いきものがかり、『WE DO』で切り拓いたさらなる“歌”の可能性ーーアルバム収録曲を分析
サウンド面において特に新鮮さが感じられるのは、アルバムの中盤、7~9曲目だ。7曲目の「太陽」は、アコースティック調のミディアムナンバー。8分の6拍子の軽やかなリズムが心地よい。今回のアルバムのラスト3曲がメンバーそれぞれが手掛けた渾身のバラードであるように、ともすれば、壮大なバラードを作りがちなグループではある。そんな彼らにとって、ここまでリラックスした空気感の曲は意外と珍しい。ちなみに、この曲のクレジットは“作詞・作曲:いきものがかり”。吉岡が歌詞の原案を制作し、そのイメージを山下穂尊が広げたあと、2人の言葉に水野がメロディを付ける、という工程を経て完成したグループ初の共作曲とのことだ(参照)。続く「きみへの愛を言葉にするんだ」はブラス隊のベルトーンから始まるアッパーチューン。バンド陣は真壁陽平(Gt)、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S/Ba)、あらきゆうこ(Dr)と、いきものがかりのレコーディングではあまり登場しない、フレッシュな顔ぶれとなっている。「しゃりらりあ」はタイトルに掲げられた呪文のような謎の単語だけでなく、日本語・英語・中国語が飛び交うファンクチューン。音程をずり上げるような歌唱法とボイスエフェクトを組み合わせ、ラスサビ前で転調するアプローチも新しい。そんな個性の強い3曲と、ラストに控えるバラード3曲の間を繋げるのが「try again」。いきものがかりの王道と呼べる曲がここに配置されることにより、空気が一旦入れ替わるような感じがある。この曲の作詞作曲は山下。山下はこういう痒い所に手が届くようなソングライティングが得意な人物だ。
そして『WE DO』を紐解くうえで欠かせないポイントが、吉岡のボーカルだ。歌声を何重にも重ねた「WE DO」アウトロで見られるソウルフルなスキャットも聴き応えがあるが、最も感動させられたのは「アイデンティティ」。サビ始まりの歌い出しにも、〈こころよ自由になれ〉のロングトーンにも、歌詞がない「ラララ」のパートにも、グッと熱量がこめられている。個人的に好きなのがDメロの冒頭、〈こたえなき旅だけど〉の「こ」の発音。子音(k)のアタックより少し先に息が漏れてしまっているところに前のめりな勢いを感じる。また、〈愛していけ〉のファルセットも今までにない歌い方で、吉岡にはまだボーカリストとして伸びしろが――彼女自身すら知らないかもしれない未踏の領域があるのだろうかと、そのおそろしさに高揚した。とはいえ、これまで守ってきた持ち味、どんな曲もフラットに歌うことのできる個性が失われたわけではない。そうでなければ、往年の名曲からの影響を色濃く感じさせる、こってりとしたアレンジをあえて施した「STAR LIGHT JOURNEY」が、むしろ爽やかに聞こえるなんてことは起こり得ないだろう。
先にも挙げた吉岡作詞作曲の「あなたは」は、他の曲に比べて歌詞の文字量が圧倒的に少なくまるで詩のようだ。それは、言葉で説明せずとも歌で伝えればいい、自分にはそれができるのだ、という意識が彼女自身にあるからではないだろうか。「あなたは」は明らかに自ら歌う人にしか書けない曲であり、ここに来て彼女はソングライターとしての個性を確立している。これまでは水野・山下がいきものがかりのメインソングライターだという印象が否めなかったが、今作では3人のソングライターが横一列に並んでいる。それぞれの書いたバラード3曲でアルバムを締め括るのも、今だからこそできた挑戦なのでは。