森口博子が語る、ガンダムソングへの愛とカバーを通した発見「生涯枯れることなく歌い続けたい」

森口博子が語る、ガンダムソングへの愛

歌の奥深さと難しさをあらためて知ってしまった 

ーー井上大輔さんの「哀 戦士」は押尾コータローさんのアコースティックギターをフィーチャーしてカバーされています。

森口:以前、コンサートを観に行って、いつか押尾さんのカッコイイギターでコラボレーションしたいと思っていました。実現できてとても嬉しいです。この曲に関しては、カバーが決まる前からザ・ベストテンで井上大輔さんが熱唱している映像をネットで観たんですけど、もうね、とんでもなくかっこよくてアグレッシブなシビれる歌声だったんですよ。号泣! 富野(由悠季)監督の書かれた〈名を知らぬ戦士を討ち/生きのびて血へど吐く〉っていう歌詞もあらためて突き刺さってきましたし。そんな衝撃を抱いてのレコーディングだったので、テンション高く、エネルギーに満ちた状態で臨むことができました。「女の子なのにこんなに力強く歌えてビックリした」って(笑)。押尾さんに言われました(笑)

ーー押尾さんの演奏がその力強い歌声を引き出してくれたところもあったでしょうし。

森口:うんうん、まさにそうですね。スラップを使ったパーカッシブな音色があったかと思えば、時にはものすごくあたたかい演奏もしてくださる。私は勝手に“押尾余韻”って呼んでるんですけど(笑)、その心地よくも力強いサウンドを全身に纏いながら、この曲は突き抜けて歌うことができましたね。

ーー「哀 戦士」と同様に、「めぐりあい」も井上大輔さんの楽曲ですね。これがまた衝撃的な仕上がりで。

森口:全編アカペラで作り上げました。メインボーカル・森口博子と30人のコーラス・森口博子、合計31人分の声を1人で録ったっていう。気の遠くなる作業でしたけど(笑)、ミルフィーユのように声を丁寧に重ねていった先にどんなものが生まれるのかを想像するのが楽しくて。で、最後にすべての声が合わさった瞬間の感動と興奮はもうたまらなかったですね。神聖なる新たな「めぐりあい」が誕生したんじゃないかなって自負しています。先日、この曲をチャペルでのコンサートで初披露させて頂きましたが、とっても神秘的な世界に!涙するファンの方もいて、グッときました。

ーー森口さんが新たな息吹を注ぎ込んだこの2曲のカバーは、きっと井上大輔さんのもとにも届いているんじゃないでしょうか。

森口:そうだったらうれしいですね。今回のランキングで井上さんも2曲選ばれているんです。井上さんの曲は本当に素晴らしいんだなってあらためて打ち震えました。こんな名曲を残して下さり、そしてカバーさせていただいてありがとうございますっていう気持ちを直接お伝えすることが叶わないのが寂しいですね。私のこの思いが届いているといいな……そんな気持ちでレコーディングしていたところもありました。

ーー田ノ岡三郎さんのアコーディオンが響く「嵐の中で輝いて」(米倉千尋)も素敵ですね。

森口:アルゼンチンタンゴを彷彿させるような田ノ岡さんのアコーディオンがすごく情熱的ですよね! この曲も同時レコーディングだったんですけど、現場はもうライブのような雰囲気でした。田ノ岡さんは、ご自身のヘッドフォンが何度も外れるくらいアクティブな演奏をされるんですよ。そこで生まれるパッションを受け取りながら、私もライブのような感覚で歌うことができました。

ーーそんなお話を聞くと、ライブでの共演にも期待してしまいますよね。

森口:でしょ! 田ノ岡さんとも、「これはお客様の前でもぜひ演奏したいですよね」みたいなお話をしていたので、実現できたらいいですね。この曲って、メロディはすごくキャッチーなんだけど、〈嵐の中で輝いて〉っていう歌詞にはすごくドキッとさせられますよね。普通、嵐の中にいたら一度、立ち止まろうと思うものだけど、それでも諦めずに輝いてと願う。その精神力の強さの裏には、大きな愛があるんですよね。毎年、スーパーロボット魂というアニソンフェスでご一緒している、エネルギッシュな米倉千尋さんのこの楽曲を今回カバーさせていただいたことで、この曲がもっているそんな魅力をあらためて感じさてもらうことができたのもうれしかったです。あと、「BEYOND THE TIME~メビウスの宇宙を超えて」(TM NETWORKS)はレコーディングの前日に木根(尚登)さんに電話して、ランキングに入った喜びを2人で分かち合ったんですよ。「すごいね!」って言いながら(笑)。

