ストリーミングサービスが近年の音楽シーンに与えた影響 2020年以降のヒット傾向も予測
しかし、ストリーミングが今後売り上げのシェアを伸ばしていくとしたら、日本でヒットする楽曲はどのように変化していくのだろうか。
「今後、日本がストリーミング大国になり、消費のトレンドの移り変わりが早くなれば、ストリーミングの再生数でチャートの順位が一気に伸びて一瞬で落ちる曲が増えると思います。一方、爆発的なヒットを記録したスピッツやMr.Children、宇多田ヒカルなど90年代の曲やアーティストは、ストリーミングでもずっと聴き続けられます。というのも、1週間の間にフィジカルで売れたもの、ストリーミングで多く再生されたもの、SNSで話題になりトレンド入りしたものなど、ストリーミング以降で“ヒット”の概念が変わり細分化してきています。そのなかでもヒットの傾向としては、プラットフォームを横断して「すぐに楽しめる曲」、つまり瞬間的にバイラルしてプラットフォームを飛び越えて聴けるバイラル・ソングや、継続的にプラットフォーム内でヒットしたり、動画配信などの作品に使われたりして、長く聴かれ続けるエバーグリーン・ソング、さらには、チャートの中で1位から50位の間に常に入っているロングテール・ソングなど細分化された楽曲がどんどん生まれると思います」
ICT総研の調査によると、定額制音楽ストリーミングサービスは、10~20代の利用率が高い一方、年齢層が高くなるほど利用率が低く、無料の音楽配信サービスでは10代の半数以上にあたる51%が「現在利用している」もしくは「1年以内に利用した」と答え、40代では23%にとどまった。有料サービスでは20代が33%と最も利用率が高かった。これは、定額制音楽ストリーミングサービスの潜在的な成長性の高さを物語る。では、もしもそのまま2020年以降日本の音楽市場においてストリーミングサービスがシェアを伸ばしていけば、CDやライブなどのフィジカルやリアルに対する指向性は変化するのだろうか。ジェイ氏はこの問いに対し日本の音楽業界への展望も交えながら以下のように語る。
「欧米ではすでにストリーミングサービスを指標に、アーティストへのオファーだけでなくブッキングの契約金やチケット価格の設定を行う場合も増えています。ストリーミング利用のシェアが増え、人気の指標がより明確になれば、日本の音楽業界でも同様の動きが見られるようになるかもしれません。そうすることにより、ストリーミングでの人気がライブへ,ライブでの人気がストリーミングへ、という流れを作り出すことができます」
では今後注目すべき、ヒットを生み出すコンテンツとはどのようなものになるのだろうか。
「NetflixやAmazon Primeに使われる曲がストリーミングでヒットするきっかけを作ると思います。例えば、Lizzoの「Truth Hurts」は2年前の曲ですがNetflixのドラマに使われたために昨年ヒットしました。また、音楽系のドキュメンタリーや、音楽が特徴的な映画やドラマが公開されれれば、ストリーミングでも聴かれるようになるというサイクルが作りやすくなります。タイアップの選択肢がテレビ番組や映画だったのが、動画サービスでのシンクロ(楽曲ライセンス)も増えることにより、聴かれ続ける期間やコンスタントな収益源が増やせるようになることも大きいはず。ヒットの図式は変わるでしょう」
蓄音機の登場から150年弱、音楽媒体は様々な変化を遂げてきた。レコード、カセットテープ、CDなどフィジカルなものから、ダウンロード配信、そして2000年代末には音楽ストリーミングサービスの登場……音楽ストリーミングサービスは、音楽とリスナーの間に、今までの音楽媒体が持ち得た「所有性」ではなく「共有性」や、誰もが楽曲をアップロードすることができる「双方向性」をもたらし、拡散という機能を付加することでジェイ氏が言及したような音楽の聴き方、楽曲の構成、アーティストのあり方にまでこの10年であらゆる変化を生み出した。デジタルコンテンツ以外にも欧米ではアナログレコードの売り上げの上昇などフィジカルの側面からも新たな盛り上がりを見せている。2020年以降、音楽ストリーミングサービスだけでなくその他デジタルコンテンツは音楽シーンをどのように変えていくのか、そして変えていくべきか、展望は尽きない。