伊藤美来、西田望見……キャラクターソング、声優ユニットの活動経て生まれたソロ作をピックアップ
2010年代におけるアニメシーンの大きな変化は、演じる声優さんにも大きな変化を与えた。キャラクターソングがヒット作としてオリコンチャートを占め始め、その後数多くの声優が個人/ユニットとして音楽作品を発表する時代へと突入した。端的にいえば「アイドル化」であり、そういった供給を求めるファン層が確かにあったからこそ、多くの声優がアーティストとして次々とデビューすることになったのだ。筆者がこれまで取り上げてきた作品もその潮流のなかにある。そして今回取り上げる伊藤美来と西田望見は、まさに「キャラクターソング」や「声優ユニット」での活動を経て、充実の作品を生み出した2人だ。
伊藤美来『Popskip』
2012年に記念受験した声優オーディションに見事合格し、わずか16歳の頃から声優として精力的に活動してきた伊藤美来。オーディション元となったスタイルキューブの声優ユニット・Stylipsに加入後、オーディションにともに合格した豊田萌絵とPyxisを結成した彼女は、今年7月にソロとして2年ぶりとなる2ndアルバム『Popskip』を発売した。
序文で述べた「2010年代の女性声優シーン」の代表格であるスフィアやi☆Risと同様に、StylipsとPyxisもまた「声優アイドル」グループとして活動していた。伊藤美来は『アイドルマスター ミリオンライブ!』『BanG Dream!』という音楽にまつわる作品にも参加している。彼女はまさしく、2010年代の女性声優シーンの流れを見事にのりこなした一人だといえよう。
そんな彼女も芸歴7年目を迎え、今年で大学を卒業。10月には23歳を迎える。『Popskip』は、すっかり大人びた彼女の姿を捉えた一作となった。
リードトラック「PEARL」は、2000年代の隠れた名盤『Night Buzz』『TALEA DREAM』などを生んだシンガーソングライター・高田みち子が手掛けたシティポップテイストなナンバー。水平線に落ちる太陽と海の煌めきを〈Pearlの縁取り〉と粋に表現し、別れた恋人を思う失恋ソングとなっている。パール(Pearl)の石言葉は「純潔」「健康」「無垢」。歌詞とタイトルで、少女から女性へと変わっていく狭間や大人びていて少しだけアダルトなムードをしっかり表現していることが素晴らしい。まさにその過程の最中にある伊藤にバッチリとハマった1曲なのだ。
今作のキーは、まさにソウル~シティポップなムードにある。実は今作には、歪ませたシンセサイザーを伴ったエレクトロやEDM、ハードなロックソングは1曲もないのだ。オールディーズなムードや流儀を、現在のサウンドや質感に変換してみせたポップソング集にもなっている。クリーンな声色の伊藤の声がきらびやかに響いていくのは、こうしたサウンドの影響も大きいだろう。
約2年にかけて発売されたシングル曲を収録していることを鑑みれば、こうしたサウンドスケープを狙ったのも、彼女の成長と将来を見込んだチョイスだったのだと納得できる。昨今の国内外で起こっているシティポップリバイバルにも共振しそうな充実の2ndアルバムであり、声優のシンガー/アイドル化という潮流にも一石を投じたような作品になった。