ーーこの曲はケーナの音が印象的に使われていますね。

森口:そうそう。曲の後半でケーナをふんだんに使っているんですよ。南米の楽器なんですけど、ガンダムの世界に入ると、その音色が途端にグローバルな音として響いてくる印象があったんですよね。そんな部分でも、やっぱりガンダムの世界は無限大だなって感じました。途中で転調するところなんかは、極限の中で生き抜く兵士の孤独感や緊張感みたいなものをすごく感じて、改めてさすが小室(哲哉)さんだなって思ったりもしましたね。

ーー猪野秀文さんが鍵盤で参加している「JUST COMMUNICATION(TWO-MIX)」も打ち込み系の原曲とは大きく様変わりして、新たな魅力を放っています。

森口:原曲は打ち込みなんだけど歌謡曲テイストのメロディや歌詞にキュンとしちゃう感じがあって。以前、『KING SUPER LIVE 2015』で後輩のみなさんとあのさいたまスーパーアリーナで熱唱しました。一度聴いただけで、好きになったんです。何と作曲は、私の「水の星へ愛をこめて」をアレンジしてくださった馬飼野康二さんだったんですよ! そのつながりもすごくうれしかったですね。「だから私に響いたんだな」って。今回のアレンジに関しては、猪野さんのフェンダーローズの音色がとてもおしゃれで、優しい仕上がりになりました。フェンダーローズって、1940年代に兵士たちの慰問のために作られた電子ピアノらしいんですよ。

ーー “兵士”という部分ではガンダムにリンクするところもありますね。

森口:そうなんです! この曲でフェンダーローズを使っていただいたのは偶然ではあるんですけど、私としてはガンダムの世界の兵士たちに捧げる気持ちで歌ったところがありました。今回の制作においては、いろいろな発見があったし、偶然が重なって必然のようになってくる瞬間をたくさん感じることができましたね。

ーー今回は年代様々な楽曲が収録されていますが、Uruさんの「フリージア」やAimerさんの「RE:I AM」は比較的最近のガンダムソングですよね。

森口:まず「フリージア」は、本当に魂震える名曲だと思います。昭和生まれの私が、平成のガンダムソングに出会い、こうやってカバーさせていただけたことに感謝ですね。Uruさんの描いた儚い詞の世界に、今回は塩谷(哲)さんの美しいピアノがマッチするアレンジに仕上がりました。“ピアニッシモの王子”と呼んでいる塩谷さんならではの繊細な音色に導かれて、今までにないほどにクリアな声を響かせることができました。この曲に漂うはかなさと強さを感じると、つい泣けてきちゃいますね。

ーー「RE:I AM」ではアコースティックインストゥルメンタルユニット・TSUKEMENと共演されていますね。

森口:実はこの曲が一番難題だなと思っていました。スケールのあるAimerさんの絞り出すような歌声は本当に唯一無二なもので、聴いているみなさんもそのイメージがきっと強いはずなんですよね。だから、あとでディレクターさんに言われましたけど、レコーディング当日はかなりすごい形相でスタジオに入ってきたらしくって(笑)。

ーーどう歌おうか思い詰めていたのでしょうか。

森口:「難しい、どうしよう。難しい!」って思ってたから。前日も不安で眠れなかったし(笑)。ただ、TSUKEMENさんとの同時レコーディングで不安が一気に取り払われた感覚があったんですよ。あの3人の絆が生み出すハーモニーがあまりにも美しく、瑞々しかったので、私もそこに溶け込んで、心を解き放って歌うことができました。

ーーもう1曲、「Z・刻をこえて」はどうでしたか? 

森口:この曲は艶やかな鮎川麻弥さんが歌っていらっしゃいます『機動戦士Zガンダム』の前期のオープニングです。後期のオープニングが私のデビュー曲「水の星へ愛をこめて」だったんですよ。『KING SUPER LIVE 2018』では鮎川麻弥さんとこの2曲をメドレーで歌い、東京ドームに集まってくれた3万7000人のファンのみなさんとひとつになれた思い出もあるので、特に思い入れの強いカバーになりましたね。ファンキーでソウルフルなアレンジに関しては、後半に向けて高まっていくグルーブ感を大事に。オリジナル以上にホーンの音数を増やしてもらったりもしましたね。ほんとに素敵なアレンジになったし、曲への思い入れも相まって、歌入れはものすごく熱い感じになっちゃいました。エナジー全開で(笑)。

ーー今回、ガンダムソングの数々を歌唱してみて、ボーカリストとして新たな発見があったりもしましたか?

