カニエ・ウェスト『Jesus Is King』はゴスペル史にも残る“キング”な作品に? チャートアクションから考察
カニエ・ウェストがはじめて全編ゴスペルに挑んだアルバム『Jesus Is King』が10月25日金曜日に発売されました。1カ月前にリリースがアナウンスされながら延期され、発売当日にもまだ数曲のミックスを修正中との断りツイートがあったため、日本のレコード会社がリリース日時をクイズにするなど、その動向にやきもきする人は多かったはず。11曲で27分強という『Jesus Is King』がその全貌を現すと、驚きや興奮、もしくは複雑な心境など様々なリアクションがSNSに溢れました。
賛否両論あると思しき今作ですが、ゴスペルクワイア(コーラス隊)に所属した経験のある筆者からすれば、たしかに伝統的なゴスペルアルバムとは括れないだろう一方、紛れもないゴスペルアルバムです。ゴスペル界の大御所であるフレッド・ハモンド(偶然にも、今週リリースされたAIのデビュー20周年記念アルバム『感謝!!!!! - Thank you for 20 years NEW & BEST-』において、フレッドの代表曲「No Weapon」がカバーされています)をフィーチャーした「Hands On」における、フレッド独特の声を活かした浮遊感のあるアレンジにも唸った次第。『Jesus Is King』の発表の経緯や内容については、ヒップホップライターの渡辺志保さんによるラジオ番組での解説等、様々なメディアから出ていますので是非そちらをご参照ください。
反応の多さはチャートアクションに如実に表れています。サブスクリプションサービスの再生回数に基づくストリーミング指標を構成要素のひとつとする米ビルボードアルバムチャートにおいて、最新11月9日付で『Jesus Is King』が初登場で首位に(参照:Billboard)。前作『Ye』(2018年)が初週で獲得した208,000ユニットを大きく上回る264,000ユニットを記録しています。アルバムの勢いは、同じくストリーミング指標を一要素とするソングスチャート(Hot 100)でも示され、「Follow God」が7位に入ったのを皮切りに、「Closed On Sunday」が17位、「Selah」が19位など、62位までに11曲全てがランクイン。たとえばSpotifyをみると、アルバムリリース日の米デイリーチャートでは「Follow God」が首位を獲得するなどトップ10内に9曲、15位以内に11曲すべてが登場。翌日も全曲が15位以内に入っており、カニエの音楽に多くの人が注目していたことがよくわかります。その後は大半の曲がダウンし、チャートインから7日目となる10月31日木曜日のデイリーチャートでは「Follow God」が唯一のトップ10入りとなりましたが、それまでの1週間の勢いが米ビルボードソングスチャートにはっきりと表れています。
アルバム収録の全曲が米ビルボードソングスチャートに入ることは、ストリーミング指標に強いヒップホップを中心に時折発生します。最近では9月にリリースしたポスト・マローンが『Hollywood’s Bleeding』で成し遂げているのですが、ゴスペルアルバムという一面を持つ『Jesus Is King』が達成したという事実には驚かずにはいられません。なぜならソングスチャートにゴスペル曲がランクインすることはほぼなく、仮に入ったとしても順位が高いとは決して言えないため。たとえばカニエ・ウェストのアルバム『The Life Of Pablo』(2016年)に参加し、9月には日本公演も行ったカーク・フランクリンは、最新作『Long Live Love』(2019年)からのシングル「Love Theory」がゴスペルソングスチャートで初登場から39週連続で首位を獲得しながらも、ソングスチャートへは未だランクインを果たしておらず、そのカークがこれまでソングスチャートに送り込んだのはわずか4曲のみなのです(God’s Property名義を含む)。他には、姉妹デュオのMary Maryによるデビュー曲「Shackles(Praise You)」(2000年)が最高28位に達しているのですが、ソングスチャートでゴスペルが目立った例はほぼないと言えるかもしれません。一方で『Jesus Is King』は、総合チャートのみならずクリスチャンアルバムチャート、そしてゴスペルアルバムチャートも制し、さらに「Follow God」はゴスペルソングスチャートで「Love Theory」の40週目の首位を阻止、さらにクリスチャンソングスチャートでも、通算66週もの首位を記録していたローレン・デイグル「You Say」からその座を奪取しているのです。