平井堅「#302」と秦 基博「Raspberry Lover」、二大シンガーソングライターによる最新ラブソングの凄み

秦 基博『コペルニクス』(通常盤)

 一方、秦 基博の「Raspberry Lover」は、12月11日に発売されたばかりの6枚目のアルバム『コペルニクス』の先行シングル。コンセプトに“毒入りのラブソング”を掲げ、行き場のない恋の切なさや叶わぬ恋の苦悩を綴ったナンバーだ。冒頭はギターのカッティングとリズムのみ、徐々にピアノが入り、やがてストリングスが曲全体を覆っていくという、1フレーズごとに変化していく曲展開が印象的。性急なリズム、繰り返されるギターリフもどこか不安げで、〈僕だけの彼女をもっと知りたい 教えてくれるなら その粒が毒入りだって構わない〉と歌う楽曲の密かな狂気をうまく表現している。極め付けは心の声をそのまま口に出したかのような歌唱スタイルだろう。これまでその美声を活かし、メロディアスな楽曲を数多く手がけてきた秦だけに、本作の斬新な構成にはファンも驚きを隠せなかったのではないか。自身も「新たな秦の音楽の一端を感じさせる曲に仕上がっている」と自信をのぞかせるが、まさしくその通り。気だるげなハスキーボイスも曲の世界観とマッチしてそこはかとない色気を放っている。

秦 基博 - Raspberry Lover Music Video

 楽曲だけで言えば、「#302」のようなピュアで切ないボーカル表現は秦の、「Raspberry Lover」のセクシーかつリリカルな世界観は平井の得意とするところのように思えるのは、偶然とはいえ面白いところ。ままならない恋に胸を焦がす男性の心理を歌ったテーマであることも一致しており、アプローチに違いが一層はっきりと感じられるのも興味深い点だ。だがそこに他意はなく、両者とも新たな表現に向かう中でたどり着いた楽曲であったことは間違いない。

 2020年には平井堅がデビュー25周年を迎え、秦は2016年以来となる全国ツアーを開催する。それぞれがまた一歩、次なるステージへと踏み出す節目の年になりそうだ。果たしてどのような世界を見せてくれるのか、その手がかりも「#302」と「Raspberry Lover」、ふたつの楽曲に隠されているような気がしてならない。

■渡部あきこ
編集者/フリーライター。映画、アニメ、漫画、ゲーム、音楽などカルチャー全般から旅、日本酒、伝統文化まで幅広く執筆。福島県在住。

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