ストリーミングサービスが近年の音楽シーンに与えた影響 2020年以降のヒット傾向も予測

ストリーミングサービスが近年の音楽シーンに与えた影響 2020年以降のヒット傾向も予測

 2020年を迎え、音楽シーンも新しい局面へと向かおうとしている。そこで本稿では新たな音楽の動向を予見していくにあたり、2010年代という一つのディケイドで普及し、リスナーの音楽の聴き方からアーティストのあり方、音楽市場まで音楽シーンのあらゆる側面に対し影響を与えた音楽ストリーミングサービスに着目する。音楽ストリーミングサービスは近年の音楽シーンに具体的にどのような変化をもたらしたのか。デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏に、楽曲、リスナー、アーティスト、音楽市場等の側面から話を聞いた。

 はじめに、ジェイ氏はリスナーと音楽の関係の変化について、大きく2つのポイントを挙げた。まず、「リスナーと音楽の距離」に関してこう言及する。

「リスナーの変化で一番大きいのはスマートフォンで音楽を聴くようになったこと。今まで音楽を聴くにはレコード、CD、iPodなどの音楽専用デバイスが必要でした。しかし、スマホという音楽専用デバイスとは異なるデバイスで音楽を聴けるようになったので、音楽を聴くための機材を買い揃えることがどんどん必要なくなったのがこの10年で一番大きい変化の1つです。また、ディスクとデータがない、いわゆる“聴き放題”とよくいわれる形式が伸びた背景には、ストリーミングサービスに定額を支払うサブスクリプションの普及が大きい。つまり、曲に対するアクセス料を毎月払っていることへとリスナーの行動も変わった。CDなどフィジカルを店舗やオンラインで買って手にするまでの時間と比較すると、物理的に音楽へたどり着くまでの距離がどんどん短くなっています」

 次に挙げたのは「人気楽曲の見つけ方」だ。

「人気の曲の見つけ方も変化しています。例えば、CD売上に伴う音楽チャートは1週間のセールスを集計した週間チャートがメインになることが多い。しかし、主要なストリーミングではリリース後の24時間が重要です。24時間の間に曲がたくさん再生されたり、SNSで共有しながら聴かれれば、これが人気曲だとストリーミング上のアルゴリズムが認識するので、Spotifyで言えば「Top Hits Japan」、Apple Musicでは「トゥデイズヒッツ」などの新譜向けのプレイリストに追加されやすくなるなど、その後も聴かれ続ける傾向が強まる。24時間でみんなで一緒に曲を聴くという聴き方は、ビヨンセが一切プロモーションをせずにサブライズリリースした2015年の作品『BEYONCÉ』がきっかけとなりました」

 続いて、2010年代の前半と後半でヒットした楽曲の差異に関してジェイ氏は以下のように語る。

「2010年代前半、SpotifyやSoundCloud、YouTubeなどストリーミングにいち早く反応していったのはインディーズで活動するアーティストやレーベルです。Lorde、Bon Iver、Mumford and Sonsなどアーティストやインディーズレーベルの方がストリーミングやネットの世界に対して抵抗が少なく、小回りが利き、チャレンジ精神が強い人が多かったためでしょう。アメリカのBillboard HOT 100やイギリスのオフィシャルチャートなど世界の音楽チャートを見ても、2010年代前半は新しいインディーズアーティストの成功が目立った傾向が見て取れます。

 メジャーレーベルも次第にストリーミングの仕組みや傾向を理解してヒットの法則を学び始め、後半はグローバル規模で人気のメジャーアーティストが各国のチャートを占める割合がより強くなりました。ジャンルで言うとヒップホップは2010年代半ばから後半にかけて、インディーロックは2010年代前半にヒット曲が多かったです」

 さらに、アーティストが作る楽曲の変化に関しても以下のように続けた。

「曲の尺は次第に短くなっています。ストリーミングのリスナーはどんどん次の曲を聴いていくので、今はイントロがほぼない曲が多い。良いフック、リフ、サビのメロディが作れることが大事で、そうしたアーティストが作家として力を持つようになっていきました。2010年代の早くからEDMやダンスミュージックのアーティストは、フェスやイベントでプレイして目の前で観客のリアクションを見られることもあり、そうした視聴傾向を考えて曲を作る傾向が強まり、The Chainsmokersやカルヴィン・ハリスなどは、ダンスミュージックで究めた曲作りをポップスに落とし込み、ジャンルを超えてポップスアーティストとしても強度のある存在になっています」

 ジェイ氏が指摘するように海外においてはストリーミングサービスの普及により、楽曲の尺や、イントロなどの構成に顕著な変化が見られた。例えば、アメリカのチャートトップテンの楽曲の平均は3分7秒だ。一方で日本のシングルチャートにおける上位10曲の平均は4分34秒と、アメリカの分数より1分以上も長い(参考:logmiBiz)。日本の音楽市場における売り上げのシェアはCDが75%ほどを占め、ストリーミングサービスが10%〜15%ほど。一方アメリカなど欧米の音楽市場の場合はすでに売り上げの8割ほどがストリーミングサービスだ(参考:RIAA)。このデータからは、日本ではまだ大部分において楽曲構成にまでストリーミングの影響が波及していないことがわかる。

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