Alexandra Savior、Emily Yacina……個性豊かで魅力的な女性シンガーの歌声を味わえる5枚

アナ・フランゴ・エレトリコ『Little Eletric Chicken Hear』

アナ・フランゴ・エレトリコ『Little Eletric Chicken Hear』

 リオを拠点に活動するアナ・フランゴ・エレトリコ。2018年に配信のみでリリースしたデビューアルバムでは、Caetano Veloso Bandのドラマー、マルセロ・カラードやチアゴ・ナシーフを共同プロデュースに迎えていたが、2作目となる新作は、チコ・ベルナルデスやセッサなどを新世代アーティストを輩出するサンパウロのレーベル<Selo RISCO>からのリリース。サンバやボサノバなどブラジル音楽を土台にしながらも、ガレージロックが炸裂したかと思ったら、ジャジーなホーンにシンセが飛び交ったり、メロウなR&Bだったり、曲作りやアレンジは自由奔放。そこに漂うサイケデリックな感覚にトロピカリズモの遺伝子を感じさせて、自分の好きなアイテムで飾り付けた部屋のようにポップでガーリーな小宇宙を生み出している。そんななか、ちょっと鼻にかかった今にも泣き出しそうな歌声もチャーミング。ブラジルの新世代を感じさせる頼もしい才能の持ち主だ。

Chocolate

The Innocence Mission『See You Tomorrow』

The Innocence Mission『See You Tomorrow』

 最後はベテランを。昨年、バンド結成30年を迎えたペンシルベニア出身のThe Innocence Mission。今回のアルバムもいつも通り、ドンとカレンのペリス夫妻の自宅でレコーディングされた。ドンがギターを弾き、カレンが歌い、時々ベースのマイク・ビッツが入るというスタイルも変わらない。完成されたスタイルだけど、そこから生まれる音楽は今生まれたばかりのように瑞々しい。ドンとカレンがドラムや鍵盤の音を重ねることがあっても、音の余白や奥行きを大切にしていて、聖歌のように美しく、子守唄のように優しいカレンの歌声が静かに響き渡る。久し振りに30年前のデビューアルバムを聴いてみたら、その歌声はほとんど変わっていなかった。汚れることがないイノセンスさは健在だ。日本盤には、スフィアン・スティーヴンスが「完璧な曲」と絶賛した「The Lakes of Canada」のセルフカバーを収録。そろそろ日本に来て欲しい。

the innocence mission - On Your Side (Official Video)
RealSound_ReleaceCuration@YasuoMurao

■村尾泰郎
音楽/映画ライター。ロックと映画を中心に、雑誌、ウェブ、ライナーノーツなどに幅広く執筆。『シング・ストリート 未来へのうた』『君の名前で僕を呼んで』『グリーンブック』など映画のパンフレットにも数多く寄稿する。監修/執筆を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)がある。

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