草なぎ剛の純粋さと内側に持つ熱さを痛感 『はっぴょう会』田島貴男&斉藤和義との共演を完全レポート

草なぎ剛、初ワンマンに感じた“純粋さ”

 それではコンサートを振り返っておこう。

 合間に草なぎは、ステージ上の私物を見ながらで「古いものが好きなので」「アナログが好きなんですよ」と言っていた。それはそうしたアイテムだけでなく、音楽と歌にもそのまま表れている。ビンテージものを愛し、レトロな感覚を好む。音楽で言えば、主に60~70年代のアメリカで、ロック、フォーク、そしてシンガーソングライター。自作自演でアコギを弾きながら唄う草なぎの指向性はシンガーソングライターの像にある。

奥田民生
和田唱
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 ただ、ソロでの草なぎの実力は、まだまだ途上段階だ。ギターも、歌も、楽曲も。終演後のマスコミ向けの会見に現れた彼は「ギターには毎日触ってます」と言っていたが、始めてからの7年間ずっとギターを弾いたり練習したりをできていたわけではないだろうし、それはソングライティングについても同じくだろう。そこは、これも会見での「ステージのセットは細部にわたるまで偽物がないのに、唯一の偽物は僕の歌とギターテクニックですね」という発言からもうかがえる。これは、一部報道にあった自虐などでは、決してないだろう。

 しかしそんな状態なのに、この夜が最高に楽しめたのは、もちろんゲストの力が大きいのは前提として、やはり草なぎ剛という人の持つ才能と魅力があるのは間違いない。それはスター性とも言い換えられるだろう。

 何しろ草なぎには、30年近くも人前に出てパフォーマンスをし、コンサートをやってきた膨大な場数のキャリアがある。今夜はその場数という武器が、お客さんを楽しませること、音楽を楽しんでもらう方向に、ナチュラルに向かっていた。だから彼は曲ごとにMCを入れ、唄ったあとにもジョークで笑わせ、自分自身の今を伝える話をした。言うなれば「間違えちゃった」とまでこぼすような正直さも、そのひとつ。その懸命さは、決して偽物ではなかったはずだ。

 とくにゲスト2人へのギターに関する質問の多さは、客席を笑いに巻き込み、会場の微笑ましい雰囲気をより醸成した。その時間によって草なぎは、自分がそれだけギターに入れ込んでいるのを示すとともに、お客さんに「こんなに熱中しちゃって」という笑いを提供した。それをサラッとやってしまう彼は、間違いなくプロであり、また、エンターテイナーだとも感じる。

 そして僕が最も強く感じ入ったのは、くり返すようだが、草なぎの純粋さである。演奏でも、今夜のどの歌も「キレイに唄おう」とか「カッコつけよう」という邪心がなかった。そこはシンガーソングライター的であると思うし、そうした中でできる限りいい演奏をして、歌のいいところをオーディエンスに届けることに集中していた。そこで音楽への憧れとリスペクトが表現されていたことにも好感が持てた。

 で、この純粋さ、ピュアな点については、楽曲にも言える。多くの歌がそうなのだが、45歳の男性にしては、ちょっと青くさいし、ナイーブだ。たとえばラブソングにしても、愛犬への愛情を唄った曲にしても、巷の40代をどんなふうに思い浮かべても、なかなかこんな男のイメージは湧いてこない。まさに”I Love Pure”。極端な比較になってしまうが、今夜のセッションで唄われた斉藤和義の「ウサギとカメ」は、彼のアルバム『45 STONES』(2011年)の収録曲。斉藤はこの苦々しさを込めたハードな歌を、現在の草なぎの年齢の時に発表しているのだ。

 だがその「こんな男などいない」という部分こそが草なぎの個性なのだとも、幾度も感じた。よっぽどまっすぐで、よっぽど優しく、よっぽどウソをつくのが嫌いじゃないと唄えないような、純度の高い曲ばかり。それは彼だけが持つ、かけがえのない輝きに違いない。

 もっと言えば、そんなまっすぐさや本当にピュアな気持ちがないと、こんなに実力も人気も携えた4人のギター弾き&歌うたいを呼び、初ライブで共演するなんて考えつかないだろう。言わば、無謀スレスレ。しかしその発想を実行し、2日間を最高に楽しい夜として成立させたことには、やはり、ただならぬ才覚を感じた。

 草なぎが笑顔をふりまき、熱中し、音楽で観客とともに高まる瞬間は、独特のあたかかさがあった。彼は音楽の力を信じているのだと思う。なお、終演後の会見の去り際には、この夜、稲垣吾郎と香取慎吾が観に来ていたことも教えてくれた。

 40代半ばにして、大きな一歩を踏み出した草なぎ剛。ここからでも焦ることはないと思う。ソロアーティストとしての今後の活躍を期待しながら、だけどちょっと気長にとらえながら、見つめていきたい。

(取材・文=青木優/写真=新保勇樹)

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