Creepy Nuts DJ松永のプレイから考える、DVSがもたらしたターンテーブリズムの進化
Creepy Nutsのライブを見たことのある読者はご存知だろうが、DJ松永のターンテーブル・ルーティン・プレイにおいても、スクラッチやビートジャグリングなどのいわゆる「DJらしい」トリックに加えて、プレイ中にDJミキサー上にあるボタンを押していることが見て取れるだろう。これはボタン操作によってDVSソフトを操作しており、これによって、針を落とし変えなくても瞬時に曲の再生位置を変えたり、別の曲にアクセスしたり、サンプルを鳴らすことが可能になり、さらにその方法論を拡張することによって、ボタン操作によって、ドラムを打ったり、曲を再構築することが可能となった。
加えて、自分で制作した楽曲やサンプリングなどを、アナログに切り直さなくても使えるため、自分が最終形としてイメージするルーティンに必要な楽曲を、自ら作って、それをプレイに落とし込める。それは「既存のレコードを使う」という枠組みを超えたクリエイティブが表現できるということでもある(ただ、例えばDJ BABUのThe Emotions「Blind Alley」を使った古典ルーティンのような、既存のレコードを使って如何にルーティンを再構築するかという面白さもターンテーブリズムの大きな魅力なので、どちらが正しい、面白いという話ではない)。また『DMC JAPAN FINAL』でDJ松永がR-指定のシャウトアウトを使ったように、自ら手に入れた音源や音声を使って、ルーティンを構築したり、バトルにおいては相手を攻撃したりも出来る。これはレゲエで言えばダブプレートのような意味合いもあるが、それがPC上で出来るというのはテクノロジーの発達の大きな恩恵だろう。
他にも、そもそも針すら無いターンテーブル「Rane TWELVE」の登場や、DVSのソフト自体発展によって進化を続けるターンテーブリズム。そういった進化を取り込みながら、非常に切れの良いスクラッチや、ライブや『DMC JAPAN FINAL』で見せるような、足の下から手を伸ばしてのスクラッチや、手を背中側に回してのフェーダープレイなどのボディトリックという、非常に古典にして王道なプレイもルーティンに取り込むDJ松永。その意味では、R-指定が日本語ラップの古典を分析し語る『Rの異常な愛情』という単行本を上梓しながらも、ラッパーとしては最新形も取り込んで進化するように、DJ松永もまた、DVSの最新機能やデジタル化の恩恵をルーティンに取り込みながら、その本質としては、ターンテーブリズムの歴史に対して誠実に向き合っていると感じる。彼が世界戦で優勝まで駆け上がることが出来るのか、刮目して待ちたい。
(文=高木 "JET" 晋一郎)