声優音楽の“今”は、一体どうなってる? 元祖・林原めぐみから新人注目株・イヤホンズまで徹底解説

 声優とはその名の通り、声の芝居に特化した俳優のことを指す。アニメーション作品における声の出演が彼らにとって最もポピュラーな活動の場となる。しかし彼らは“声のスペシャリスト”だ。アニメのみならず、ゲーム作品のキャラクターボイスや、外国映画および海外ドラマの吹き替え、ナレーション、ラジオのパーソナリティなど、いわゆる“プロの声”が求められるありとあらゆる現場がすべて彼らの戦場となるのだ。

 さらに言えば、本来は役者であるはずの彼らが近年、歌手としても活動するケースが珍しくない。むしろ、ある程度以上に名前が売れていながら歌手活動をしていない声優を探すほうが難しいほどで、声優の仕事の中に「歌」が含まれることに疑問を持つ人など、現代ではほとんどいないだろう。

 特筆すべきは、その多くが音楽的にハイクオリティであり、アニメファンや声優ファンのみならず、熱心な音楽ファンからも好意的に受け入れられている点である。本業ではないはずの音楽というフィールドで、なぜ彼らは質の高い仕事をすることができるのだろうか。

声優アーティストの誕生

 近年ではあまり使われなくなったが、“声優アーティスト”という言葉がある。声優でありながらアーティスト活動、つまり音楽活動をしている人たちをそう総称した。声優と歌手を兼任する活動形態自体は、古くは潘恵子の時代から脈々と受け継がれていたものではあるが、明確に“声優アーティスト”という言葉および概念を定着させたオリジネイターは、林原めぐみであると考えられる。

林原めぐみ ソングス

 『らんま1/2』の女らんま役や『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ役、『名探偵コナン』の灰原哀役、『ポケットモンスター』シリーズのムサシ役など、数々の当たり役で知られる林原。1989年にOVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』のイメージソング「夜明けのShooting Star」を歌ったことでシンガーとして注目を浴び、同年にシングル『約束だよ』でCDデビューを果たしている。以降、本人名義でヒット曲を連発する人気シンガーへと成長していった。

 それまで声優の歌手活動と言えば、あくまでアニメのキャラクターとして90秒間の主題歌やノベルティ的な立ち位置に過ぎないキャラクターソングを歌う程度のものでしかなかった。もちろん前述した潘や、のちの笠原弘子など、必ずしもアニメ用ではない楽曲を本人名義で発表していた先人もいるが、声優業と音楽業の両方でビッグビジネスを成立させたケースは林原が最初だ。事実、彼女の成功を契機に“声優アーティスト”の数は一気に増え始める。同時期に人気を博した椎名へきるや國府田マリ子らの活躍もあり、それは“シーン”と呼べるほどの規模に拡大していった。

 なお、林原以前にも飯島真理というビッグネームが存在するが、彼女の場合、声優としての活動はほぼ「超時空要塞マクロス」のリン・ミンメイ役のみ。人気アニメの主要キャラクターを長く務めたことも、歌手として偉大な足跡を残したことも事実だが、「声優と歌手を両立していた」とは言い切れない部分があるため、ここでは先駆者と定義しない。

ラウドロック王政が敷かれる

 声優で初めてソロ歌手として日本武道館公演を行った椎名を始め、同じく初めて『NHK紅白歌合戦』に出場した水樹奈々らは、主にヘヴィなラウドロックサウンドで人気を博した。その影響からか、90年代から00年代にかけての“声優アーティスト”シーンはメタルサウンドが主流であった。同時にアニメソングシーン全体でも同様のサウンド傾向が支持されるようになり、10年代も終わりを迎えようかという現在でもなお、“ベタなアニソン”と言えば「歪んだギターと重いビートで進行するテンポの速いマイナーキーの曲」を指す場合がほとんどだ。

水樹奈々『ETERNAL BLAZE』(NANA MIZUKI LIVE CIRCUS 2013 in 西武ドーム)

 そうした音が好まれた最大の理由は、ライブが盛り上がりやすいことだろう。非日常性が求められがちなアニメ世界との相性がよかったという側面もあるが、声優の音楽ライブはアイドル現場にも似たところがあり、「観客がいかに騒げるか」が重視される傾向にある。ペンライトを振りながら「オイ! オイ!」と勇ましいコールを入れて激しくヘッドをバンギングするためには、アップテンポの8ビートが最も効率的だ。さらに、声優ならではの歌声の太さや伸びやかな高音を最大限発揮するという目的においても、ハードでシリアスな音像は効果的に機能した。

 そうして形成された声優ラウドロックの土壌は、のちの平野綾や喜多村英梨、LiSA、藍井エイルなどにも引き継がれていき、長きにわたって多くのアニソンファンたちを熱狂させ続けている。

 それと同時に、田村ゆかりや堀江由衣に代表されるような80年代的アイドルポップおよびテクノポップ、ファンタジー&シアトリカルポップ路線も一定の支持を得ていた。いわゆるロリータボイスとの相性が抜群であること、ヘヴィロックと同様にファンがオタ芸を打ちやすいことなどがその理由と考えられる。「ライブで燃える」こともさることながら「萌える」ことも重要視されていたからだ。この路線は桃井はるこに受け継がれたことでシーンとして確立され、三森すずこ、小倉唯、春奈るなといった直系のフォロワーを生み続けている。

 いずれにせよ、“声優アーティスト”シーンにおいてライブ現場での機能性が極めて核心的な要素として重用されていたという事実に、疑念を差し挟む余地はない。

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