも特に思い入れの強い曲だという「小さな手」を満天の星空の中でエモーショナルに歌い、オーディエンスの感動を誘った。そして、「いつも曲を作る時には、今しか感じられない気持ちとか、今しか描けない言葉を大事にしてて。次の曲はまさに今しか書けない曲なのかなと思います。自分的には踏み込んだ歌詞なので、みんながどうやって受け取ってくれるかなと思ったら、共感しましたっていう声をたくさんいただけて嬉しかったです」と話し、結婚する友達への祝福と、ちょっとした寂しさや不安を吐露したポップナンバー「ブーケの行方」を明るく賑やかにパフォーマンス。

 スリリングな大人の恋の駆け引きを描いたラテン歌謡「あなたの知らない私たち」を歌い終えると、クルクルと回転しながら翻していたロングスカートから一瞬でタイトなミニスカートへと早着替え。タオル回し曲の「Summer Darling」や「Dream Sniper」で盛り上げ、会場がひとつとなって盛大なシンガロングによるコーラスに彼女が主メロを歌い上げる「私が私になるために」でドラマチックに本編を締め括った。

 アンコールではツアーTシャツにデニムというラフな出で立ちとなったchayに観客がサプライズを用意。全員で「はじめての気持ち」の大合唱と、ラベンダー色のハートの人文字で迎えると、chayは驚きの顔を見せながら、「これからもみんなと一緒に歩んで成長していきたい」と、改めて感謝の気持ちを伝えた。そして、「日々の小さな幸せに気づけることが本当に幸せなんだと痛感してます。私は今日、みんなの笑顔を見れて、本当に幸せな時間でした」と語り、「それでしあわせ」をピアノの伴奏のみで優しく、丁寧に歌唱。さらに、「みんなの顔を思い浮かべながら作った、みんなとつながっていると感じられる曲です」と話した「With」を歌い出すと、サビで観客が手作りのフラワーボンボンを振り出し、chayは喜びと驚きの涙を堪えながら熱唱。「びっくりしたよ。ありがとね」と語りかけながら、会場の隅々まで笑顔で手を振り、名残惜しそうにステージを後にした。

 終演後に彼女の資料を見返してみたら、デビュー前に撮影された宣材写真が出てきた。レトロなヒッピー風の衣装を着た彼女の耳には白い花をモチーフにしたピアスが揺れていたのだが、この日のステージ上にあったペーパーフラワーはそれを模したものだったのだろうか。真意は分からないが、この日のライブは、高校卒業後の19歳で路上ライブを始め、21歳でメジャーデビューした彼女の10年分の努力と成果が花開いたツアーであったことは間違いない。

■永堀アツオ
フリーライター。音楽雑誌「音楽と人」「MyGirl」、ファッション雑誌「SPRiNG」「Steady」「FINEBOYS」などでレギュラー執筆中。「リスアニ!」「mini」「DIGA」「music UP’s」「7ぴあ」「エンタメステーション 」「CINRA」「barks」「EMTG」「mu-mo」「SPICE」「DeVIEW」などでも執筆。

chay 公式サイト

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