森口:ありました! それは、「あー、私は今まで何をやってきてたんだろう」っていう、いい意味での反省。歌の奥深さと難しさをあらためて知ってしまった感じなんですよね。今までだったら普通にクリアしていたことでも、「あ、こういう感じ方もあるんだ」とか「こんな声の出し方もあるんだな」とか、いろいろな気づきがあって。

ーーその気づきは、ここからの活動に対しての大きなモチベーションにもなるのかもしれないですね。

森口:そうですね! デビューから34年歌わせて頂き、今まで通りの歌い方でもそれはそれで成立するものだとは思うんですよ。みなさんのイメージもそこにあるわけだから。でも、今まで通りをキープするにも進化していないとキープはできない。そこへボーカリストとしてさらに成長したいと思ったら、今回の経験で得た気づきをしっかり自分のものにしていくべきだなって。もっといろんなタイプの楽曲を、いろんな表情で歌ってみたいなっていう欲も出てきましたしね。あらためて「まだまだだな、自分」って思いました(笑)。

ーーデビューから34年を経てもなお現在進行形であることは本当に素晴らしいですよね。

森口:生涯、発展途上の現役でありたいですからね。あのアニキ(水木一郎)が、70歳のバースデイライブのときに「身体は枯れても、声は枯れない」って言ったんです! 私、その場ですぐメモりましたから(笑)。本当にその通りだなって。身体の変化はいろいろあったとしても、生涯枯れることなく歌い続けたいですからね。私はよくエゴサをするんですけど(笑)、歌に関してけっこうお褒めの言葉をいただいてることが多くて。「年齢を重ねて、ますます表現力が増している」とか。でも、その言葉に甘んじることなく、もっともっと成長していかないとなって思います。令和を迎えてもなおシリーズが途絶えないガンダムという無限のエナジーを放つ作品の主題歌を歌わせていただいている以上、私も同じ場所にとどまっているわけにはいかないですから。その幸せな使命をこれからも全うしていきたいと思います。

ーー今夏は『森口博子ライブツアー2019~おかげSummer・おつかれSummer!!~』で4都市を巡り、その後9月7日に開催される『GUNDAM 40th FES.“LIVE-BEYOND”』への出演も決まっています。

森口:このアルバムは、色々な出来事、時代を乗り越えてきたファンのみなさんとの絆が詰まっています。一緒に創ったアルバムです。なので、ライブという空間で楽曲を共有することで、私たちの歴史を一緒に振り返りたいと思ってます。そして、「~“LIVE-BEYOND”」ではガンダム愛をみんなで響かせ合いつつ、ノスタルジーを感じながらも、未来につながるエネルギーを爆発させる日にしたいですね。楽しみにしていてください!

(取材・文=もりひでゆき/写真=三橋優美子)

『GUNDAM SONG COVERS』©創通・サンライズ

■リリース情報
『GUNDAM SONG COVERS』
発売:2019年8月7日
<数量限定生産盤>
価格:¥4,000(税抜)
【数量限定生産盤仕様】
・SPECIAL①
LPサイズダブルジャケット仕様
(キャラクターデザイン:ことぶきつかさ 描き下ろし)
・SPECIAL②
LPサイズブックレット封入
・SPECIAL③
オリジナルステッカー封入
(キャラクターデザイン:ことぶきつかさ 描き下ろし)
・SPECIAL④
紙ジャケットCDケース封入
(キャラクターデザイン:ことぶきつかさ 描き下ろし)

<通常盤>
価格:¥3,000(税抜)

【収録内容】
01.水の星へ愛をこめて / with 寺井尚子 (「機動戦士Ζガンダム」オープニングテーマ)
02.哀 戦士 / with 押尾コータロー (「機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」主題歌)
03.ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~ (「機動戦士ガンダムF91」主題歌)
04.BEYOND THE TIME ~メビウスの宇宙を越えて~ (「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」主題歌)
05.嵐の中で輝いて / with 田ノ岡三郎 (「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」 オープニングテーマ)
06.フリージア / with 塩谷哲 (「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」エンディングテーマ)
07.JUST COMMUNICATION / with 猪野秀史 (「新機動戦記ガンダムW」オープニングテーマ)
08.めぐりあい (「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」主題歌)
09.Ζ・刻をこえて (「機動戦士Ζガンダム」オープニングテーマ)
10.RE:I AM / with TSUKEMEN (「機動戦士ガンダムUC episode 6「宇宙と地球と」」主題歌)
11.宇宙の彼方で [Bonus Track] (「機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV 運命の前夜」主題歌)

■ライブ情報
『森口博子ライブツアー2019~おかげSummer・おつかれSummer!!~』
【福岡公演】
8月17日(土) Gate’s7
【名古屋公演】
8月25日(日) 名古屋ブルーノート
【大阪公演】
8月26日(月) ビルボードライブ大阪
【東京公演】
9月1日(日) ヒューリックホール東京

『GUNDAM 40th FES.”LIVE-BEYOND”』
9月7日(土) 17:00開場/18:00開演
9月8日(日) 16:00開場/17:00開演
【会場】幕張メッセイベントホール
【出演者(50音順)】
[9/7(土)] SKY-HI、西川貴教、森口博子、LUNA SEA ・・・and more
[9/8(日)] 澤野弘之/SawanoHiroyuki[nZk]、BACK-ON、May J.、森口博子、LUNA SEA ・・・and more

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