THE PINBALLS 古川貴之の人生に影響を与えた4作品とは? ルーツから浮かぶ根底にある想い

THE PINBALLS古川のルーツ紐解く4作品

「勉強って“したい”ものなんだ」

ーーでは、次はアニメ『ロミオの青い空』について。

古川:『ロミオの青い空』に出会ったのが小学5年生のときだったんですけど……その前の、小学4年生の頃に自分の住んでいた家が売られることになって、すぐ隣の町に引っ越したんですね。ある日、家に帰ると背広を着たちょっと怖そうな大人が10人ぐらいいて、確か庭でタバコを吸っていた人をボスみたいな人が「お前、子どもの前だぞ!」と怒っていたのをよく覚えています。そのボスみたいな人はすごく優しかったんですよ、「ゴメンな」と言ってくれて。その印象が強烈に残っているんですよ。

 で、自分の居場所だと思っていた家がなくなって引っ越して、小学5年生ぐらいのときに『ロミオの青い空』というアニメがテレビで放送されていて。当時はあまりアニメに興味がなかったんですけど、たまたま観たその番組の主人公・ロミオは俺と同じような感じで、自分の居場所がなくなって働かなくちゃいけなくなった子どもだったんです。その光景がちょっと自分の生活と似ていて、気づいたら夢中で観ていたんですよ、「この先どうなるんだろう?」と思いながら。

 その登場人物にアルフレドという友達が出てくるんですけど、すごくカッコいい子で。その子が『白鯨』という本を読んでいるんですけど、すごくそれが大人っぽくてカッコよく見えて。しかも、そのアルフレド自身が素晴らしい人物なので、「自分も本を読んでみたいな」と感化されたんですね。で、学校の図書室で本を読み始めて、人前で読んでみるんだけど、ただ「カッコいいでしょ、俺?」みたいな感じで(笑)。わざと女子生徒の前でそういう姿を見せて、「何読んでるの?」って質問されるまで延々続けていたんですよ(笑)。

ーーなるほど(笑)。まさに形から入ったと。

古川:ええ。それこそ『ライ麦畑でつかまえて』に出会うまでは、本を読むということをちゃんと理解していなかった気がするし。あと、物語の中でアルフレドが「勉強できるって素晴らしい。勉強したい」ってことをよく言っていて。俺は家が売られたときに親から「こういう状況だから、たぶん大学には行かせられない。ゴメンな」という話をされていて。別に愛情はたくさんもらっていたので最初は気にはしてなかったんですけど、「ゴメンね」ってよく言われるようになってからは周りもみんな優しいし、学校の先生もそういう事情を知っているから優しい……そういうのが、ちょっと嫌だったんですね。それがきっかけで荒れた時期もあったんですけど、アニメの中のアルフレドは立派な人間で、本を読んでいて、勉強したいと言っている。家の事情で大学進学はないと思っていた自分にとって、アルフレドの「勉強したい」って言葉は衝撃的なもので、「勉強って“したい”ものなんだ」とびっくりしました。

 結局、アルフレドは物語の途中で亡くなってしまうんですけど、死ぬときロミオに「お前は頑張れ。僕が見られなかったものを見てほしい」って言うんですよね。その言葉が、また自分にとって非常に重く感じられました。

ーーそうだったんですね。ここまで話を聞くと、『ライ麦畑でつかまえて』との出会いは古川くんの人生を大きく動かした出来事でしたし、そのきっかけをくれた『ロミオの青い空』というアニメにも出会ってなかったら、そもそも今の古川くんはないわけですよね。

古川:そうですね。だから最初の地盤をアニメが作ってくれて、真似でも読み続けていればどこかで『ライ麦畑でつかまえて』とぶち当たる運命だったんだなっていう気はします。

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