ROTH BART BARON、崎山蒼志、高野寛、原田知世……柴那典が選ぶ「新しい日本語のフォークロア」

MONO NO AWARE『かけがえのないもの』

MONO NO AWARE "言葉がなかったら" (Official Music Video)
MONO NO AWARE『かけがえのないもの』

 東京都八丈島出身の玉置周啓ら4人組バンドによる3rdアルバム。もともとカテゴライズ不能な音楽を形にしてきたバンドだけれど、新作を評する言葉として「新しい日本語のフォークロア」という形容は、どこかぴったりくると思う。

 自然体のアンサンブルにも、ときに素っ頓狂なメロディラインも、言葉遊びに満ちた歌詞の言葉も、どこか「子供が見る夢」を描写したかのような響きが宿る。

 早口言葉を歌にした「かむかもしかもにどかも」など、ユーモラスな楽曲も多く収録しているが、中でも〈言葉がほんの一つ足りなかっただけでその後はたった一度の言葉も交わせぬまま〉という歌い出しから始まる「言葉がなかったら」はとても感動的。

高野寛『City Folklore』

魔法のメロディ / 高野寛 (Magic Melody / Hiroshi Takano)
高野寛『City Folklore』

 デビュー30周年を迎えたシンガーソングライター高野寛による、5年ぶりのオリジナルフルアルバム。ここまであげてきた面々とは、世代こそ違えど、どこか通じ合うものを感じる。

 アルバムは、プロデューサーに冨田恵一(冨田ラボ)を迎えて制作された1枚。キーワードとなったのは「シティポップ」だという。しかし、曲調には70年代や80年代のシティポップへのノスタルジーは感じない。たとえば「魔法のメロディ」は、メロディと歌の響き自体にはしっとりとした柔らかさがありつつ、細部のサウンドメイキングには研ぎ澄まされた鋭さがある。同じくシティポップを掲げる土岐麻子の近作にも通じる、今の時代の都市環境と空気感を表現したようなポップソングになっている。

 アルバムのタイトルは『City Folklore』(シティ・フォークロア)。コンピュータを駆使した作風だが、彼や同世代のミュージシャンが担ってきた「都市型ポップ」がいまや一つの民間伝承になっているということを象徴したタイトルでもあると思う。

原田知世『Candle Lights』

原田知世 『Candle Lights』 ティザー映像
原田知世『Candle Lights』

 原田知世によるバラードセレクションアルバム。前述の高野寛に加え、細野晴臣、伊藤ゴローによる「Rework」と銘打たれたリミックス3曲(「ラヴ・ミー・テンダー - Haruomi Hosono Rework」/「2月の雲 - Hiroshi Takano Rework」/「銀河絵日記 - Goro Ito Rework」)と、新曲「冬のこもりうた」を収録。また、小沢健二「いちょう並木のセレナーデ」や松田聖子「SWEET MEMORIES」のカバーも収録されている。

 女優として知られる一方、アイスランドでmúmらと共作した2009年の名盤『eyja』など、音楽活動においても着実にキャリアを重ねてきた原田知世。透明感のある歌声の響きを活かした、やわらかく包み込むようなポップスの数々を歌ってきた。近作のプロデュースをつとめる伊藤ゴローを筆頭に、細野晴臣や高橋幸宏などともコラボレーションを繰り広げている。

 彼女の歌にも、どこか「フォークロア=民族伝承」を思わせるところがある。ポップソングのカバーを歌っても、母親が歌って聴かせる子守唄のような響きが生まれる。新曲の「冬のこもりうた」は、世代を超え評判を集める『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』の主題歌。長く愛される1曲になる予感がする。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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